問13
大雨警報や洪水警報の発表基準に用いられている各種指数について述べた次の文 (a) 〜 (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。
(a) 地形勾配のみが異なり、他の条件 (土地利用状況や地質など) が同じ2地点において、同じ時間に、同じ量の雨が降った場合、地形勾配の大きい地点の方が表面雨量指数の値は大きくなる。
(b) 同一地点においては、土壌雨量指数の値が大きいほど土砂災害の危険性が高いが、異なる2地点においては、値の大きい地点の方が土砂災害の危険性が高いとは限らない。
(c) 河川の上流域で雨が降ると、下流域の流域雨量指数の値は時間が経過してから大きくなるが、値が大きくなるタイミングは上流域の雨量が多い場合も少ない場合もほぼ同じである。
本問は、表面雨量指数、土壌雨量指数、流域雨量指数に関する問題です。
本問の解説:(a) について
(問題)地形勾配のみが異なり、他の条件 (土地利用状況や地質など) が同じ2地点において、同じ時間に、同じ量の雨が降った場合、地形勾配の大きい地点の方が表面雨量指数の値は大きくなる。
→ 答えは 誤 です。
表面雨量指数 は、降った雨が地表にどれだけ溜まっているかを示す指標で、以下の式で表されます。
表面雨量指数 = タンク流出量 × 地形補正係数

タンク流出量 とは、降った雨が地面に浸透した後、地表面から流出する水の量をタンクモデルで計算したもので、土地の利用状況や地質に応じた浸透や流出の特性を反映しています。
地形補正係数 とは、地形の勾配を考慮して指数を調整するためのもので、勾配が急な場所ほど水が速く流れやすいため、この係数は小さくなります。
つまり、同じ雨量でも勾配が大きい場所では地形補正係数が減少し、その結果、表面雨量指数の値は小さくなります。
したがって、地形勾配のみが異なり、他の条件 (土地利用状況や地質など) が同じ2地点において、同じ時間に、同じ量の雨が降った場合、地形勾配の大きい地点の方が表面雨量指数の値は「大きくなる」ではなく「小さくなります」ので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)同一地点においては、土壌雨量指数の値が大きいほど土砂災害の危険性が高いが、異なる2地点においては、値の大きい地点の方が土砂災害の危険性が高いとは限らない。
→ 答えは 正 です。
土壌雨量指数 とは、降った雨による土砂災害の危険度の高まりを把握するための指標です。

大雨に伴って発生する土砂災害(がけ崩れ・土石流)には、現在降っている雨だけでなく、これまでに降った雨による土壌中の水分量が深く関係しています。
このため、土壌雨量指数では、降った雨が土壌中に水分量としてどれだけ溜まっているかを、タンクモデルを用いて数値化しています。
(土壌雨量指数の式は、直列3段タンクモデルにおける各タンクの貯留高の和で表されます。
正直、この計算式まで覚えなくてもいいかなとは思いますが、詳しく知りたい方は気象庁ホームページ「土壌雨量指数」を読んでみてください。)
土壌雨量指数は、1km四方の範囲で全国共通のパラメータを使って算出されており、植生や地質、風化の状態など地域ごとの特徴は考慮されていません。
そのため、同じ地点であれば土壌雨量指数の値が大きいほど土砂災害の危険性が高いと判断できますが、異なる地点同士で単純に値を比較してどちらがより危険かを判断することはできません。
これは、土砂災害の発生しやすさが地質や植生の違いによって大きく変わるためです。
したがって、同一地点においては、土壌雨量指数の値が大きいほど土砂災害の危険性が高いですが、異なる2地点においては、値の大きい地点の方が土砂災害の危険性が高いとは限りませんので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)河川の上流域で雨が降ると、下流域の流域雨量指数の値は時間が経過してから大きくなるが、値が大きくなるタイミングは上流域の雨量が多い場合も少ない場合もほぼ同じである。
→ 答えは 誤 です。
流域雨量指数 とは、河川の上流域に降った雨が下流の洪水危険度に及ぼす影響を数値化した指標です。
流域雨量指数は、全国の約20,000河川を対象に、流出過程と流下過程から計算します。

流出過程 とは、上流域で降った雨が、地中への浸透や地表への流出を経て河川に到達する過程のことで、タンクモデルを用いて計算されます。
(タンクモデル とは、複数に連ねたタンクによって、雨水の地中への浸透や河川への流出の様子を模式化したものです。)
流下過程 とは、河川に流入した水が下流に向かう過程のことで、運動方程式(マニングの平均流速公式)と連続の式(水量の保存則)用いて計算されます。
(マニングの平均流速公式とは、水深が深く勾配が大きくほど流れが速くなること等を表す運動方程式です。)
(水量の保存則 とは、河川を細かく区切った区間を出入りする水の量(上流から流れてくる水、下流へ流れる水、その地点の降雨によって増える水)の増減を表す式です。)
流出過程で河川に流入する雨水の量(流出量)を算出し、
流下過程で下流に流下する雨水の量(流下量)を算出し、
求めた流下量(立方メートル/秒)の平方根をとった値を流域雨量指数としています。

つまり、上流域の雨量が多いほど、短時間で大量の水が河川に流出するため流出量は大きくなります。
また、河川に流出した雨水は短時間で下流に到達するため、流下量も大きくなります。
その結果、流域雨量指数が大きくなるタイミングも早くなります。
逆に、上流域の雨量が少ないほど、雨水が河川に流出するまでに時間がかかるため流出量は小さくなります。
また、河川に流出した雨水も少ないため、流下量も小さくなります。
その結果、流域雨量指数が大きくなるタイミングも遅くなります。
したがって、河川の上流域で雨が降ると、下流域の流域雨量指数の値は時間が経過してから大きくなりますが、値が大きくなるタイミングは「上流域の雨量が多い場合も少ない場合もほぼ同じ」ではなく、「上流域の雨量が多いほど早い」ので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 正 (c) 誤 とする 4 となります。
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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