問9
台⾵について述べた次の⽂ (a) 〜 (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から 1 つ選べ。
(a) ⼀般に、台⾵は海⾯⽔温が 26 〜 27℃ 以上の海域で発⽣する。これは台⾵の発⽣・発達に海⾯からの潜熱の供給が必要なためである。
(b) 発達中の台⾵において、台⾵中⼼へ向かう動径⽅向の⾵の成分は、⾼度⽅向に⾒ると⼤気境界層の中で最⼤となっている。
(c) 台⾵中⼼付近の対流圏中層の接線⽅向の⾵は傾度⾵とみなすことができ、気圧傾度が同じであれば、地衡⾵よりも強くなっている。
本問は、台風に関する問題です。
本問の解説:(a) について
(問題)⼀般に、台⾵は海⾯⽔温が 26 〜 27℃ 以上の海域で発⽣する。これは台⾵の発⽣・発達に海⾯からの潜熱の供給が必要なためである。
→ 答えは 正 です。
一般に、台風は海面水温が 26 〜 27℃ 以上の暖かい海域で発生します。
これは、台風が発生・発達するためには、海面から大気中への水蒸気(潜熱)の供給が不可欠だからです。
暖かい海面からは大量の水蒸気が蒸発し、それが上空で凝結する際に潜熱が放出されます。
この潜熱は周囲の空気を温めて上昇気流を強め、台風の中心気圧をさらに低下させることで、台風の発達を促します。
逆に、海面水温が低い場合には十分な水蒸気が供給されないため、台風は発生しにくく、発達もしません。
したがって、台⾵の発⽣・発達には海⾯からの潜熱の供給が必要であり、⼀般に、台⾵は海⾯⽔温が 26 〜 27℃ 以上の海域で発⽣しますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)発達中の台⾵において、台⾵中⼼へ向かう動径⽅向の⾵の成分は、⾼度⽅向に⾒ると⼤気境界層の中で最⼤となっている。
→ 答えは 正 です。
まずは用語の整理をしておきましょう。
動径方向の風の成分(動径成分)とは、接線成分に対して直角で、台風の中心から外側に向かって伸びる直線の方向のことです。
(接線方向の風の成分(接線成分)とは、台風の円の円周に沿って直線に接する方向のことです。)

また、大気境界層 とは、地上から上空約1kmまでの大気層のことで、自由大気より下の大気のことです。

下図のように、自由大気では、地表面摩擦がなく、風は等圧線に沿って吹くため、風の動径成分はほとんどありません。
一方、大気境界層では、地表面摩擦によって、風が中心付近へ吹き込むため、風の動径成分が生じます。

下図は、台風周辺の風速の動径成分の鉛直断面図です。
横軸は台風の中心からの距離、縦軸は気圧、図中の数値は台風の中心から外側に向かう成分を正とした風速 (m/s) です。

(W. M. Frank, 1977: Mon. Wea. Rev., 105, 1119-1135.) の図に色をつけたもの
参照:一般気象学 第2版 P238
上図から、台風の風の動径成分の最大値は、気圧900hPa(高度約1km)以下の大気境界層内にあることが分かります。
(図中の数値は、台風の中心から外側に向かう成分を正とした風速 (m/s) なので、
例えば、紫色で示した -8m/s は中心に向かって8m/s の風が吹いているということです。)
これは、地表面に近いほど地表面摩擦が大きく、風が等圧線を横切って中心付近へ吹き込むことで、風の動径成分が大きくなるためです。
したがって、発達中の台⾵において、台⾵中⼼へ向かう動径⽅向の⾵の成分は、⾼度⽅向に⾒ると⼤気境界層の中で最⼤となっていますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)台⾵中⼼付近の対流圏中層の接線⽅向の⾵は傾度⾵とみなすことができ、気圧傾度が同じであれば、地衡⾵よりも強くなっている。
→ 答えは 誤 です。
まずは、前半部分「台⾵中⼼付近の対流圏中層の接線⽅向の⾵は傾度⾵とみなすことができ、」について考えてみましょう。
下図は、台風周辺の風速の動径成分の鉛直断面図です。
横軸は台風の中心からの距離、縦軸は気圧、図中の数値は台風の中心から外側に向かう成分を正とした風速 (m/s) です。

(W. M. Frank, 1977: Mon. Wea. Rev., 105, 1119-1135.) の図に色をつけたもの
参照:一般気象学 第2版 P238
上図を見ると、大気境界層(地上 〜 900hPa)では、風が台風の中心に向かって 8m/s 程度で中心方向へ風が吹き込んでいます。
一方、対流圏の最上部である対流圏界面付近(100 〜 200hPa 付近)では、風は中心から外側へ向かって、4m/s 程度で外部へ吹き出しています。
しかし、対流圏の中層(500hPa 付近)では、中心に向かう風(=動径方向の風)はほとんど0になっています。
このように、動径方向の風がほぼ0である場合、風の主な成分は台風の中心を回る接線方向の風になります。
このとき、風の力のバランスは、「気圧傾度力」「コリオリ力」「遠心力」の3つに限られるため、傾度風の近似が成立することが分かります。
したがって、台⾵中⼼付近の対流圏中層の接線⽅向の⾵は傾度⾵とみなすことができますので、問題文の前半部分は正しいです。
では、問題文の後半部分「気圧傾度が同じであれば、地衡風よりも強くなっている。」について考えてみましょう。
台風のような低気圧の周辺では、傾度風 が吹いており、そのバランスは「気圧傾度力 = コリオリ力 + 遠心力」で表されます。

一方、地衡風 とは「気圧傾度力 = コリオリ力」のバランスが成り立つ風のことです。

風速はコリオリ力に比例するため、同じ気圧傾度力で比べると、傾度風では遠心力が一部を担っている分、コリオリ力は小さくなります。
つまり、傾度風の風速は地衡風よりも小さくなるのです。
したがって、台⾵中⼼付近の対流圏中層の接線⽅向の⾵は傾度⾵とみなすことができますが、気圧傾度が同じであれば、地衡⾵よりも「強く」ではなく「弱く」なっていますので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 正 (c) 誤 とする 2 となります。
書いてある場所:P231〜242(台風)
書いてある場所:P406〜417(台風)
書いてある場所:P354〜366(台風)
書いてある場所:P155〜166(台風)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
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