問5
地球と同じ大きさで放射平衡温度も等しい惑星が、太陽から地球までの距離の半分の距離に位置しているとする。地球のアルベドを 0.30 としたとき、この惑星のアルベドとして適切なものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。なお、地球及びこの惑星は球形の黒体とする。
アルベド(予備知識)
アルベドとは、放射を受けたときの反射率のことです。
アルベドが1であれば、すべての放射を反射し、アルベドが0であれば、すべての放射を吸収することを意味します。
地球のアルベドは0.3です。
つまり、地球は宇宙から受けた放射のうち、その30%が吸収されずに宇宙に反射されるということです。
下表はさまざまな場所や状況によるアルベドの一覧です。
場所・状況 | アルベド |
---|---|
裸地※ | 0.1〜0.25 |
砂、砂漠 | 0.25〜0.4 |
森林地 | 0.1〜0.2 |
新雪 | 0.8〜0.95 |
海面(高度角25°以上) | 0.1以下 |
海面(高度角25°以下) | 0.1〜0.7 |
厚い雲 | 0.8前後 |
地球平均 | 0.3 |
金星平均 | 0.78 |
火星平均 | 0.16 |
ステファン・ボルツマンの法則(予備知識)
すべての物体は、その温度に応じた電磁波を放射しています。
同時に物体は入射してきた電磁波を吸収する性質も持ちます。
この入射してくる放射エネルギーをすべて余すことなく吸収する仮想的な物体を黒体(読:こくたい)といいます。
黒体は与えられた温度に応じた最大の放射エネルギーを放出します。
この放射のことを黒体放射(読:こくたいほうしゃ)といいます。
黒体放射の全ての波長帯のエネルギーの総量は、黒体の絶対温度の4乗に比例します。
これをステファン・ボルツマンの法則といいます。
(1879年にステファンが実験的に、1884年にボルツマンが理論的にこの法則を導いたためにステファン・ボルツマンの法則とよばれています。)
ある黒体の単位面積が単位時間に放射するエネルギー(=地球から放出される長波放射エネルギー)を I [ Wm-2 ] 、黒体の絶対温度(=放射平衡温度)を T [ K ]、ステファン・ボルツマン定数を
σ = 5.67×10-8 [ Wm-2 K-4 ] とすると、次の関係が成り立ちます。
I = σT4
放射平衡(予備知識)
大気の存在しない真空の地球表面では、1秒あたりに地球が受け取る太陽放射量と、放出する地球放射量が釣り合い、放射平衡(読:ほうしゃへいこう)が成り立つと考えられ、次の関係が成り立ちます。
\( (1 – A_\text{e}) \pi r^{\,2} S_\text{e} = 4 \pi r^{\,2} I_\text{e} \)
ここで、\( A \) は地球のアルベド、\( r \) は地球の半径、\( S_\text{e} \) は地球 \( \text{e} \) の位置での1m2 あたりに受ける太陽放射強度 [W m-2] 、\( I_\text{e} \) [W m-2] を地球の放射強度とします。
左辺は地球が受け取る太陽放射量、右辺は地球が放射する放出する地球放射量を表しています。
ここで具体的な値を入れて、計算してみましょう。
まずは、両辺の \( \pi r^{\,2} \) を消去し、両辺を入れ替えて整理すると
\( I_\text{e} = \displaystyle \frac{S_\text{e}(1-A)}{4} \)
となります。
これに \( A \) = 0.30 、\( S_\text{e} \) = 1.38 × 103 [W m-2] を代入すると
\begin{align} I_\text{e} &= \displaystyle \frac{1.38×10^{\;\,3} × (1 – 0.30)}{4} \\ &= 241.5\, [\, \text{W m}^{\;\,-2} \,] \end{align}
となります。
これは、地球放射強度を示し、地球の表面から、1m2 あたり 241.5 W に相当する熱が宇宙に逃げていることを表します。
放射強度は距離の2乗に反比例して減少する(予備知識)
太陽を中心にして半径がそれぞれ \( R_1 \)、\( R_2 \) の球面 \( 1 \)、\( 2 \) を考え、
球面 \( 1 \)、\( 2 \) 上の放射強度(=単位面積・単位時間当たりに入射する放射エネルギー量)を \( S_1 \)、\( S_2 \) とします。
太陽と球面までの空間における散乱や吸収を無視すれば、球面 \( 1 \)、\( 2 \) が受ける放射エネルギーは太陽からの放射エネルギーに等しいので
\( 4 \pi {R_1}^2 S_1 = 4 \pi {R_2}^2 S_2 \)
( \( S_1 ,\, S_2\):太陽からそれぞれ距離 \( R_1,\, R_2 \) 離れた、太陽を中心とする球面に単位時間・単位面積当たりに入射する放射エネルギー量 [ J m-2 s-1 ] )
となり、式変形すると
\( \displaystyle \frac{S_1}{S_2} = \frac{{R_2}^2}{{R_1}^2} \)
となります。
例えば、\( R_2 \) = 2\( R_1 \)とすると、
\( \displaystyle S_2 = \frac{S_1}{4} \)
