問4
気象庁の数値予報モデルで計算される次の量A~Dのうち、パラメタリゼーションにより計算される量の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
A 雲による長波放射にともなう加熱量・冷却量
B コリオリ力による風の変化量
C 大気境界層の乱流による顕熱・潜熱の輸送量
D 格子スケールの上昇流による気温の断熱的な変化量
本問は、気象庁の数値予報モデルで使われているパラメタリゼーションに関する問題です。
まず、数値予報 とは、計算機(コンピューター)を用いて、地球大気や海洋・陸地の状態の変化を数値シミュレーションによって予測することをいいます。
具体的には、最初に地球大気や海洋・陸地を細かい格子に分割し、世界から送られてくる観測データに基づいて、それぞれの格子にある時刻の気温・風などの気象要素や海面水温・地面温度などの値を割り当てます。
例えば、全球モデル(GSM)は約13km、メソモデル(MSM)は約5kmの格子間隔で分割し、計算を行います。
(全球モデル(GSM)の格子間隔は、令和5年3月に約20kmから約13kmに改良され、より細かな現象まで予測できるようになりました。)
次に、こうして求めた「今」の状態から、物理学や化学の法則に基づいてそれぞれの値の時間変化を計算することで「将来」の状態を予測します。
この計算に用いるコンピュータープログラムを 数値予報モデル と呼んでいます。
しかし、数値予報では、格子点間隔の5〜8倍以上のスケールの現象でなければ表現できないと言われています。
例えば、全球モデル(GSM)の格子点間隔は約 13 kmですので、最低でも約 65 km以上の水平スケールの現象でないと表現できないということです。
しかし、小さいスケールの現象が大きいスケールの現象に影響を及ぼすこともありますので、数値予報モデルで直接表現できないからといって、その影響を無視することはできません。
このため、小さいスケールの現象が格子点の物理量に及ぼす影響を、格子点の値を用いて近似的に表現する必要があります。
その計算方法を パラメタリゼーション といいます。
つまり、パラメタリゼーション とは、数値予報モデルの格子点間隔以下のスケールの現象による効果の見積もりという意味だね!
その通り!
だから、数値予報モデルで計算される量が、パラメタリゼーションによって計算されるかどうかは、それに関わる現象が数値予報モデルの格子点間隔で直接表現できるかどうか、という点から判断できるよ!
本問の解説:A について
(問題)雲による長波放射にともなう加熱量・冷却量
→ 答えは 正 です。
雲による長波放射は、大気や地表面に吸収されてそれらを加熱し、それに伴って雲は熱を失うので冷却されます。
個々の雲の水平スケールは、気象庁の数値予報モデルの格子間隔より小さいことが多いので、雲からの長波放射やそれに伴う加熱量・冷却量を数値予報モデルで直接表現することは困難です。
したがって、雲による長波放射にともなう大気の加熱量・冷却量は、パラメタリゼーションによって計算されますので、答えは 正 となります。
本問の解説:B について
(問題)コリオリ力による風の変化量
→ 答えは 誤 です。
コリオリ力は、水平スケールが大きい現象ほど、その効果が大きくなります。
つまり、数値予報モデルの格子間隔で表現される風に働くコリオリ力は、その格子間隔で表現される風から計算できるということです。
したがって、コリオリ力による風の変化量は、パラメタリゼーションによらずに計算されますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:C について
(問題)大気境界層の乱流による顕熱・潜熱の輸送量
→ 答えは 正 です。
大気境界層では、地表面の摩擦や熱の影響を受けて乱流が卓越しており、乱流によって顕熱や潜熱が輸送されています。
乱流の渦の水平スケールは数cmから数百mなので、気象庁の数値予報モデルではそれらの渦を直接表現することはできません。
したがって、大気境界層の乱流による顕熱・潜熱の輸送量は、パラメタリゼーションによって計算されますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(d)について
(問題)格子スケールの上昇流による気温の断熱的な変化量
→ 答えは 誤 です。
数値予報モデルの格子間隔で表現される気温が、上昇流によって断熱的に変化する過程は、その格子間隔で表現される上昇流から計算できます。
したがって、格子スケールの上昇流による気温の断熱的な変化量は、パラメタリゼーションによらずに計算されますので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は A 、C とする 1 となります。
書いてある場所:P199〜202(数値予報)
書いてある場所:P270〜276(パラメタリゼーション)
書いてある場所:P119〜121(パラメタリゼーション)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
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