【第64回】2025年8月試験(学科一般試験)問10(北半球の成層圏)

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問10

北半球の成層圏について述べた次の⽂章の空欄 (a) 〜 (c) に⼊る語句の組み合わせとして適切なものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。

北半球の成層圏では、寒候期には極夜渦と呼ばれる北極付近を中⼼とした循環が存在し、中⾼緯度では (a) が卓越している。この⾵の領域に対流圏内で発⽣したプラネタリー波が伝播してくると、⾼緯度側で⼤規模な下降流が発⽣し、これにともなう (b) により気温が短期間に急上昇することがある。この現象は成層圏突然昇温と呼ばれ、気温の上昇は (c) ほど早く始まる。

   





解説

本問は、北半球の成層圏(極夜渦成層圏突然昇温)に関する問題です。

本問の解説:(a) について

(問題)北半球の成層圏では、寒候期には極夜渦と呼ばれる北極付近を中心とした循環が存在し、中高緯度では (a) が卓越している。

→ 答えは 西風 です。

極夜渦 とは、寒候期の極域上空(成層圏)にできる、極を中心とした巨大な低気圧性の渦のことです。

簡単にいうと、冬の北極(または南極)の上空にできる、反時計回り(北半球の場合)の大きな渦のことです。

てるるん

極夜(きょくや)とは、太陽が一日中地平線の下にあって昇ってこない期間のことだよ!

てるらん

太陽が当たらないから、極のあたりはどんどん冷えていくんだね。

極域に太陽光が届かないと、極域の成層圏は強く冷却されて 低温・低圧 の状態になります。

そして、北半球の低気圧周辺では反時計回りに風が吹くため、極夜渦の中高緯度側では 西風 が卓越します。

1月における帯状平均東西風の緯度・高度分布です。

1月なので 北半球 が 冬半球 、南半球 が 夏半球 です。

東西風の緯度高度分布図
1月における帯状平均東西風の緯度高度分布(CIRA86による)
(出典:小倉義光『一般気象学 第2版補訂版』東京大学出版会、2016、P254 図9.3)

上図を見ると、中層大気(成層圏から中間圏)において、冬半球 では 西風 が、夏半球 では 東風 が卓越していることが分かります。

したがって、北半球の成層圏では、寒候期には極夜渦と呼ばれる北極付近を中心とした循環が存在し、中高緯度では西風が卓越していますので、(a) は 西風 となります。

本問の解説:(b) について

(問題)この風の領域に対流圏内で発生したプラネタリー波が伝播してくると、高緯度側で大規模な下降流が発生し、これにともなう (b) により気温が短期間に急上昇することがある。

→ 答えは 断熱圧縮 です。

プラネタリー波 とは、波長が1万km以上にもなる、地球規模の偏西風の波動のことです。

簡単にいうと、地球を1周するくらいの大きなスケールで蛇行する大気の波のことです。

プラネタリー波

このプラネタリー波(東西波数1〜2程度の長い波)は、ヒマラヤ山脈やロッキー山脈などの大規模な地形や、海陸の熱的コントラストといった対流圏の効果によって励起されます。

そして、ここがとても重要なポイントです。

プラネタリー波は、成層圏が東風のときは鉛直方向(上向き)に伝播しにくく、成層圏が西風のときは鉛直方向(上向き)に伝播しやすいという性質があります。

プラネタリー波の鉛直伝播
てるらん

成層圏が 西風 になるのは冬だったね!

てるるん

そのとおり!逆に、夏の成層圏は 東風 だから、プラネタリー波は伝わりにくいんだよ!

それでは、成層圏に伝わってきたプラネタリー波が、どのようにして気温の急上昇を引き起こすのかを、順を追って見ていきましょう。

① プラネタリー波が成層圏で砕けて、西風を弱める

対流圏のプラネタリー波が地形ブロッキング現象などをきっかけに増幅すると、その増幅した波が成層圏の 西風 領域に伝播していき、ある高度で波が砕けます

「波が砕ける」とは、プラネタリー波が伝わっていく途中で耐えきれなくなって崩れる現象のことです。(より詳しい仕組みは問題 (c) で説明しますね。)

砕けたプラネタリー波は、周囲の西風を弱める向きに作用します。

てるるん

イメージとしては、プラネタリー波が崩れることで、成層圏の西風を運ぶベルトコンベアーにブレーキがかかって、西風が弱められる、みたいな感じだよ!

