【第60回】2023年8月試験(学科専門試験)問2(気象レーダー・ブライトバンド)

第62回_気象予報士試験_解答速報(予告)

問2

図は2月のある日に、福井県にある気象庁の気象レーダー(福井レーダー)で観測したレーダーエコーである。この図について述べた次の文章の下線部 (a) ~ (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

上空では雪片だった降水粒子が、落下して周囲の気温が0℃となる高度を通過すると、融けて雨滴になる。雪片が融けて雨滴になる途中の状態は、(a) 雨滴よりも粒が大きく、固体(雪)の表面が液体で覆われている状態で、いわゆる「みぞれ」である。降水粒子は、粒が小さいものより大きいものの方が、また、(b) 液体の状態であるよりは固体である方が、気象レーダーの電波をよく反射する、という性質がある。図は、雪片が融解して雨滴に変わる「融解層」によって、局所的に環状の強いエコーが観測されたもので、(c) 「エンゼルエコー」と呼ばれている。気象レーダーの観測はアンテナを一定の仰角で回転させて行われており、図のような環状のエコーが観測されたということは、(d) 融解層がほぼ一定の高度で水平方向に広がっていたことを示している。

気象予報士試験_第60回_専門知識_問2
   





解説

本問は、福井県にある気象庁の気象レーダーで観測したレーダーエコーについて述べた文の下線部の正誤を問う問題です。

本問の解説:(a)について

(問題)雪片が融けて雨滴になる途中の状態は、(a) 雨滴よりも粒が大きく、固体(雪)の表面が液体で覆われている状態で、いわゆる「みぞれ」である。

→ 答えは です。

雲の中にある氷晶は、成長してある程度の重さをもつようになると、落下して地上に到達します。

このとき、気温が低く、地上に到達するまで融けなければ として観測されます。

一方、地上付近の気温が高く、落下途中で融けて水滴となれば、 として観測されます。

また、下図「雨雪判別表」のように、地上の気温が約0~4℃で、湿度が約60%以上になると、雪の一部が融けて水滴となり、「雨粒」と「雪片」が混ざって落ちてくることがあります

このように、雨と雪が混ざって降ることや、融けかけの雪のことを、みぞれ といいます。

雨雪判別表

みぞれは、融けかけの雪ですので、雪片の表面が水の膜で覆われています

例えるなら、氷が融ける時に、氷の表面から水に変わっていくイメージです。

雨と雪とみぞれ

では、雨粒と雪片とみぞれの粒の大きさを比較してみましょう。

雨粒の大きさは直径約1~2mmのものが多く、直径約0.5mm以下になると霧雨、雷雨の時は直径約3~5mmになることもあります。

(ちなみに、これまで観測された雨粒の最大の大きさは直径約7mmで、それ以上の大きさになると、空気抵抗などの影響により分裂し、小さくなってしまいます。)

一方、雪片は落下途中で衝突してくっついたりすることで成長し、大きな雪片では直径約3cmになることもあります。

みぞれは、融けかけの雪ですので、大きさは雪片とあまり変わらず直径約3cmになることもあります。

したがって、雪片が融けて雨滴になる途中の状態(=みぞれ)は、雨滴よりも粒が大きく、固体(雪)の表面が液体で覆われていますので、答えは となります。

本問の解説:(b)について

(問題)降水粒子は、粒が小さいものより大きいものの方が、また、(b) 液体の状態であるよりは固体である方が、気象レーダーの電波をよく反射する、という性質がある。

→ 答えは です。

気象レーダーは、アンテナから電波を発射して、雨や雪などの降水粒子から反射(後方散乱)され戻ってきた電波を同じアンテナで受信することで、降水粒子までの距離や降水強度を推定します。

後方散乱 とは、アンテナから発射された電波が、降水粒子に当たって散乱(具体的にはレイリー散乱)したもののうち、アンテナの方向にはね返ってくる電波のことをいいます。

(逆にアンテナがある方向とは逆の方向に、はね返される電波のことを前方散乱といいます。)

後方散乱

また、気象レーダーの電波が降水粒子にあたり、

後方散乱させることのできる有効的な面積のことを 後方散乱断面積 といいます。

後方散乱断面積

この後方散乱断面積の部分に気象レーダーの電波が当たれば後方散乱することができ、気象レーダーはその反射された電波を利用して降水強度を観測することができます。

てるるん

簡単にいうと、後方散乱断面積とは、気象レーダーの電波をアンテナの方向へ後方散乱させることのできる範囲のようなものだよ!

後方散乱断面積は、降水粒子の粒の大きさで決まり、粒が大きいほど、後方散乱断面積は大きくなります。

つまり、降水粒子の粒が大きいほど、後方散乱断面積は大きくなるので、降水粒子の粒が小さいものより大きいものの方が、気象レーダーの電波をよく反射することができる、というわけです。

てるらん

じゃあ、同じ大きさの雨と雪だったら、どっちが気象レーダーの電波をよく反射するの?

