気象学を学ぶ中で、多くの方がつまづくポイントが「温度風」です。
温度風は 暖気移流 や 寒気移流 と密接に関係し、特に地衡風の変化を説明する概念として、とても重要です。
しかし、参考書には「温度風とは地衡風の鉛直シアのこと」と簡単に片付けられていることが多く、なかなか理解するのが難しいと思います。
(正直、私も何度も挫折しました。)
では、なぜ「温度風」は理解しにくいのか? そして、どうすれば理解できるのか?
ここでは、温度風の仕組みやその役割を、初学者でもイメージしやすいように、分かりやすく徹底的に解説します。
この記事を読めば、「温度風」がもつ意味や仕組みを理解できるだけでなく、試験対策もバッチリできるようになりますよ。
温度風とは?
まずは、温度風を理解するための前提知識として、地衡風を説明します。
【前提知識】地衡風とは?
地衡風(ちこうふう)とは、気圧傾度力(気圧差が生む力)とコリオリ力(地球の自転による見かけの力)が釣り合って吹く風のことです。
地衡風は、北半球では気圧が低い方を左側に、気圧が高い方を右側に見ながら吹きます。
また、等圧線に沿って平行に吹き、気圧傾度が大きいほど、地衡風の風速は大きくなります。
温度風とは?
温度風(おんどふう)とは、実際に吹いている風ではなく、地衡風の鉛直シア(=鉛直方向に並んだ2点間の風ベクトルの差)を表している風のことです。
もっと簡単にいうと、高度の違いによって生じる風の「違い」を表す概念です。
概念なので、実際に吹いている風ではなく、下層と上層の地衡風の差(=鉛直シア)を表したものです。
そう言われてもよく分からないよ〜
地衡風の鉛直シア?実際に吹いている風じゃないってどういうこと?
大丈夫!
一歩一歩、丁寧に解説していくから諦めずについてきてね!
地衡風は、同じ地点でも、高度によって風向や風速が変化します。
例えば、下図のように、下層と上層の地衡風が観測されていたとします。
このとき、下層風のベクトルの先から、上層風のベクトルの先に向かって引いたベクトル、つまり、鉛直方向の風向・風速の違い(=鉛直シア)を、温度風(または 温度風ベクトル) といいます。
したがって、温度風とは、鉛直方向に見た2点間の風ベクトルの差のことですので、実際に吹いている風ではありません。
温度風は、地衡風の鉛直シアを表したもので、実際に吹いている風じゃないんだね。
じゃあ、そもそも、温度風(地衡風の鉛直シア)はどうやって生まれるの?
温度風(地衡風の鉛直シア)は、平均気温の水平温度傾度によって生じるんだ!
じゃあ、次は温度風が生じる仕組みを見ていこう!
温度風が生じる仕組み
まずは、温度風が生じる仕組みを理解するための前提知識として、層厚を説明します。
【前提知識】層厚とは?
層厚 とは、大気中の2つの異なる等圧面間の垂直距離のことで、簡単に言うと、空気の厚さのことです。
層厚は気層の平均気温に比例します。
つまり、暖かい大気の層厚は大きく、冷たい大気の層厚は小さくなります。
温度風が生じる仕組み
温度風(=地衡風の鉛直シア)は、2層間(=下層から上層にかけて)の 平均気温の水平温度傾度 によって生じます。
具体的には、次の3ステップで説明できます。
① 水平方向の温度差によって、気圧差が生じる
② 水平方向の気圧差によって、地衡風が生じる
③ 下層と上層の地衡風の違いによって、温度風が生じる
では、順に見ていきましょう。
① 水平方向の温度差によって、気圧差が生じる
暖かい場所では空気が膨張して気圧が高くなり、冷たい場所では空気が圧縮して気圧が低くなります。
つまり、水平方向に温度差(水平温度傾度)があると、それによって気圧差(水平気圧傾度)が生じます。
② 水平方向の気圧差によって、地衡風が生じる
この気圧差によって、気圧傾度力が生じ、地衡風(気圧傾度力とコリオリ力が釣り合って吹く風)が吹きます。
③ 下層と上層の地衡風の違いによって、温度風が生じる
一般に、水平温度傾度がある場合、(層厚の考え方から)上層の方が気圧傾度が大きく、地衡風も上層ほど強くなります。
このように、水平方向の温度差によって、地衡風が高度とともに強くなる関係のことを 温度風の関係 といいます。
また、下層と上層では環境場も異なるため、等圧線の走向も下層から上層にかけて常に同じとは限りません。
これによって生じる、異なる高度間における地衡風の風速や風向の変化(鉛直シア)のことを 温度風 といいます。
つまり、水平温度傾度が大きいほど、地衡風の鉛直シアも大きくなるため、温度風も大きくなります。
「温度風」と「温度風の関係」は、名前は似てるけど、意味は違うものだから気をつけてね!
