問3普通
2月のある日に、千葉県柏市にある気象庁の気象レーダーで観測した仰角3.5°のレーダーエコーを図Aに示した。図Bは、この時のレーダーエコーの高度とレーダーからの距離の関係を示したものとする。これらの図について述べた次の文章の下線部 (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。
上空では雪片であった降水粒子が、落下して周囲の気温が0℃となる高度付近(融解層)に達すると、(a) 雨滴よりも粒子が大きく、固体(雪)の表面が液体で覆われている「みぞれ」の状態となる。降水粒子には、(b) 固体の状態よりは液体の状態の方が、また粒子が大きい方が、気象レーダーの電波をよく反射する性質がある。このため、仰角一定のレーダーエコーには、融解層の高度に対応する強い環状のエコーが観測され、「ブライトバンド」と呼ばれる。
図Aと図Bから、この時の融解層の上端の高さはおよそ (c) 2500 m と見積もられる。仮にこの後、ブライトバンドの半径が時間の経過と共に (d) 小さくなる 場合は、融解層の高度が低下していることを示し、低い標高の地域でも雨から雪に変わる可能性が高くなる。

本問は、気象レーダーで観測されるブライトバンドに関する問題です。
気象レーダー(予備知識)
気象レーダー とは、アンテナを回転させながら電波を発射し、雨や雪の粒に反射されて戻ってきた電波の強さから、降水の強度を観測する装置のことです。

気象レーダーは、アンテナの仰角(見上げる角度)を段階的に変えながら、それぞれの仰角で水平方向に回転させて観測しています。
本問の図Aは、そのうち仰角 3.5°で1回転したときのレーダーエコーです。
このとき、電波はほぼまっすぐ進むため、レーダーから遠く離れた場所ほど、電波が通過する高度は高くなります。
そのため、仰角を一定にして観測したレーダーエコーでは、レーダーからの距離が遠くなるほど、観測している高度も高くなるという関係があります。
ブライトバンド(予備知識)
日本で降る雨の多くは、上空でできた雪が落下する途中で融けて雨になったものです。
このような雨を 冷たい雨 といいます。

上図のように、雪は上空から落下し、周囲の気温が0℃となる高度付近を通過すると、融け始めて雨滴に変わります。
このとき、雪の表面が水で覆われながら、雪から雨滴へと変化していく途中の状態が みぞれ です。
みぞれが多く存在する、気温0℃付近の層を 融解層 といいます。
融解層では、雪の層や雨の層と比べて、レーダーで局所的に強いエコーが観測されます。
この強いエコーを ブライトバンド といいます。

融解層がほぼ一定の高度で水平方向に広がっているとき、仰角を一定にして電波を発射すると、レーダーから遠くなるほど、電波が通る高度は高くなります。
そのため、電波が融解層を通過するのは、レーダーからある一定の距離にある場所になります。
このような場所がレーダーの周囲に円状に広がるため、仰角一定のレーダーエコーでは、ブライトバンドがレーダーを中心とした環状(ドーナツ状)の強いエコーとして現れます。
それでは、選択肢を1つずつ見ていきましょう。
本問の解説:(a) について
(問題)上空では雪片であった降水粒子が、落下して周囲の気温が0℃となる高度付近(融解層)に達すると、(a) 雨滴よりも粒子が大きく、固体(雪)の表面が液体で覆われている「みぞれ」の状態となる。
→ 答えは 正 です。
雪片は、雪の結晶どうしが落下する途中でくっつき合ってできたものです。
雪片は、雪の結晶の間にたくさんの空気を含んでいるため、密度が小さく、同じ質量の雨滴と比べると、より大きな粒子になります。
下図は、雨粒(雨滴)・雪片・みぞれの大きさを比較したものです。

上図のように、雨滴は大きくても直径約7mm 程度ですが、雪片は直径約3cm になることもあります。
雪片は、気温が0℃付近になると表面から融け始めます。
そのため、雪片の内部は雪がまだ残ったまま、表面は融けた水で覆われた状態になります。
この状態が みぞれ です。
つまり、みぞれは、雪片の形や大きさをある程度保ったまま、その表面が水で覆われた状態なのです。
したがって、上空では雪片であった降水粒子が、落下して融解層に達すると、雨滴よりも粒子が大きく、固体(雪)の表面が液体で覆われている「みぞれ」の状態となりますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)降水粒子には、(b) 固体の状態よりは液体の状態の方が、また粒子が大きい方が、気象レーダーの電波をよく反射する性質がある。
→ 答えは 正 です。
降水粒子に当たった電波はさまざまな方向に散乱しますが、このうちレーダーの方向にはね返ってくる電波を 後方散乱 といいます。

