問13
日本で主に冬季に発生する気象災害について述べた次の文 (a) 〜 (c) の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。
(a) 湿った雪が降ると鉄道や電力の施設への着雪害が発生することがある。着雪害は、豪雪地帯のみならず、温帯低気圧に伴う降雪によりそれ以外の地域でも発生することがある。
(b) なだれはその発生形態から、表層なだれと全層なだれに分類される。全層なだれは、積雪が多くなる1月から2月の厳冬期に発生することが多い。
(c) 日本海側では、雷日数は冬の方が夏より少なく、冬に雷害はほとんど発生しない。
本問は、日本で主に冬季に発生する気象災害に関する問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)湿った雪が降ると鉄道や電力の施設への着雪害が発生することがある。着雪害は、豪雪地帯のみならず、温帯低気圧に伴う降雪によりそれ以外の地域でも発生することがある。
→ 答えは 正 です。
着雪(読:ちゃくせつ)とは、湿った雪が電線などの物体に付着することです。
もし、電線に着雪すると、送電線や通信線が断線したり、雪の重さによって鉄塔や電柱などが倒壊することがあります。
また、鉄道の場合は、列車が積雪した線路を走行すると、風で舞い上がった雪が車両下部に付着し、大きな塊に成長します。
この塊が振動で落下し、地上設備や車両、乗客に危害を及ぼす可能性があるため、速度を落とさなければならず、結果として電車の遅延が発生しやすくなります。
このような、着雪によって起こる災害のことを 着雪害 といいます。
じゃあ、着雪ってどうやって起こるの?
それは、気温が関係しています。
気温が比較的高い場所(0℃前後)で降る雪は、少し融けて湿っていますので、その雪を構成している粒自体も大きいです。
このような雪を、湿った雪 とよび、ぼたん雪 ともいいます。
逆に、気温が比較的低い場所(約-5℃以下)で降る雪は、さらさらして乾いており、その雪を構成している粒自体も小さいです。
このような雪を、乾いた雪 とよび、粉雪 や パウダースノー ともいいます。
一般に、湿った雪は、水分を多く含んでいる分重みがあり、物体に付着しやすいという性質があります。
これは水の表面張力により、雪の結晶が互いにくっついたり、物体の表面に付着しやすくなるためです。
一方、乾いた雪は、結晶が細かくて軽く、風で吹き飛ばされやすいため、物体に付着しにくいという性質があります。
このように、着雪は水の表面張力によって、湿った雪の付着性が高まることが要因の一つとなっています。
例えば、手が湿っていると紙などにくっつきやすくなるように、湿った雪は電線などに付着しやすいんだよ!
着雪は、弱風時に乾いた雪が着雪する「季節風型」と、強風とともに湿った雪が着雪する「低気圧型」に大別されます。
特に、南岸低気圧通過時の太平洋側の雪は、雪の温度が0℃付近という、温度が高い雪であることから、北海道や東北地方だけでなく、低気圧の通過経路である関東、関西以南でも低気圧型の着雪が発生しやすくなります。
ちなみに、着雪注意報は、着雪が著しく、樹木や送電線等に被害が予想される場合に発表され、概ね、大雪注意報の条件下で気温が−2℃より高い場合に発表されます。
したがって、着雪害は、豪雪地帯のみならず、温帯低気圧に伴う降雪によりそれ以外の地域でも発生することがありますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)なだれはその発生形態から、表層なだれと全層なだれに分類される。全層なだれは、積雪が多くなる1月から2月の厳冬期に発生することが多い。
→ 答えは 誤 です。
なだれは、すべり面の違いによって、「表層なだれ」と「全層なだれ」の大きく2つのタイプに分けられます。
表層なだれ とは、古い積雪面に降り積もった新雪が滑り落ちるもので、気温が低くて降雪が続く1~2月の厳寒期に発生し、時速100~200kmで落下します。
全層なだれ とは、斜面の固くて重たい雪が、地表面の上を流れるように滑り落ちるもので、気温が上昇する春先の融雪期に発生し、時速40~80kmで落下します。
ちなみに、気象庁では、なだれが発生しやすい気象条件が予想されるときには「なだれ注意報」を発表して注意を呼びかけます。
表層なだれの場合は、その時点での積雪の深さの実況と予想される降雪量をもとに、
全層なだれの場合は、その時点での積雪の深さに加えて、気温や降水量の予報も考慮して発表するなど発表基準が異なっています。
したがって、全層なだれが多く発生する時期は「積雪が多くなる1月から2月の厳冬期」ではなく「気温が上昇する春先の融雪期」ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)日本海側では、雷日数は冬の方が夏より少なく、冬に雷害はほとんど発生しない。
→ 答えは 誤 です。
下図は、年間の雷日数の平年値を表しています。
この図によると、年間の雷日数が多いのは東北から北陸地方にかけての日本海側沿岸の観測点で、最も多い金沢では45.1日/年となっています。
また、下図は月別の雷日数の平年値を表しています。
この図によると、東北から北陸地方にかけての日本海側沿岸で年間の雷日数が多い理由は、夏だけでなく、冬も雷の発生数が多いからだと分かります。
じゃあ、なんで日本海側沿岸では冬も雷の発生数が多いの?
冬の雷が日本海側沿岸で多い理由は、大きく以下の3つです。
① 寒気の流入
シベリアからの冷たい北西の季節風が日本海を越える際に、海面からの湿った空気と混ざり合い、大気の不安定性が高まります。
この不安定性によって雷雲が形成されやすくなります。
② 海からの湿った空気
日本海は冬季でも比較的温かいため、冷たい風が海を通過する際に海面から水蒸気を取り込みます。
この水蒸気が上昇して冷やされると、雷雲(積乱雲)が発生します。
③ 山脈の影響
日本列島の地形、特に山脈が風を強制的に上昇させるため、さらに雷雲が形成されやすくなります。
これは「地形性雷」という現象です。
これらの要因が組み合わさることで、冬の日本海側では雷が頻繁に発生します。
また、夏の積乱雲は、高さ10km以上の圏界面まで発達するのに対し、冬の積乱雲は、安定層(=高さとともに気温が大きく下がらない層)が上空にあるため、高さは3km〜6kmと低くなります。
このため、雷が発生する高さも、夏の積乱雲より低くなります。
落雷数も冬の方が極端に少なく、遠くにいてもゴロゴロと音が聞こえる夏とは違い、冬の雷は音もなく近づいてきます。
落雷数が少ないというのは良いことのように思えますが、その分、一発の威力が強くなります。
冬の雷は「一発雷」とも呼ばれ、夏の雷に比べて100倍以上の大きなエネルギーを持つことがあります。
この大きなエネルギーが、落雷によって大地へ流れると、地上の建造物に大きな被害を及ぼすこともあります。
したがって、日本海側の雷日数は、冬の方が夏より多く、雷害は冬でも発生しやすいので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 誤 (c) 誤 とする 3 となります。
書いてある場所:P350〜351(着雪)、P356(南岸低気圧による大雪)、P363〜364(なだれ注意報、着雪注意報)
書いてある場所:P266(表層なだれ、全層なだれ、着雪)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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