温度風(温度風ベクトル):異なる高度間における地衡風の鉛直シアのこと。
温度風の関係:水平温度傾度によって、高度とともに風向や風速が変化する仕組みを説明する理論のこと。
つまり、下層と上層の地衡風の違いが温度風を生む要因であり、その背景にある理論が温度風の関係です。
温度風は、平均気温の水平温度傾度によって生じるのか。
じゃあ、温度風って何がそんなに重要なの?
温度風には重要な性質が3つあるよ!
じゃあ、それぞれ見ていこう!
温度風の3つの性質
温度風には、下記3つの重要な性質があります。
① 温度風は、異なる高度間の平均気温の等温線に平行に吹く
② 温度風は、等温線の高温側を右手に見て吹く(北半球の場合)
③ 異なる高度間の平均気温の水平温度傾度が大きいほど、温度風は強い
これらの性質は、試験でもよく出題されていますので、しっかり理解しておきましょう。
① 温度風は、異なる高度間の平均気温の等温線に平行に吹く
温度風は、異なる高度間の平均気温の等温線に平行に吹きます。
つまり、下層と上層の地衡風ベクトルの差(風の鉛直シア)が、異なる高度間の平均気温(=層厚温度)の等温線と平行になるということです。
② 温度風は、等温線の高温側を右手に見て吹く(北半球の場合)
北半球では、温度風は等温線の「高温側を右手」に見て吹きます。
(南半球では、高温側を左手に見て吹きます。)
暖かい場所では空気が膨張して気圧が高くなり、冷たい場所では空気が圧縮して気圧が低くなります。
この気圧差により、空気は高圧側から低圧側へ流れようとしますが、コリオリ力で右に曲げられて、結果的に温度風は等温線に平行に吹くため、「高温側を右手」に見る位置関係になるのです。
上図の例では、温度風は画面奥に向かって吹いています。
あれ?でも、それって地衡風の説明でも聞いたような…。
地衡風は等圧線に平行に吹く風だから、等温線に平行に吹くとは限らないんだ!
大気中の等圧面と等温面が交差している状態を傾圧大気といって、地衡風が等温線を横切って吹くことで、暖気移流や寒気移流に繋がるんだ!
地衡風:ある高度面での等圧線に平行に吹く。
温度風:異なる高度間の平均気温の等温線に平行に吹く。
傾圧大気(大気中の等圧面と等温面が交差している状態)において、地衡風が等温線を横切って吹くことで、暖域移流や寒気移流となる。
③ 異なる高度間の平均気温の水平温度傾度が大きいほど、温度風は強い
温度風の強さ(=温度風ベクトルの長さ)は、異なる高度間の平均気温の水平温度傾度に比例します。
つまり、短い距離で急激に温度が変わるほど、その間の等温線が密になり、温度風が強くなる(=温度風ベクトルが長くなる)ということです。
下図は、温度風と等温線の関係を表したイメージ図です。
上図では、温度風はいずれも同じ向きに吹いていますが、右図の方が、等温線の間隔が狭い分、温度風が強く(温度風ベクトルの長さが長く)なっていることが分かります。
温度風は、等温線に平行に吹いて、温度差が大きいほど強くなるんだね。
温度風の性質は分かったけど、じゃあ温度風は何がそんなに便利なの?
温度風が便利なのは、温度移流が分かるからなんだ!
つまり、温度風を考えることで、その場所が暖気移流なのか寒気移流なのかを判断することができるんだ!
じゃあ、それぞれ見ていこう!
