【第60回】2023年8月試験(学科専門試験)問15(北極振動)

第62回_気象予報士試験_解答速報(予告)

問15

図1はある年の1月中旬における、対流圏上層のある気圧面の10日平均の高度とその平年偏差を示し、図2のア〜ウの内の1つは同じ期間の10日平均海面気圧と平年偏差を示している。これらの図に基づき、北半球の冬季の大気循環について述べた次の文章の空欄 (a) 〜 (c) に入る語句の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。

ジェット気流のうち、高緯度側に位置し (a) hPa高度付近に中心をもつものが寒帯前線ジェット気流である。その強弱の変動は北極振動と関係しており、北極振動が負の位相 (海面気圧が北極域で平年より高く、中緯度域で平年より低い) のときには (b) 傾向がある。ユーラシア大陸上で寒帯前線ジェット気流が大きく蛇行すると、これに伴ってシベリア高気圧が変動し、日本の天候に大きく影響する。たとえば、図1のような蛇行が起きているときには図2の (c) のような海面気圧分布が見られる。

気象予報士試験_第60回_専門知識_問15
図1 ある年の1月中旬における、ある気圧面の10日平均高度(実線)と平年偏差(陰影)。単位はm。
気象予報士試験_第60回_専門知識_問15
図2 ある年の1月中旬における10日平均海面気圧(実線)と平年偏差(陰影)。単位はhPa。
   





解説

本問は、寒帯前線ジェット気流を中心とした、冬季の北半球の大気大循環に関する問題です。

本問の解説:(a)について

(問題)ジェット気流のうち、高緯度側に位置し (a) hPa高度付近に中心をもつものが寒帯前線ジェット気流である。

気象予報士試験_第60回_専門知識_問15
図1 ある年の1月中旬における、ある気圧面の10日平均高度(実線)と平年偏差(陰影)。単位はm。

→ 答えは 300 です。

対流圏の上部には緯度30度付近に中心を持つ亜熱帯ジェット気流と、
より高緯度に存在する寒帯前線ジェット気流が存在します。

寒帯前線ジェット気流 とは、高緯度の冷たい空気と中緯度の暖かい空気がぶつかる緯度60度付近に位置し、強い温度勾配により発生する強風帯のことです。

亜熱帯ジェット気流 とは、赤道付近の高圧帯と中緯度の低圧帯の間の緯度30度付近に位置し、地球の自転と亜熱帯の温暖な空気による気圧差で発生する強風帯のことです。

下図のように、亜熱帯ジェット気流高度約12km付近に中心を持ちますが、
寒帯前線ジェット気流は少し低く高度8〜9km付近に中心を持ちます。

ジェット気流

下図は、本問の図1におけるユーラシア大陸上の寒帯前線ジェット気流と亜熱帯ジェット気流の
おおまかな位置を示したものです。(解析資料が少ないので、あくまでおおまかな位置です。)

気象予報士試験_第60回_専門知識_問15
ユーラシア大陸上の寒帯前線ジェット気流と亜熱帯ジェット気流

上図に気圧面は示されていませんが、等高度線を見ると高度が8〜9km前後ですので、300hPaの天気図であると推測することが可能です。

つまり、寒帯前線ジェット気流は高度8〜9km付近に存在すること、

または、高度8〜9km付近は300hPaであることを知っていれば、答えを導くことが可能です。

したがって、ジェット気流のうち、高緯度側に位置し300hPa高度付近に中心をもつものが、寒帯前線ジェット気流ですので、答えは 300 となります。

本問の解説:(b)について

(問題)寒帯前線ジェット気流の強弱の変動は北極振動と関係しており、北極振動が負の位相 (海面気圧が北極域で平年より高く、中緯度域で平年より低い) のときには (b) 傾向がある。

→ 答えは 弱い です。

北極振動(Arctic Oscillation:略してAOという)とは、北極付近と中緯度の地上気圧が互いにシーソーのように変動する現象です。

具体的には、北極付近の地上気圧が平年よりも低い時には中緯度の地上気圧は平年よりも高くなり、この状態を AOプラス といいます。

逆に、北極付近の地上気圧が平年よりも高い時には、中緯度の地上気圧が平年よりも低くなり、この状態を AOマイナス といいます。

てるるん

もともと、北極付近の方が中緯度より等高度での気圧差は低くなっているから、さらにこの気圧差が大きくなるのがAOプラス、気圧差が小さくなるのがAOマイナスって覚えるといいよ!

下図は、AOプラスのときと、AOマイナスのときの、北極を中心とした気圧面の平年偏差とジェット気流を表しています。

北極振動

寒帯前線ジェット気流は、極側の寒気と赤道側の暖気の境界で形成されるため、南北の気圧差が大きいほど(=温度差が大きいほど)、ジェット気流は強くなります。

つまり、 AOプラス のときは、南北の気圧差が大きいため、寒帯前線ジェット気流は強くなります。

また、その流れはゾーナル・タイプ(東西流型)になりやすく、北極付近に寒気が蓄積されていきます。

一方、 AOマイナス のときは、南北の気圧差が小さいため、寒帯前線ジェット気流は弱くなります。

また、その流れはメリディオナル・タイプ(南北流型)となるため、北極付近に蓄積された寒気が、中緯度地方に向かって放出されます。

AOマイナスの時には、北からの寒気の南下が顕著になりやすいため、日本海側で豪雪に見舞われやすいという特徴もあります。

したがって、北極振動が負の位相 (海面気圧が北極域で平年より高く、中緯度域で平年より低い=AOマイナス) のときには、寒帯前線ジェット気流は弱い傾向がありますので、答えは 弱い となります。

本問の解説:(c)について

(問題)ユーラシア大陸上で寒帯前線ジェット気流が大きく蛇行すると、これに伴ってシベリア高気圧が変動し、日本の天候に大きく影響する。たとえば、図1のような蛇行が起きているときには図2の (c) のような海面気圧分布が見られる。

気象予報士試験_第60回_専門知識_問15
図1 ある年の1月中旬における、ある気圧面の10日平均高度(実線)と平年偏差(陰影)。単位はm。
気象予報士試験_第60回_専門知識_問15
図2 ある年の1月中旬における10日平均海面気圧(実線)と平年偏差(陰影)。単位はhPa。

→ 答えは です。

図2は10日平均海面気圧と平年偏差を示しており、

海面気圧が平年より高ければ赤色に、平年より低ければ青色になります。

一般に、上空のリッジの前面では、地上の高気圧が発生し、上空のトラフの前面では、地上の低気圧が発生しやすくなると言われています。

例えば、図1のシベリア付近は濃い赤色になっており、顕著な正偏差域で、リッジ場になっていますので、図2のシベリア付近も、顕著な正偏差域(=高気圧が強まっている領域)で、海面気圧が高くなるはずです。

同様に、図1の太平洋付近は濃い青色になっており、顕著な負偏差域で、トラフ場になっていますので、図2の太平洋付近も、顕著な負偏差域(=低気圧が発達している領域)で、海面気圧が低くなるはずです。

つまり、図1の顕著な正偏差域(=リッジが強まっている部分)になっている場所は、図2も顕著な正偏差域(=高気圧が強まっている部分)になり、図1の顕著な負偏差域(=トラフが強まっている部分)になっている場所は、図2も顕著な負偏差域(=低気圧が発達している部分)になるということです。

したがって、この条件のもとで、図2の選択肢を見比べてみると該当するのは、選択肢「」であることが分かりますので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(a) 300 (b) 弱い (c) とする となります。

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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