となります。
したがって、放射強度は距離の2乗(=22)に反比例して、距離とともに減少します。
本問の解説
(問題)地球と同じ大きさで放射平衡温度も等しい惑星が、太陽から地球までの距離の半分の距離に位置しているとする。地球のアルベドを 0.30 としたとき、この惑星のアルベドを求めよ。なお、地球及びこの惑星は球形の黒体とする。
→ 答えは 0.83 です。
地球 \( \text{e} \) の位置での1m2 あたりに受ける太陽放射強度を \( S_\text{e} \) [ W m-2 ] 、地球の半径を \( r \)(したがって、断面積は \( \pi r^{\,2} \))、地球のアルベドを \( A_\text{e} \) とすると、地球に入射する太陽放射量は \( \pi r^{\,2} S_\text{e} \) となります。
このうち、\( A_\text{e} \pi r^{\,2} S_\text{e} \) は地球に吸収されずに宇宙空間に反射されるので、地球が吸収する太陽放射量は \( \pi r^{\,2} S_\text{e} \,-\, A_\text{e} \pi r^{\,2} S_\text{e} \) つまり \( (1 – A_\text{e}\,) \pi r^{\,2} S_\text{e} \) となります。
また、地球の放射強度を \( I_\text{e} \) [ W m-2 ] とすれば、地球の表面積は \( 4 \pi r^{\,2} \) なので、地球が放出する放射量は \( 4 \pi r^{\,2} I_\text{e} \)となります。
放射平衡では、地球が吸収する太陽放射量と、放出する地球放射量が釣り合っているので、下記式が成り立ちます。
\( (1 – A_\text{e}) \pi r^2 S_\text{e} = 4 \pi r^2 I_\text{e} \tag{1} \)
同様に、惑星 \( \text{P} \) の位置での太陽放射強度を \( S_\text{P} \)、惑星 \( \text{P} \) のアルベドを \( A_\text{P} \)、惑星 \( \text{P} \) の放射強度を \( I_\text{P} \) とすれば、惑星 \( \text{P} \) の半径も地球と同じ \( r \) なので、下記式が成り立ちます。
\( (1 – A_\text{P}) \pi r^2 S_\text{P} = 4 \pi r^2 I_\text{P} \tag{2} \)
ここで、太陽と地球および惑星 \( \text{P} \) との間の空間で、太陽放射が散乱や吸収を受けないと仮定すれば、太陽を中心に地球までの距離 \( R \) を半径とする球面と、太陽を中心に惑星 \( \text{P} \) までの距離 \( \frac{R}{2} \) を半径とする球面に到達する太陽放射量は等しいので、
\( 4 \pi R^2 S_\text{e} = 4 \pi \displaystyle \bigg( \frac{R}{2} \bigg)^2 S_\text{P} \)
となり、これを整理すると、下記式となります。
\( S_\text{e} = \displaystyle \frac{S_\text{P}}{4} \tag{3} \)
また、黒体放射強度に関するステファン・ボルツマンの法則によれば、黒体放射強度 \( I \) [ W m-2 ] は、その黒体の絶対温度 \( T \) [ K ] の4乗に比例しており、\( \sigma \) をステファン・ボルツマン定数とすると、 \( I = \sigma T^4 \) が成り立ちます。
以上より、黒体の温度 \( T \) が等しければ、黒体放射強度 \( I \) も等しいことが分かります。
本問では、地球 \( \text{e} \) と惑星 \( \text{P} \) はともに黒体で、その放射平衡温度も等しいので、両者からの放射強度(黒体放射強度) \( I_\text{e} \) と \( I_\text{P} \) も等しくなります。
\( I_\text{e} = I_\text{P} \tag{4} \)
(1)、(2)の辺々をそれぞれ割って、(3)、(4)を代入し、整理すると
\(1 – A_\text{e} = 4(1 – A_\text{P}) \tag{5} \)
となる。地球 \( \text{e} \) のアルベドは 0.30 なので、\( A_\text{e} \) = 0.30 を(5)に代入すると、
\begin{align} 1 – 0.30 &= 4(1 – A_\text{P}) \\ A_\text{P} &= 0.825 \end{align}
となります。
したがって、惑星 \( \text{P} \) のアルベドは 0.83 なので、答えは 4 となります。
書いてある場所:P105(放射強度は距離の2乗に反比例して、距離とともに減少)、P110(黒体、黒体放射)、P113〜114(アルベド、放射平衡)
書いてある場所:P90〜92(ステファン・ボルツマンの法則、放射平衡、アルベド)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
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