結論から言うと、気象レーダーは、仮に同じ粒の大きさの雨(液体)と雪(固体)があったとすると、雨(液体)の方が、雪(固体)よりも強く反射するという性質があります。

雪というのは、雪の結晶ともよばれるように、その形がさまざま(雪の結晶は気温と湿度によって変化する)で、基本的には下図のように、球形ではありません。

雪の結晶とレーダーの電波

このことから、レーダーの電波が雪に当たったとしても、とんでもない方向にはね返ってしまうことがあります(これを乱反射という)ので、レーダーの方向に、はね返りにくく(つまり後方散乱が小さく)なり、観測しにくくなります。

また、雪はその中に空気が混在していること(混じること)が普通です。

つまり、レーダーの電波が、その空気が混在している部分(つまり隙間のある部分)を、そのまま通り抜けることがあり、通り抜けるということは散乱できず、レーダーの方向に波がはね返ってこないので、観測しにくくなるのです。

したがって、降水粒子の大きさが同じ場合、固体(雪やあられ)の状態であるよりは、液体(雨)である方が、気象レーダーの電波をよく反射することができます。

てるるん

ちなみに、雨は雪よりも約5倍大きく観測されるよ!

したがって、降水粒子は、粒が小さいものより大きいものの方が、また、固体の状態であるよりは液体である方が、気象レーダーの電波をよく反射しますので、答えは となります。

本問の解説:(c)について

(問題)図は、雪片が融解して雨滴に変わる「融解層」によって、局所的に環状の強いエコーが観測されたもので、(c) 「エンゼルエコー」と呼ばれている

気象予報士試験_第60回_専門知識_問2

→ 答えは です。

日本が位置している中緯度で降る雨は、そのほとんどが 冷たい雨 にあたります。

冷たい雨 とは、上空でできた雪が地上に落下するまでに融けて、雨になったもののことをいいます。

冷たい雨

冷たい雨において、雪が融けはじめて、雨に変わる場所のことを 融解層 と呼び、

特に気象レーダーの電波が強くはね返される、という特徴があります。

この、融解層で気象レーダーの電波が強く跳ね返される領域ブライトバンド(明瞭に輝いた帯状に観測される意味)といい、一般的に層状性降雨に伴って発生します。

ブライトバンド
てるらん

でも、どうして融解層でブライトバンドができるの?

問題(b)で見たように、降水粒子は、粒が小さいものより大きいものの方が、また、固体の状態であるよりは液体である方が、気象レーダーの電波をよく反射します

雨粒は、液体でレーダーの電波を反射しやすいですが、粒が小さいという特徴があります。

雪片は、粒が大きいですが、固体なのでレーダーの電波をあまり反射しません。

みぞれは、表面が液体で覆われているため液体としての反射の性質を持ち、粒も大きいので雨粒や雪片よりも気象レーダーの電波を強く反射することができます。

つまり、みぞれは雨粒と雪片のいいとこ取りをした状態で、レーダーの電波をより強く反射することができる、というわけです。

雨と雪とみぞれ

したがって、雪片が融解して雨滴に変わる「融解層」によって、局所的に環状の強いエコーが観測されたものは「エンゼルエコー」ではなく「ブライトバンド」と呼ばれているので、答えは となります。

てるるん

参考に、ウェザーニューズでブライトバンドの分かりやすい解説があったから見てみてね!

出典:株式会社ウェザーニューズ

本問の解説:(d)について

(問題)気象レーダーの観測はアンテナを一定の仰角で回転させて行われており、図のような環状のエコーが観測されたということは、(d) 融解層がほぼ一定の高度で水平方向に広がっていたことを示している。

気象予報士試験_第60回_専門知識_問2

→ 答えは です。

気象レーダーは下動画(50秒〜)のように、アンテナを回転させながら観測しています。

出典:ANNnewsCH

この回転させながら観測しているレーダーのうち、問題の図は、福井レーダーによる仰角4.0度のレーダーエコーを示しています。

気象予報士試験_第60回_専門知識_問2

また、アンテナの位置は図の中心付近(×印)で、エコーの観測高度はアンテナから離れるに従って段々高くなります。

ブライトバンド

このため、融解層がほぼ一定の高度で水平方向に広がっていた場合、気象レーダーのアンテナをある一定の仰角で水平に回転させて観測すると、レーダーサイトを中心とする環状の強いエコー(ブライトバンド)が出現するのです。

したがって、気象レーダーの観測はアンテナを一定の仰角で回転させて行われており、ブライトバンドが観測されたということは、融解層がほぼ一定の高度で水平方向に広がっていたことを示しているので、答えは となります。

以上より、本問の解答は (a) (b) (c) (d) とする となります。

ここに書いてあるよ
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書いてある場所:P222〜223(ブライトバンド)


書いてある場所:P201〜209(冷たい雨)


書いてある場所:P164(後方散乱断面積)、P165(雨と雪の観測について)、P170〜171(ブライトバンド)


書いてある場所:P73〜79(気象レーダー観測、後方散乱、ブライトバンド)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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