【第65回】2026年1月試験(学科専門試験)問2(ウィンドプロファイラ観測)

問2

気象庁が行っているウィンドプロファイラ観測について述べた次の文 (a) 〜 (c) の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。

(a) ウィンドプロファイラで温暖前線の通過を観測すると、地表付近に南よりの風が入り始め、時間とともにその層が上空に向かって厚くなる様子を捉えることができる。

(b) 非常に激しい雨が降っているときに、降水粒子による電波の散乱が強すぎてそれより上空の観測データが得られない場合がある。

(c) ウィンドプロファイラは、雨粒などよりもスケールの大きな大気中の乱流などに伴う空気の屈折率の揺らぎによる電波の散乱から上空の風を測定するため、気象レーダーよりも長い波長の電波が用いられる。

   





解説

本問は、気象庁が行っているウィンドプロファイラ観測に関する問題です。

ウィンドプロファイラ(予備知識)

ウィンドプロファイラ とは、地上から上空に向けて電波を発射し、大気中の風の乱れなどによって散乱され戻ってくる電波を受信・処理することで、上空の風向・風速を観測する装置のことです。

簡単にいうと、上空に向けて電波を発射し、返ってきた電波の変化から「どの高さで、どの方向に、どれくらいの速さで風が吹いているか」を連続して測る装置です。

ウィンドプロファイラ
画像:気象庁ホームページ「ウィンドプロファイラ」をもとに作成

地上に戻ってきた電波は、大気中の散乱体の動きによって周波数が変化します。

これはドップラー効果によるもので、発射した電波と受信した電波の周波数の違いから、上空の大気の動きを知ることができます。

実際の観測では、上空の5方向に電波を発射し、それぞれから得られた情報を組み合わせることで、上空の風を立体的に捉えることができます。

気象庁のウィンドプロファイラでは、上空の風を高度 300 m ごとに、10 分間隔で風向・風速を観測しています。

てるるん

ウィンドプロファイラは「ウィンド(風)のプロファイル(横顔・側面図)を描くもの」という意味の言葉だよ!

それでは、選択肢を1つずつ見ていきましょう。

本問の解説:(a) について

(問題)ウィンドプロファイラで温暖前線の通過を観測すると、地表付近に南よりの風が入り始め、時間とともにその層が上空に向かって厚くなる様子を捉えることができる。

→ 答えは 誤 です。

温暖前線は、暖かい空気が冷たい空気の上にはい上がるようにして進んでいく前線です。

下図は、温暖前線の鉛直断面図です。

温暖前線の鉛直断面
画像:ウェザーニュース「1分でわかる天気のコトバ〜前線〜」をもとに作成

上図を見ると、暖かい空気と冷たい空気の境目である 温暖前線面 は、前線の進行方向(図の右側)に向かって、上空へ傾いていることが分かります。

つまり、前線が近づいてくる地点では、暖かい空気は上空から先に到達し、時間が経つにつれて前線面の高度が下がって、最後に地上を通過します。

下図は、温帯低気圧周辺の風向の模式図です。

温帯低気圧周辺の風向

温暖前線の前方(寒気側)では東寄りの風、後方(暖気側)では南寄りの風が吹いています。

このため、温暖前線が通過する地点では、東寄りの風から南寄りの風に変わります。

前線面は上空から地上へ下りてくるので、南寄りの風はまず上空に現れます。

そして時間が経つにつれて、南寄りの風の層は下へ向かって厚くなり、最後に地上が南寄りの風に変わります。

したがって、ウィンドプロファイラで温暖前線の通過を観測すると、南よりの風は「地表付近に入り始め、その層が上空に向かって厚くなる」のではなく「上空に入り始め、その層が下層に向かって厚くなる」様子が捉えられますので、答えは 誤 となります。