② 地衡風平衡が崩れて、極向きの流れが生じる

成層圏の中高緯度では、もともと 南から北に向かう気圧傾度力(赤道側が高圧、極側が低圧)と 北から南に向かうコリオリ力(北半球の西風に働く)がつり合うこと(= 地衡風平衡 )で、西風 が安定して吹いています。

ところが、波が砕けて 西風 が弱められると、西風 に働くコリオリ力も弱まります(コリオリ力は風速に比例するためです)。

すると、南向きのコリオリ力よりも北向きの気圧傾度力の方が大きくなり、つり合いが崩れて、極向き(北向き)に空気が流れ出します

③ 高緯度側で下降流が発生して、断熱圧縮で昇温する

極側に流れ込んできた空気は、消えてしまうわけにはいきません。

「入ってきた空気の分だけどこかから出ていかないとつじつまが合わない」という質量保存の法則流れの連続性)に従って、極向きに流れ込んだ空気は、行き場を求めて高緯度側で下降流となります。

こうして、高緯度側で大規模な下降流が発生し、空気塊が 断熱圧縮 されます。

この断熱圧縮による昇温が、高緯度側の成層圏で短期間に数十℃という急激な気温上昇を引き起こします。

これが 成層圏突然昇温 と呼ばれる現象です。

したがって、(b) は 断熱圧縮 となります。

本問の解説:(c) について

(問題)この現象は成層圏突然昇温と呼ばれ、気温の上昇は (c) ほど早く始まる。

→ 答えは 上層 です。

ここでは、成層圏突然昇温が起こるとき、気温の上昇が高度方向にどのような順番で広がっていくかが問われています。

下図は、1952年に世界で初めて成層圏突然昇温が発見されたときの、ベルリン上空での気温の時間変化を表したグラフです。

成層圏突然昇温_ベルリン上空
成層圏の突然昇温が初めて発見されたときの、ベルリン上空での気温の時間変化(1952年)
(出典:小倉義光『一般気象学 第2版補訂版』東京大学出版会、2016、P260 図9.11)

縦軸が気温(℃)、横軸が日付で、3本の折れ線がそれぞれ異なる高度を示しています。

上から順に 15hPa25hPa100hPa と並んでおり、15hPa が最も上層100hPa が最も下層です。

上図を見ると、急激な気温上昇のタイミングが高度ごとにずれていることが分かります。

最初に気温が急上昇しているのは 15hPa(最も上層)の2月22日頃 で、約−55℃ から−10℃ 付近まで一気に上昇しています。

次に 25hPa(中間の層)が2月25日頃 から上昇を始め、最後に 100hPa(最も下層)は3月になってから ゆっくりと上昇しています。

つまり、気温の上昇は上層から始まり、時間差で下層へ降りてくることが読み取れます。

てるらん

上の方から先に温まって、後から下が温まってくるんだね。なんでだろう?

これには、問題 (b) で見たプラネタリー波の伝播のしくみが関係しています。

ポイントは、地球大気は上空にいくほど密度が小さくなる(空気が薄くなる)という性質です。

波が運ぶエネルギー(単位体積あたりの運動エネルギー)の大きさは、おおよそ 密度 × 波の振幅の2乗 に比例することが知られています。

てるるん

簡単にいうと、波のエネルギーは、重い空気が、大きく揺れるほど大きくなるんだよ!

ここからが大事なポイントです。

プラネタリー波が上空に伝播していくとき、波が運ぶエネルギーの量は保存される(=一定に保たれたまま伝わっていく=途中でエネルギーを失わずに上空まで伝わっていく)と考えられています。

上空ほど大気の 密度(重さ)が小さい ので、エネルギーを保つためには、波の振幅が大きくならなければつじつまが合いません。

てるるん

密度 × 振幅の2乗」の値が一定になるためには、密度が小さくなった分だけ、振幅は大きくならないといけないんだ!

てるらん

軽い空気でも同じエネルギーを持つには、大きく揺れるしかないんだね!

こうして、プラネタリー波の振幅は上空ほど 大きく なります。

そして、振幅が大きくなったプラネタリー波は、ある高度でついに 砕けて しまいます。

プラネタリー波が砕けると、問題 (b) で見たように、その場の西風が弱められて、極向きの流れ → 高緯度側での下降流 が発生し、断熱圧縮 による昇温が起こります。

つまり、振幅が大きい プラネタリー波が砕ける場所ほど、より 強い下降流(=より強い断熱圧縮による昇温)が発生することになります。

そして、振幅は上空ほど大きいわけですから、まず最も 上層 で大きな昇温が起こるということになります。

その後、プラネタリー波が砕けた場所では西風を弱める向きの作用が続くため、最初は弱まるだけだった西風がやがて打ち消され、その領域は 東風 に変わってしまいます。

プラネタリー波は 東風 領域では上向きに伝播しにくい性質を持っていましたので、東風に変わった領域より上には、もうプラネタリー波が伝播しにくくなります。

すると、プラネタリー波はその1つ下の層(少し下層)で砕けるようになり、そこを 東風 領域に変えていきます。

このようにして、プラネタリー波が砕ける場所(=昇温が起こる場所)が、上層から下層へと順々に降りてくることになります。

したがって、(c) は 上層 となります。

以上より、本問の解答は、(a) 西風 (b) 断熱圧縮 (c) 上層 とする となります。

ここに書いてあるよ
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書いてある場所:P260〜264(成層圏突然昇温、極渦(極夜ジェット))


書いてある場所:ー


書いてある場所:ー


書いてある場所:P168(中層大気の風の分布)、P170(成層圏突然昇温、極渦(極夜ジェット))

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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