問8
日本の天気に影響を及ぼす太平洋高気圧について述べた次の文章の下線部 (a) ~ (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
太平洋高気圧は亜熱帯高気圧の1つで、(a) 東西方向の水平スケールが3000km程度の総観規模の現象である。太平洋高気圧のような亜熱帯高気圧は、(b) ハドレー循環の下降流域に位置し、対流圏下層では発散域となっている。また、太平洋高気圧の圏内では、(c) 海面からの水蒸気の供給により、対流圏下層から上層までのほとんどの高度で、相対湿度が高くなっている。盛夏期に、太平洋高気圧が北西に張り出して本州付近を広く覆い、さらに対流圏上層の高気圧とも重なると、(d) 午後に積乱雲が発達して広い範囲で雷雨になることが多い。
本問は、太平洋高気圧についての問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)太平洋高気圧は亜熱帯高気圧の1つで、(a) 東西方向の水平スケールが3000km程度の総観規模の現象である。
→ 答えは 誤 です。
上図のように、太平洋高気圧は広く太平洋上に広がり、夏になると東西方向の水平スケールは8000km以上になります。
ちなみに、東西方向の水平スケールが3000km程度の総観規模の現象で代表的なものは温帯低気圧です。
現象の水平スケールは「日本の大きさ=約3000km」を覚えておくとイメージしやすいよ!
したがって、太平洋高気圧の東西方向の水平スケールは3000km程度ではなく、夏には8000km以上になりますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)太平洋高気圧のような亜熱帯高気圧は、(b) ハドレー循環の下降流域に位置し、対流圏下層では発散域となっている。
→ 答えは 正 です。
亜熱帯高気圧(亜熱帯高圧帯、中緯度高圧帯、サブハイとも呼ばれます)とは、緯度20~30度付近に形成される高気圧で、太平洋高気圧はその一種です。
太平洋高気圧 とは、中心がハワイ諸島の北の東太平洋にある高気圧で、夏期を中心に勢力が強まります。
亜熱帯高気圧は、大気循環(=地球規模での大気の流れ)の中でも、子午面循環(読:しごめんじゅんかん)(=子午線(=経線方向)方向の大気循環)が関係しています。
子午面循環は、赤道から北に向かって、ハドレー循環、フェレル循環、極循環の3つの循環があります。
このうち、亜熱帯高気圧は、ハドレー循環の一部として形成されます。
ハドレー循環(ハドレー細胞とも呼ばれます)とは、赤道付近で太陽熱によって暖められた空気が上昇し、北に向かって流れた後、緯度30度付近で下降する大規模な大気の流れのことです。
下降した空気は赤道方向へと流れ、循環が完了します。
この、緯度30度付近での下降流によってできる高気圧のことを、亜熱帯高気圧といいます。
また、上図のとおり、対流圏下層では発散域となっていることが分かります。
したがって、亜熱帯高気圧は、ハドレー循環の下降流域に位置し、対流圏下層では発散域となっていますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)太平洋高気圧の圏内では、(c) 海面からの水蒸気の供給により、対流圏下層から上層までのほとんどの高度で、相対湿度が高くなっている。
→ 答えは 誤 です。
太平洋高気圧は、海上の高気圧ですので、海面からの蒸発により、対流圏のごく下層では相対湿度が高くなります。
しかし、問題(b)で考えたように、太平洋高気圧は、ハドレー循環の下降流によって形成されます。
この下降流によって、空気が断熱圧縮されますので、ほとんどの高度で、相対湿度は低くなります。
したがって、太平洋高気圧の圏内では、海面からの水蒸気の供給により、対流圏のごく下層では相対湿度が高くなりますが、対流圏下層から上層までのほとんどの高度では、ハドレー循環の下降流による断熱圧縮により、相対湿度が低くなりますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d)について
(問題)盛夏期に、太平洋高気圧が北西に張り出して本州付近を広く覆い、さらに対流圏上層の高気圧とも重なると、(d) 午後に積乱雲が発達して広い範囲で雷雨になることが多い。
→ 答えは 誤 です。
太平洋高気圧は、地上〜高度約10km(約300hPa)以上まで伸びる、背の高い高気圧です。
また、対流圏上層の高気圧とは、チベット高気圧 のことを指します。
チベット高気圧とは、高度4000~5000mのチベット高原の地表面が日射によって加熱されることでできる高気圧で、高度約11〜16km(約200〜100hPa)の対流圏上層で明瞭になります。
盛夏期になると、太平洋高気圧が北西に張り出し、チベット高気圧が東に張り出すことで、日本の上空では、太平洋高気圧とチベット高気圧が重なった状態になります。
簡単に言うと、高気圧の2階建て状態だね!
これらの高気圧が重なると下降流がさらに強まり、広い範囲で乾燥し、気温が高くなりますので、対流活動(上昇気流)が抑制され、積乱雲は発達しにくくなります。
でも、夏は熱雷や夕立になることも多いから、午後に積乱雲が発達して広い範囲で雷雨になることが多いんじゃないの?
熱雷(読:ねつらい)とは、夏の強い日射によって地表付近の空気が暖められ、その暖かく湿った空気が急速に上昇することによってできた積乱雲から発生する雷のことです。
また、夕立(読:ゆうだち)とは、熱雷を伴った積乱雲から短時間で降る激しい雨のことです。
熱雷が発生する主な条件は、高気圧の縁辺流などで流入した下層の温かく湿った空気が日射によって暖められる場合で、上空に寒気が入ると積乱雲はさらに発達します。
これは、太平洋高気圧とチベット高気圧に広く覆われた環境場とは違いますので、本問の条件「太平洋高気圧が北西に張り出して本州付近を広く覆い、さらに対流圏上層の高気圧とも重なる」には当てはまりません。
したがって、盛夏期に、太平洋高気圧とチベット高気圧が重なって、対流活動が抑制され、広く乾燥すると、積乱雲や雷雨は発生しにくくなりますので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 正 (c) 誤 (d) 誤 とする 4 となります。
書いてある場所:P170〜175(ハドレー循環、亜熱帯高圧帯)
書いてある場所:P353〜354、P357(ハドレー循環、亜熱帯高圧帯)
書いてある場所:P290〜291(ハドレー循環、亜熱帯高圧帯)
書いてある場所:P224〜226(ハドレー循環、亜熱帯高圧帯)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
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