暖気移流と寒気移流
温度風を用いることで、その地点での温度移流(暖気移流か寒気移流)を判断することができます。
まずは、暖気移流と寒気移流を理解するための前提知識として、温度移流 と ホドグラフ について説明します。
【前提知識】温度移流
温度移流 とは、風によって温度の異なる空気が移流することです。
例えば、下図のように、上側に 12℃ の等温線があり、下側に 15℃ の等温線が引かれているとします。
このとき、12℃ の等温線の方角が寒気側となり、15℃ の等温線の方角が暖気側ということになります。
暖気側から寒気側に向けて吹く風、つまり、15℃ の等温線の方向から 12℃ の方向に向けて吹く風のことを 暖気移流 といいます。
逆に、寒気側から暖気側に向けて吹く風、つまり、12℃ の等温線の方向から 15℃ の方向に向けて吹く風のことを 寒気移流 といいます。
また、等温線に沿って風が吹く場合は、暖気側からも寒気側からも風は吹いていないので、移流なし となります。
【前提知識】ホドグラフ
ホドグラフ とは、異なる高度の風の成分をベクトル(矢印の方向と長さ)で表現して、地上に投影した図のことです。
また、下図のように、下層風のベクトルの先端から、上層風のベクトルの先端に向けて描いたベクトルが、温度風(温度風ベクトル)です。
このホドグラフを使うことで、その地点での温度移流を判別することができるようになります。
暖気移流
結論から言うと、北半球において、風向が上層に向かって時計回りに変化する場合、暖気移流 となります。
(逆に、南半球では、風向が上層に向かって時計回りに変化する場合、寒気移流となります。)
例えば、下図のように、下層から上層にかけて風向が時計回りに変化しているとします。
温度風は、等温線に平行に、暖気側を右手に見るように吹きますので、下層と上層の風は暖気側から寒気側へ風が吹いていることになります。
したがって、風向が上層に向かって時計回りに変化する場合、暖気移流 となるのです。
でも、暖気は普通、南にあるから、上図のように南寄りの風で暖気移流になるのは当然じゃないの?
もし、北寄りの風が吹いた場合でも、この関係は成立するの?
いい疑問だね!
実は、北寄りの風でも、この関係は成立するよ!
では、下層と上層の風が北寄りの風で、上空に向かって風向が時計回りに変化する場合を考えてみましょう。
上図は、下層も上層も北寄りの風であり、風向は上層に向かって時計回りに変化しています。
この場合でも、下層風と上層風は、温度風の右側から、つまり、暖気側から寒気側へ風が吹いていることが分かります。
したがって、下層と上層の風が南寄りであろうが、北寄りであろうが、上層に向かって風向が時計回りに変化する場合、暖気移流 となるのです。
寒気移流
逆に、北半球において、風向が上層に向かって反時計回りに変化する場合は、寒気移流 となります。
(逆に、南半球では、風向が上層に向かって反時計回りに変化する場合、暖気移流となります。)
例えば、下図のように、下層から上層にかけて風向が反時計回りに変化しているとします。
温度風は、等温線に平行に、暖気側を右手に見るように吹きますので、下層と上層の風は寒気側から暖気側へ風が吹いていることになります。
したがって、風向が上層に向かって反時計回りに変化する場合、寒気移流 となるのです。
じゃあ、南寄りの風でも寒気移流になるか考えてみよう!
上図は、下層も上層も南寄りの風であり、風向は上層に向かって反時計回りに変化しています。
この場合でも、下層風と上層風は、温度風の左側から、つまり、寒気側から暖気側へ風が吹いていることが分かります。
したがって、下層と上層の風が南寄りであろうが、北寄りであろうが、上層に向かって風向が反時計回りに変化する場合、寒気移流 となるのです。
温度移流の強さ
温度移流は、水平温度傾度が大きく、風が等温線をより強く、より垂直に横切るほど、強くなります。
水平温度傾度が大きいと言うことは、温度風のベクトルが大きいということです。
また、風が等温線をより強く、より垂直に横切るということは、下層風と上層風のベクトルが大きく、温度風に対してより直角に風が吹いているということです。
言い換えると、温度移流は、下層風、上層風、温度風で囲まれた三角形の面積が大きいほど、強いということができます。
例えば、下図のような3つの温度風を考えた時、温度移流が大きい順に並べるとどうなるでしょうか?
