問5
地球⼤気に⼊射する太陽放射に関する次の⽂ (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。ただし、sin30°= 0.5、sin60°= 0.87 とする。
(a) ⼤気上端に⼊射する太陽放射エネルギーには、可視光線域の放射エネルギーと⾚外線域の放射エネルギーが同程度含まれている。
(b) 6⽉に⼤気上端の⽔平な単位⾯積に⼊射する1⽇あたりの太陽放射エネルギーは、⾚道上の地点の⽅が北極点よりも多い。
(c) 地球全体に⼊射する1⽇あたりの太陽放射エネルギーは、地球と太陽の距離が近い7⽉の⽅が、この距離が遠い1⽉よりも多い。
(d) 春分の⽇の太陽の南中時に⼤気上端の⽔平な単位⾯積に⼊射する太陽放射エネルギーは、北緯 30°の地点では北緯 60°の地点の約 1.4 倍となっている。
本問は、地球大気に入射する太陽放射に関する問題です。
太陽放射の波長別エネルギー分布、地球の公転軌道と季節、そして太陽高度と入射エネルギーの関係という、気象学の基本事項が幅広く問われています。
それぞれの事項について「なんとなくのイメージ」で判断してしまうと、思い込みによって誤答してしまう選択肢が複数含まれていますので、しっかり理解することが大切です。
それでは、選択肢を1つずつ見ていきましょう。
本問の解説:(a) について
(問題)大気上端に入射する太陽放射エネルギーには、可視光線域の放射エネルギーと赤外線域の放射エネルギーが同程度含まれている。
→ 答えは 正 です。
太陽は、紫外線・可視光線・赤外線など、さまざまな波長の電磁波を放射しています。
ここで注意したいのは、「可視光線域」と「赤外線域」の波長帯です。
- 可視光線域:波長が 0.38μm 〜 0.77μm の範囲
- 赤外線域:波長が 0.77μm 以上 の範囲
てるるん可視光線域とは、人間の目で見える光の波長帯のことだよ!



波長の幅でいうと、可視光線域は 0.4μm くらいしかないんだね。意外と狭いね。
下図は、太陽が真上にあるときの、大気上端 と 地表面 で観測された太陽放射のスペクトラムです。
横軸が波長λ(μm)、縦軸が単位波長あたりのエネルギーIλ(102 Wm-2 μm-1)を表しており、影の部分 は大気中のいろいろな気体による吸収を表しています。


上図を見ると、大気上端 で観測されるエネルギーのピークは波長 0.5μm 付近(可視光線域)にあり、可視光線域の曲線は背が高い(エネルギーが大きい)ことが分かります。
一方で、赤外線域 は波長帯がとても広いため、曲線の高さ自体は低くても(エネルギーは小さくても)、面積(=エネルギーの総量)としては可視光線域に匹敵するほど大きくなります。
(ちなみに、大気上端に入射する太陽放射のスペクトルは、表面温度が約 5,800K の黒体放射のスペクトルとほぼ同じ形をしていることが知られています。)
この太陽放射エネルギーを波長域別に見ると、全エネルギーのうち可視光線域(0.38〜0.77μm)が 約 46.6% 、赤外線域(波長が 0.77μm 以上)が 約 46.6% を占めており、紫外線域に含まれるエネルギーは 約7% にすぎません。(割合の数値は、小倉義光『一般気象学 第2版補訂版』東京大学出版会、2016、P116「5.4 地球大気による吸収」を参照。)
これを図にまとめると、以下のようになります。


上図を見ると、可視光線域 と 赤外線域 がいずれも全体の約半分ずつを占めており、エネルギーの量としてはほぼ同程度であることが分かります。



「太陽からは可視光線、地球からは赤外線」という説明に慣れていると、つい「太陽放射の中に赤外線はあまり含まれていない」と勘違いしやすいよね。



ピークは可視光線域だけど、赤外線域は幅が広いから、合計すると同じくらいのエネルギー量なるんだね!
【補足】大気上端と地表面の違いを見てみましょう
ここで、太陽光が大気を通過する間にどのように変化するかも、合わせて見ておきましょう。
下図で注目すべきポイントは2つです。