気象レーダーが受信できるのは、この後方散乱した電波だけです。
また、降水粒子のうち、電波を後方散乱させることができる有効な面積を 後方散乱断面積 といいます。

後方散乱断面積は、降水粒子の粒が大きいほど大きくなります。
つまり、降水粒子の粒が大きいほど、電波を強く反射(後方散乱)するのです。
では、同じ大きさの雨滴(液体)と雪片(固体)がある場合、電波を強く反射するのはどちらでしょうか。
結論からいうと、雨滴の方が、雪片よりも電波を強く反射します。
これは、水の方が氷よりも電波に強く反応し、電波を反射しやすいという性質をもっているためです。
水分子は、電波が当たると、電波に合わせて細かく揺れ動きます。
揺れ動く分子が集まった水滴は、小さなアンテナのようになり、まわりに新しい電波を出します。
この新しい電波のうち、レーダーの方向に向かったものが、後方散乱した電波としてレーダーで受信されるのです。
液体の水は、分子が自由に動けるので大きく揺れ、電波を強く反射します。
一方、氷は、分子が結晶の中にがっちり固定されているので、あまり揺れることができません。
そのため、氷は電波をあまり反射しないのです。
(より専門的に説明すると、気象レーダーでは、物質の電波に対する反射のしやすさを表す係数として \(|K|^2\) が用いられます。代表的な値は、液体の水で約 0.93、氷で約 0.20 です。そのため、同じ大きさの粒子であれば、液体の水の方が氷よりも約5倍強くレーダーの電波を反射します。)
てるるん電子レンジをイメージすると覚えやすいよ!電子レンジで水はすぐ温まるのに、氷はなかなか融けないよね!これは、水の方が氷よりも分子が自由に動けるからなんだ!レーダーの電波でも同じで、分子がよく動ける水の方が電波を強く反射するんだよ!
したがって、降水粒子には、固体の状態よりは液体の状態の方が、また粒子が大きい方が、気象レーダーの電波をよく反射する性質がありますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)図Aと図Bから、この時の融解層の上端の高さはおよそ (c) 2500 m と見積もられる。
→ 答えは 誤 です。


図Aを見ると、×印(レーダーの位置)からブライトバンドの内縁までの距離は約 13 km で、外縁までの距離は約 20 km と読み取れます。
仰角を一定にして発射された電波は、気象レーダーから遠ざかるほど高度が高くなります。
このため、電波はまず融解層の下端に入り、その後、融解層の中を斜めに通り抜けて、上端から出ていきます。
つまり、ブライトバンドの内縁が融解層の下端、外縁が融解層の上端に対応します。
これを図Bに当てはめると、融解層の下端は高度約 900 m、上端は高度約 1300 m であることがわかります。
したがって、図Aと図Bから見積もられる融解層の上端の高さはおよそ「2500 m」ではなく、およそ「1300 m」ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d) について
(問題)仮にこの後、ブライトバンドの半径が時間の経過と共に (d) 小さくなる 場合は、融解層の高度が低下していることを示し、低い標高の地域でも雨から雪に変わる可能性が高くなる。
→ 答えは 正 です。
仰角を一定にしてレーダー観測を行う場合、レーダーからの距離が近いほど、電波が通る高度は低くなります。
ブライトバンドの半径が小さくなるということは、レーダーに近い、より低い高度で電波が融解層を通過するようになったということです。
つまり、時間の経過とともに融解層の高度が低下しているということです。
融解層の高度が低下するということは、気温が0℃付近となる高度も低下し、地上付近まで寒気が下がってきていることを意味します。
そのため、これまで雨だった低い標高の地域でも、雪片が途中で融けきらず、雪のまま地上まで届く可能性が高くなります。
つまり、雨から雪へと変わりやすくなるのです。
したがって、ブライトバンドの半径が時間の経過と共に小さくなる場合は、融解層の高度が低下していることを示し、低い標高の地域でも雨から雪に変わる可能性が高くなりますので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 正 (c) 誤 (d) 正 とする 2 となります。
書いてある場所:P222〜223(ブライトバンド)
書いてある場所:P201〜209(冷たい雨)
書いてある場所:P164(後方散乱断面積)、P170〜171(融解層、ブライトバンド)
書いてある場所:P242〜243(レーダーエコー、レーダー方程式)、P246(ブライトバンド)
気象レーダー(気象庁ホームページ)
書いてある場所:「二重偏波気象ドップラーレーダーの観測原理」「ブライトバンド」(みぞれ・融解層)
高解像度降水ナウキャスト よくある質問集(気象庁ホームページ)
書いてある場所:「円形又は円弧状に、周囲よりも強い降水が表示されている」(ブライトバンド)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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