本問の解説:(b) について

(問題)非常に激しい雨が降っているときに、降水粒子による電波の散乱が強すぎてそれより上空の観測データが得られない場合がある。

→ 答えは 正 です。

ウィンドプロファイラの電波は、晴れているときには大気の乱れによって散乱されますが、雨が降っているときには、雨粒によっても散乱されます。

これは、大気の乱れによる散乱よりも、雨粒による電波の散乱のほうが強いためです。

雨粒は風に流されているため、雨粒の動きを捉えることで、風向・風速を知ることができます。

そのため、通常の雨(降水強度が並程度の雨)であれば、雨粒が電波をよく散乱してくれることで、むしろ上空のより高い高度まで観測できることがあります。

しかし、非常に激しい雨が降っているときには、降水粒子による電波の散乱や減衰が著しくなります。

そのため、電波が上空まで十分に届かず、それより上空の観測データが得られない場合があります。

したがって、非常に激しい雨が降っているときに、降水粒子による電波の散乱が強すぎてそれより上空の観測データが得られない場合がありますので、答えは 正 となります。

本問の解説:(c) について

(問題)ウィンドプロファイラは、雨粒などよりもスケールの大きな大気中の乱流などに伴う空気の屈折率の揺らぎによる電波の散乱から上空の風を測定するため、気象レーダーよりも長い波長の電波が用いられる。

→ 答えは 正 です。

ウィンドプロファイラは、地上から上空に向かって電波を発射し、大気中の乱流などによって生じる空気の屈折率の揺らぎで散乱された電波を受信することで、上空の風を観測しています。

では、「空気の屈折率の揺らぎ」とはいったい何なのでしょうか。

まず、屈折率 とは、電波などの電磁波が物質中をどのように進むかを表す物理量の一つです。

大気の屈折率は、主に気温や気圧、大気中の水蒸気量によって変化します。

しかし、大気はどこでも同じ状態ではありません。

例えば、ある場所では暖かく湿っていても、別の場所では冷たく乾燥していることがあります。

そのため、大気中では、場所によって屈折率がわずかに異なり、空間的に細かなばらつきが生じています。

これが、空気の屈折率の揺らぎ です。

特に、大気中に乱流があると、暖かい空気や冷たい空気、湿った空気や乾いた空気などが複雑に入り混じります。

その結果、空気の屈折率が場所によって細かく変化し、空間的に「屈折率の揺らぎ」が生じるのです。

電波は、屈折率が一様なところではまっすぐ進みます。

しかし、屈折率が変わる境目では、電波の進む向きがわずかに変化します。

こうした屈折率の揺らぎが大気中に細かく分布していると、それぞれの場所で電波の向きが少しずつ変化し、様々な方向へ散らばっていきます。

これが 散乱 です。

ウィンドプロファイラは、この散乱して戻ってきた電波のドップラー効果による周波数の変化を利用して、上空の風向・風速を求めています。

気象庁のウィンドプロファイラでは、空気の屈折率の揺らぎによる電波の散乱を効率よく観測するために、波長約 22 cm(1.3 GHz帯)の電波を使用しています。

(電波の波長の約2分の1の間隔で屈折率の揺らぎがあると、様々な場所で散乱された電波が互いに強め合い、強い散乱が起こります。これをブラッグ散乱といいます。波長約 22 cm の電波では、約 11 cm のスケールの揺らぎからの散乱を強く捉えることができます。)

一方、気象庁の一般的な気象レーダーでは、雨粒や雪などの降水粒子からの散乱を効率よく観測するために、波長約 5.6 cm(Cバンド:約 5.3〜5.4 GHz)の電波を使用しています。

このように、ウィンドプロファイラは主に大気の屈折率の揺らぎを、気象レーダーは主に降水粒子を観測対象としているため、それぞれの観測に適した波長の電波が用いられているのです。

てるらん

ウィンドプロファイラの方が、気象レーダーより長い波長の電波を使っているんだね!

したがって、ウィンドプロファイラは、雨粒よりも大きなスケールの大気の乱流に伴う屈折率の揺らぎによる電波の散乱を利用して上空の風を測定するため、気象レーダーよりも長い波長の電波が用いられていますので、答えは 正 となります。

以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 正 (c) 正 とする 4 となります。

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書いてある場所:P183〜185(ウィンドプロファイラ)、P187(Cバンド気象レーダー)


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書いてある場所:P259〜262(ウィンドプロファイラ観測、ブラッグ散乱)


ウィンドプロファイラ(気象庁ホームページ)

書いてある場所:「ウィンドプロファイラの概要」「前線の通過」


ウィンドプロファイラの仕組みと観測例(南大東島地方気象台)

書いてある場所:「ウィンドプロファイラのメカニズム」「前線面」(観測の仕組み・前線の通過を捉えた観測例)


気象レーダー(気象庁ホームページ)

書いてある場所:「二重偏波気象ドップラーレーダーの観測原理」「降水による減衰」

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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