1つ目は、地表面 で観測された太陽放射のスペクトラムは、大気上端 で観測された太陽放射のスペクトラムよりも 全体的に弱くなっている ことです。
これは、太陽光が大気を通過する間に、雲やエーロゾル、大気の気体分子によって吸収されたり散乱されたりするためです。
2つ目は、地表面 で観測された太陽放射のスペクトラムには、ところどころ大きくへこんだ部分がある ことです。
このへこみは、大気中の特定の気体が特定の波長の光を吸収することで生じています。
特に、波長が 0.77μm より長い 赤外線域 では、このへこみ(吸収)が何か所にも渡って生じているのが分かります。
これは主に 水蒸気 による吸収で、波長 2μm 付近の吸収には 二酸化炭素(CO2) も寄与しています。
このように、赤外線域 は水蒸気や二酸化炭素に吸収されやすい ため、地表に届くときにはその割合が減ります。実際に、地表に届く太陽光の波長別の内訳は、およそ次のようになります。


つまり、大気上端から地上に届くまでに太陽光の種類と割合は、以下のように変化します。
- 紫外線:約7% → 約6%(成層圏のオゾン層による吸収で減少)
- 可視光線:約46.6% → 約52%(相対的に割合が増加)
- 赤外線:約46.6% → 約42%(主に水蒸気・CO2による吸収で減少)



赤外線は水蒸気や CO2 に吸収されやすいから、地表まで届くときには少し減っているんだね。



紫外線もオゾン層でしっかりカットされているよ!
ただし、本問で問われているのはあくまで「大気上端」での話ですので、混同しないように注意しましょう。
以上より、大気上端に入射する太陽放射エネルギーは可視光線域と赤外線域のエネルギーが同程度含まれていますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)6月に大気上端の水平な単位面積に入射する1日あたりの太陽放射エネルギーは、赤道上の地点の方が北極点よりも多い。
→ 答えは 誤 です。
この選択肢も、直感に頼ると間違えやすいポイントです。
「赤道は暑いから太陽エネルギーをたくさん受け取っているはず」というイメージに引っ張られがちですが、ここで問われているのは 6月(夏至のころ)の、1日あたりの太陽放射エネルギー です。
地球の公転と地軸の傾きを確認しましょう
下図は、地球の公転軌道上での夏至(6月)・秋分(9月)・冬至(12月)・春分(3月)の位置関係を示したものです。


地球の地軸は公転面に対して 約 23.4°傾いています。
夏至(6月)の時期は、北半球側が太陽に向かって傾くため、北極点では1日中太陽が沈まない 白夜 になります。



白夜のときの北極点では、太陽は地平線の下に沈まずに、低い高度で空をぐるっと一周するんだよ!



ということは、24時間ずっと太陽放射を受け取り続けるんだね!
一方、赤道上では、6月でも1日のうち約半分は夜になります。
単位時間あたりで見れば太陽高度は赤道の方が高いのですが、「1日あたり」の積算量で比較すると、照射時間の長さの効果が非常に大きく効いてきます。
緯度別の季節変化で確認しましょう
下図は、大気上端の水平な単位面積に入射する1日あたりの太陽放射エネルギーの緯度別の季節変化を示したものです。
横軸が月、縦軸が緯度、赤線の等値線の数値が1日あたりの太陽放射エネルギー(単位:MJ/m2 日)を表しています。


(出典:小倉義光『一般気象学 第2版補訂版』東京大学出版会、2016、p.109)
上図の6月に注目すると、1日あたりの太陽放射エネルギーは 北極(北緯80°〜90°)で最大(約 45 MJ/m2 日) となっており、赤道上の値(約 35 MJ/m2 日)よりも 大きく なっていることが読み取れます。



太陽高度が低くても、24時間ずっと照らされていれば、積算のエネルギー量は大きくなるよ!



赤道よりも北極点の方がエネルギー量が多いなんて、意外と盲点だね!
したがって、1日あたりの太陽放射エネルギーは「赤道上の地点の方が北極点よりも多い」のではなく「北極点の方が赤道上の地点よりも多い」のですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)地球全体に入射する1日あたりの太陽放射エネルギーは、地球と太陽の距離が近い7月の方が、この距離が遠い1月よりも多い。
→ 答えは 誤 です。
この選択肢のポイントは、「地球と太陽の距離が近いのは何月なのか」 という事実を正しく押さえているかどうかです。
問題文の「地球と太陽の距離が近い7月」「この距離が遠い1月」という部分を、鵜呑みにしてはいけません。
地球の公転軌道は楕円
地球は太陽の周りを 楕円軌道 で公転しています。
真円に近いものの完全な円ではなく、太陽に最も近づく点( 近日点 )と、最も遠ざかる点( 遠日点 )があります。
- 近日点:地球と太陽が最も近づく位置(1月初旬ごろ)
- 遠日点:地球と太陽が最も遠ざかる位置(7月初旬ごろ)



近日点と遠日点は、ちょうど半年ずれた時期にあるんだよ!



