【第63回】2025年1月試験(学科一般試験)問5(地球大気の長波放射)

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問5

地球の長波放射について述べた次の文 (a) ~ (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

(a) 地球大気中で長波放射は主に二酸化炭素分子と酸素分子によって吸収される。

(b) 地球は全体としてほぼ放射平衡の状態にあり、地球の大気上端から外向きに射出される長波放射量は、地球の大気上端に入射する太陽放射量にほぼ等しい。

(c) 海洋上の背の高い積乱雲の雲頂から放射される単位面積当たりの長波放射量は、その周囲の海面から放射される単位面積当たりの長波放射量よりも大きい。

   





解説

本問は、地球の長波放射に関する問題です。

本問の解説:(a) について

(問題)地球大気中で長波放射は主に二酸化炭素分子と酸素分子によって吸収される。

→ 答えは です。

下図は、太陽放射と地球放射のそれぞれの波長帯における放射エネルギーの大きさを表しています。

画像:一般気象学 P115 図5.8 をもとに作成

上図によると、地球放射(=地球から放射される長波放射(赤外線))は、4〜100μm であることが分かります。

では、この波長帯における長波放射の吸収率はどうなっているでしょうか?

下図(上)は、中緯度における大気上端から対流圏界面付近までの層、下図(下)は、大気上端から地表面付近までの層における、太陽放射と地球放射の波長ごとの吸収率を示したものです。

両図の下には波長および吸収に寄与する気体 (吸収体) を示しています。

太陽放射と地球放射の波長ごとの吸収率
上図は中緯度における大気上端から対流圏界面付近までの層、下図は大気上端から地表面付近までの層による
太陽放射と地球放射の波長ごとの吸収率。
この両図の下には波長と吸収に寄与する気体 (吸収体) を示している。
画像:一般気象学 P118 図5.10 をもとに作成

上図によると、波長帯 4〜100μm の長波放射は、 水蒸気 ( H2O )二酸化炭素 ( CO2 ) などの気体によって吸収されていることが分かります。

H2O や CO2 などの気体は、地球放射(=赤外線)を吸収し、温室効果をもたらすことから 温室効果ガス とも呼ばれます。

では、水蒸気や二酸化炭素などの気体がどれくらい温室効果に寄与しているかみてみましょう。

下図は、大気中の温室効果ガスがもつ温室効果の強さ(=温室効果ガスの寄与率を表しています。

温室効果ガスの寄与率
地表(青線)および大気上端(赤線)における赤外線スペクトル(単位波長・面積・時間あたりの上向きのエネルギー流出量)。
青線が地表から逃げる熱エネルギー、赤線が大気上端から逃げる熱エネルギーを示す。
また、青線と赤線の差が、大気による赤外線の吸収、すなわち温室効果の強度を表す。
図中のH2O、CO2、O3は、それらの分子による赤外線吸収が起こる波長領域を示す。
右の円グラフは、晴天時(雲がない場合)での温室効果への寄与率。
Kiehl and Trenberth (1997) Earth’s Annual Global Mean Energy Budget. Bulletin of the American Meteorological Society, 78, 197-208. (c)Copyright 2007 American Meteorological Society (AMS)

上図左のグラフを見てみると、地表から放出される赤外線(=グラフの青線が、大気上端では H2O や CO2 などによって吸収され、エネルギー流出量が減少している(=グラフの赤線ことがわかります。

また、H2O広い波長域で赤外線を吸収しているため、上図右の円グラフのように、温室効果への寄与率はもっとも高く、約 48 % となります。

次いで、温室効果の寄与率が高いのは CO2 で、15μm付近の赤外線をよく吸収しており、温室効果への寄与率は 約 21 % となります。

一方、酸素分子は(紫外線や可視光線の一部を吸収する性質はありますが、)温室効果ガスではなく、赤外線の吸収にはほとんど寄与していません

したがって、地球大気中で長波放射は主に「二酸化炭素分子と酸素分子」ではなく「水蒸気と二酸化炭素」によって吸収されますので、答えは となります。

本問の解説:(b) について

(問題)地球は全体としてほぼ放射平衡の状態にあり、地球の大気上端から外向きに射出される長波放射量は、地球の大気上端に入射する太陽放射量にほぼ等しい。

→ 答えは です。

下図は、地球全体としての年間平均エネルギー収支を表した図です。

地球全体としての年間平均エネルギー収支
画像出典:天文学辞典「温室効果

上図を見ながら考えていきましょう。

まず、太陽から入射する放射は 342 W/m2 となっています。

この値は、太陽定数から求めることができます。

太陽定数 S0 とは、地球と太陽の距離において、太陽光が真上から垂直に当たる1m2 あたりの放射エネルギー量のことで、その量は S0 = 約 1370 W/m2 です。

では、地球全体ではどれだけの太陽エネルギーを受け取っているのでしょうか?