三角形の面積が大きい順に並べればいいから、B > A > C だね!
正解!ここまでよく頑張ってついてきたね!
最後に、温度風に関する過去問を解いて終わりにしよう!
試験での出題例
では最後に、試験で実際に出題された問題を解いて、温度風の知識を定着させましょう。
【第58回】2022年8月試験(学科一般試験)問6
(問題)(a) 〜 (d) の中で、下記ア〜ウをすべて満たすものを選べ。
ア:寒気移流場である
イ:平均気温が西側の方が高い
ウ:水平温度勾配が最も大きい
解説
ここまで頑張って読んできた人は、何となく解き方のイメージが沸くんじゃないかな?
では、それぞれ解説していきましょう。
地点(a)
ア:北半球で風向きは下層から上層に向かって時計回りなので、暖気移流。
イ:北半球で温度風は南向きなので、西側の方が気温が高い。
ウ:水平温度勾配は、温度風ベクトルの大きさなので、2となる。
地点(b)
ア:北半球で風向きは下層から上層に向かって反時計回りなので、寒気移流。
イ:北半球で温度風は北向きなので、東側の方が気温が高い。
ウ:水平温度勾配は、温度風ベクトルの大きさなので、4となる。
地点(c)
ア:南半球で風向きは下層から上層に向かって時計回りなので、寒気移流。
イ:南半球で温度風は東向きなので、北側の方が気温が高い。
ウ:水平温度勾配は、温度風ベクトルの大きさなので、2となる。
地点(d)
ア:南半球で風向きは下層から上層に向かって時計回りなので、寒気移流。
イ:南半球で温度風は北向きなので、西側の方が気温が高い。
ウ:水平温度勾配は、温度風ベクトルの大きさなので、4となる。
したがって、条件ア、イ、ウを全て満たすのは (d) となります。
他にも温度風に関する過去問をピックアップしたからチャレンジしてみてね!
解説は順番に作っていくから待っててね!
まとめ
あれもこれもと書いていると、とても長い記事になってしまいました。
最後に、大事なポイントをおさらいです。
- 温度風(温度風ベクトル)とは、地衡風の鉛直シアのことで、実際に吹いている風ではない。
- 温度風の関係 とは、水平方向の温度差によって、地衡風が高度とともに強くなる関係のこと。
- 温度風は、2層間の平均気温の水平温度傾度によって生じる。
- 温度風は、異なる高度間の平均気温の等温線に平行に吹く。
- 北半球において、温度風は、等温線の高温側を右手に見て吹く。
(南半球では、高温側を左手に見て吹く。) - 異なる高度間の平均気温の水平温度傾度が大きいほど、温度風は強い。
- 北半球において、風向が上層に向かって時計回りに変化する場合は、暖気移流 となり、
反時計回りに変化する場合は、寒気移流 となる。
(南半球では、時計回りで寒気移流、反時計回りで暖気移流となる。) - 温度移流は、下層風、上層風、温度風で囲まれた三角形の面積が大きいほど、強い。
温度風は苦手意識があったけど、この記事を読んだら、とてもよく理解できたよ!
早く本番の試験で温度風の問題を解いてみたいな!
温度風は受験生がつまづきやすいからこそ、試験ではよく出題されているよ!
暗記じゃなくて、理屈で覚えると、知識として定着しやすいよ!
1回読んで理解できなくても、繰り返し読んで、理解を深めていこうね!
“温度風の基礎知識”. 気象予報士の実技試験に役立つ情報. 2023年1月7日.
https://kishounomoto.com/2023/01/07/%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E9%A2%A8%E3%81%AE%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E7%9F%A5%E8%AD%98/.(参照日 2024-11-02).
北上大. “温度風を徹底的に解説する”. めざてんサイト. https://kishoyohoshi.com/archives/5322.html.(参照日 2024-11-02).
(謝辞)本記事の作成にあたり、上記だけでなく、さまざまなサイトや参考書を参考にさせていただきました。この場をお借りして、心より御礼申し上げます。
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