北半球の真冬に近日点が来るって、ちょっと意外だね!
地球全体が受け取る太陽放射エネルギーは、地球と太陽の距離の2乗に反比例 して変化しますので、距離が近いほどエネルギーを多く受け取ります。
つまり、地球全体が受け取る太陽放射エネルギーは、近日点の1月の方が、遠日点の7月よりも多い ことになります。
したがって、問題文は「地球と太陽の距離が近い7月」「この距離が遠い1月」という部分が誤りで、正しくは「地球と太陽の距離が近い1月」「この距離が遠い7月」ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d) について
(問題)春分の日の太陽の南中時に大気上端の水平な単位面積に入射する太陽放射エネルギーは、北緯 30°の地点では北緯 60°の地点の約 1.4 倍となっている。ただし、sin30°= 0.5、sin60°= 0.87 とする。
→ 答えは 誤 です。
この選択肢は、問題文で与えられている sin30°= 0.5、sin60°= 0.87 を使って計算する問題です。
太陽の高度角と水平面上の入射エネルギー
まず、太陽の高度角(仰角)と、水平な単位面積に入射する太陽放射エネルギーの関係を確認しましょう。
下図は、太陽の高度角 α と地表面における放射強度の関係を示したものです。
図中の ID は太陽光線に垂直な単位面積あたりの放射強度、IH は太陽光線に水平な単位面積あたりの放射強度を表しています。
なお、この関係は大気上端でも地表面でも同じように成り立つので、そのまま本問にも適用できます。


(出典:小倉義光『一般気象学 第2版補訂版』東京大学出版会、2016、図5.2)
上図のように、太陽光線に垂直な面 に入射する放射強度 ID のエネルギーが、水平な面に広がって届くとき、水平な単位面積で受け取る放射強度 IH は、次の式で表されます。
IH = ID × sinα
つまり、太陽の高度角 α が 低く なるほど、水平な単位面積で受け取るエネルギーは 小さく なるということです。



太陽が真上にあるとき(α=90°)は sin90°=1 で、エネルギーが最大になるよ!



太陽が地平線に近いほど、同じ面積に入ってくる光は薄く広がってしまうんだね!
春分の日の南中時の太陽の高度角
次に、春分の日の南中時の太陽の高度角を考えます。
春分の日は、太陽が真東から昇って真西に沈み、地球全体でちょうど太陽が赤道の真上を通る日です。
したがって、赤道上の地点(緯度 0°)では、南中時に太陽がちょうど真上(高度角 90°)に来ます。
赤道から緯度 φ の地点に移動すると、その地点の「真上」の方向も、赤道での「真上」の方向から φ だけ傾きます。
このため、春分の日の南中時には、太陽は 真上から φ だけ南(北半球の場合)にずれた位置 に見えることになります。
言い換えると、春分の日の南中時の太陽の高度角 α は、真上(90°)から緯度 φ の分だけ低くなり、
α = 90°− φ
となります。これを今回の各地点に当てはめると、
- 北緯 30°の地点の高度角:α = 90°− 30°= 60°
- 北緯 60°の地点の高度角:α = 90°− 60°= 30°
となります。



緯度が高くなるほど、春分の日の南中時の太陽高度角は低くなるんだね!
両地点のエネルギー比を計算
それぞれの地点で、水平な単位面積に入射する太陽放射エネルギーを求めると、
- 北緯 30°の地点:ID × sin60° = ID × 0.87
- 北緯 60°の地点:ID × sin30° = ID × 0.5
となりますので、両者の比は、
(北緯 30°)÷(北緯 60°) = 0.87 ÷ 0.5 = 1.74
となります。
つまり、北緯 30°の地点では北緯 60°の地点の 約 1.7 倍 の太陽放射エネルギーを受け取っていることになります。
したがって、北緯 30°の地点では北緯 60°の地点の「約 1.4 倍」ではなく「約 1.7 倍」の太陽放射エネルギーを受け取っていますので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 誤 (c) 誤 (d) 誤 とする 3 となります。
書いてある場所:P105〜110(入射する太陽放射量)、P116〜120(地球大気による吸収)
書いてある場所:P248〜253(自転軸の傾きと太陽放射)
書いてある場所:P164〜167(太陽放射について)
書いてある場所:P81〜83(太陽定数と太陽高度角)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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