太陽は地球全体を照らしていますが、地球は球体のため、すべての面に垂直に光が当たるわけではありません。

実際に太陽光がまっすぐ届いているのは、地球の反面(断面部分)だけです。

この「太陽光が届く断面積」は、地球の半径を r とすると πr2 となります。

つまり、地球全体が受け取る太陽エネルギーの総量S0 × πr2 となります。

地球は自転しており、昼と夜を繰り返しているので、受け取ったエネルギーは時間とともに地球全体に行き渡ると考えられます。

そのため、太陽から受け取ったエネルギーを、地球の表面全体に平均して分ける必要があります。

地球の表面積は、球の公式より 4πr2 です。

よって、1m2 あたりに平均して届く太陽エネルギーは

S0×πr2 / 4πr2 = S0 / 4

となり、地球全体で1m2 あたりが平均して受け取る太陽放射量は

S0 / 4 = 1370 / 4 ≒ 342 W/m2

となります。

てるるん

例えるなら、太陽は地球にスポットライトを当てているようなものだよ!
でも地球は回転しているから、その光を地球の表面全体にまんべんなく塗り広げている、みたいなイメージかな。

では、最初に示した図をもう一度見ながら考えていきましょう。

地球全体としての年間平均エネルギー収支
画像出典:天文学辞典「温室効果

地球が完全な黒体であれば、この 342 W/m2 をすべて吸収しますが、実際には雲・エアロゾル・地表の雪氷などにより、約31%の 107 W/m2 が反射されます。

(この反射率を アルベド A といい、地球全体の平均では A ≒ 0.31 です。)

つまり、実際に地球が吸収する太陽放射量は

342 − 107 = 235 W/m2

(内訳:大気による吸収が 67 W/m2 、地表による吸収が 168 W/m2

となります。

一方、地球の大気上端から宇宙空間に向けて放出される長波放射量(赤外線)は 235 W/m2 です。

これは「地球の大気上端から外向きに射出される長波放射量 と 地球全体で吸収される太陽放射量 がほぼ等しい」ことを意味しており、地球がほぼ 放射平衡 にあるということを示しています。

問題文では、「地球の大気上端から外向きに射出される長波放射量は、地球の大気上端に入射する太陽放射量にほぼ等しい」と書かれていますが、地球の大気上端に入射する太陽放射量という表現は、アルベドによる反射の存在を無視した表現です。

実際には、入射する太陽放射量 342 W/m2 のうち、約31%の 107W/m2 は反射されるので、地球全体としては残った 235 W/m2 しか太陽放射量を吸収していません。

したがって、地球は全体としてほぼ放射平衡の状態にあり、地球の大気上端から外向きに射出される長波放射量は、「地球の大気上端に入射する太陽放射量」ではなく「地球全体で吸収される太陽放射量」にほぼ等しいので、答えは となります。

本問の解説:(c) について

(問題)海洋上の背の高い積乱雲の雲頂から放射される単位面積当たりの長波放射量は、その周囲の海面から放射される単位面積当たりの長波放射量よりも大きい。

→ 答えは です。

黒体が単位面積、単位時間あたりに放出する放射エネルギー量 I は、物体の絶対温度 T の4乗に比例します。

I = σT4 (σ:シュテファンボルツマン定数)

これを シュテファン・ボルツマンの法則 といいます。

背の高い積乱雲の雲頂や海面は、射出率が1に近いため、黒体とみなすことができます。

(根拠:気象庁「3.7μm帯画像の解析と利用」)

射出率 とは、物体がどれだけ効率よく熱エネルギーを放射するかを示す値で、0から1までの範囲で表されます。

射出率が1の場合、その物体は理想的な黒体としてふるまい、持っているエネルギーを最大限に放射します。

逆に射出率が0に近い場合、その物体はほとんどエネルギーを放射しません。

背の高い積乱雲の雲頂や、海面は、赤外線の波長帯において射出率が1に近いため、実際の観測や計算では黒体とほぼ同じように扱うことができます。

一般に、海洋上の背の高い積乱雲の雲頂は、周囲の海面よりも温度が低くなっています。

シュテファン・ボルツマンの法則より、温度が低いほど、放射量は小さくなるので、海洋上の背の高い積乱雲の雲頂(=温度の低い物体)から放射される単位面積当たりの長波放射量は、その周囲の海面(=温度の高い物体)から放射される単位面積当たりの長波放射量よりも小さくなります。

したがって、海洋上の背の高い積乱雲の雲頂から放射される単位面積当たりの長波放射量は、その周囲の海面から放射される単位面積当たりの長波放射量よりも「大きい」ではなく「小さい」ので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(a) (b) (c) とする となります。

ここに書いてあるよ
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書いてある場所:P114〜120(放射平衡)、P120〜122(温室効果)


書いてある場所:P256〜257(ステファン・ボルツマンの法則)、P272〜274(温室効果ガス)


書いてある場所:P178〜184(放射平衡温度、温室効果)、P384〜385(温室効果)


書いてある場所:P87〜88(放射平衡温度、シュテファンボルツマンの法則、地球の放射収支)、P90(放射の温室効果)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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