【第60回】2023年8月試験(学科専門試験)問3(ラジオゾンデ・GPSゾンデ・高層気象観測)

第62回_気象予報士試験_解答速報(予告)

問3

気象庁が行っているラジオゾンデを用いた高層気象観測について述べた次の文 (a) ~ (d) の正誤について、下記の1~5の中から正しいものを1つ選べ。

(a) GPSゾンデによる観測では、GPS信号から得られた情報やゾンデ本体のセンサーで観測した気温と湿度を用いて、気圧値を求めている。

(b) GPSゾンデによる観測では、GPS信号から得られた情報を用いて、上空の風向・風速を求めている。

(c) 昼間の観測では、日射の影響により温度計センサーが大気の温度より高い値を示すことがあるため、温度計センサーの値に日射の影響を補正して気温の値としている。

(d) ラジオゾンデ観測で得られた観測データにおいて、気温や湿度、風の鉛直分布の特徴を再現できるように選択された上空の観測点のことを「特異点」という。

   





解説

本問は、気象庁が行っているラジオゾンデを用いた高層気象観測についての問題です。

本問の解説:(a)について

(問題)GPSゾンデによる観測では、GPS信号から得られた情報やゾンデ本体のセンサーで観測した気温と湿度を用いて、気圧値を求めている。

→ 答えは です。

ラジオゾンデ(GPSゾンデ)による観測とは、気球にラジオゾンデ(GPSゾンデ)を吊り下げて飛揚し、上空約30kmまでの気温・湿度・風向・風速をそれぞれ気圧(高度)とともに観測することをいいます。

人の手によるGPSゾンデ飛揚の様子
画像出典:気象庁HP「高層気象観測(GPSゾンデ観測)

ラジオゾンデ とは、上空の気温、湿度などの気象要素を直接測定するセンサーと、測定した情報を無線送信する無線送機を備えた気象観測機器です。

気象庁が使用しているラジオゾンデは、高度の計算や風向・風速の測定にGPS信号から得られた情報を用いるタイプのもので GPSゾンデ と呼ばれています。

GPSゾンデ
画像出典:気象庁HP「高層気象観測(GPSゾンデ観測)

GPSゾンデによる気象要素の測定・算出方法

要素方法(iMS-100)方法(RS41-SG)
気温サーミスタを使用線形白金抵抗式温度センサを使用
湿度静電容量湿度センサを使用薄膜静電容量式湿度センサを使用
風向GPSの測位情報から算出GPSの測位情報から算出
風速GPSの測位情報から算出GPSの測位情報から算出
高度GPSの測位情報から算出GPSの測位情報から算出
気圧気温、湿度、GPSの測位情報から算出気温、湿度、GPSの測位情報から算出
出典:気象庁HP「高層気象観測(GPSゾンデ観測)

このGPSゾンデには、気圧計は搭載されておらず、気圧はゾンデが受信するGPS信号の測位データから導かれる観測高度と、ゾンデ本体のセンサーで観測した気温と湿度を用いて求めています

したがって、GPSゾンデによる観測では、GPS信号から得られた情報やゾンデ本体のセンサーで観測した気温と湿度を用いて、気圧値を求めていますので、答えは となります。

もっと詳しく

ラジオゾンデを用いた高層気象観測は、毎日2回、世界中の約800か所で、同時刻(日本では9時と21時)に観測が行われています。

(線状降水帯による大雨が予想される時や台風接近時などには、気象庁では日本時間の3時または15時に臨時観測を行うこともあります。)

また、気球の飛揚は、人の手で飛揚する方法と、自動放球装置を用いて自動で飛揚する方法があり、気象庁では、下図のように16か所の気象官署で観測を行っています。

(気象庁はこのほか、海洋気象観測船での高層気象観測や、南極昭和基地におけるGPSゾンデ観測、オゾンゾンデ観測などを行っています。)

出典:気象庁HP「高層気象観測(GPSゾンデ観測)

人の手で飛揚する方法はこちら↓

出典:高層気象台(Aerological Observatory, JMA)

自動放球装置を用いて自動で飛揚する方法はこちら↓

出典:高層気象台(Aerological Observatory, JMA)

本問の解説:(b)について

(問題)GPSゾンデによる観測では、GPS信号から得られた情報を用いて、上空の風向・風速を求めている。

→ 答えは です。

下表のとおり、上空の風向・風速は、GPS信号から得られた情報を用いて求めています

つまり、GPSゾンデに風向風速計は搭載されておらず、飛揚したGPSゾンデがどの高さで、どの方向に、どれくらい流されたかをGPSで測定することで、風向・風速を求めている、ということです。

GPSゾンデによる気象要素の測定・算出方法

要素方法(iMS-100)方法(RS41-SG)
気温サーミスタを使用線形白金抵抗式温度センサを使用
湿度静電容量湿度センサを使用薄膜静電容量式湿度センサを使用
風向GPSの測位情報から算出GPSの測位情報から算出
風速GPSの測位情報から算出GPSの測位情報から算出
高度GPSの測位情報から算出GPSの測位情報から算出
気圧気温、湿度、GPSの測位情報から算出気温、湿度、GPSの測位情報から算出
出典:気象庁HP「高層気象観測(GPSゾンデ観測)

したがって、GPSゾンデによる観測では、GPS信号から得られた情報を用いて、上空の風向・風速を求めていますので、答えは となります。

本問の解説:(c)について

(問題)昼間の観測では、日射の影響により温度計センサーが大気の温度より高い値を示すことがあるため、温度計センサーの値に日射の影響を補正して気温の値としている。

→ 答えは です。

通常、気温計は、太陽の直射日光を浴びると、気温が上昇しすぎてしまい、周囲と異なる値を示してしまうため、地上で気温を観測する場合は、必ず日陰で測定します。


しかし、GPSゾンデ観測では気温を測るセンサーがむき出しになっており、日中の観測では、太陽の直射日光を浴びてしまうため、気温が必要以上に上昇してしまいます。

このため、GPSゾンデ観測では、太陽の直射日光による気温上昇分を補正して気温の値を求めており、この補正のことを日射補正といいます。

ちなみに、気球の高度が高いほど、また気球の上昇速度が遅いほど、気温は上昇しすぎるため、日射補正量は大きくなります。

したがって、昼間の観測では、日射の影響により温度計センサーが大気の温度より高い値を示すことがあるため、温度計センサーの値に日射の影響を補正して気温の値としていますので、答えは となります。

本問の解説:(d)について

(問題)ラジオゾンデ観測で得られた観測データにおいて、気温や湿度、風の鉛直分布の特徴を再現できるように選択された上空の観測点のことを「特異点」という。

→ 答えは です。

GPSゾンデ観測の結果は、指定気圧面(850hPaや700hPaなど)や特異点のデータについて通報し、記録されています。

特異点 とは、気温や風などの希少要素がある基準値より大きく変化する高度のことであり、この特異点には圏界面高度最大風高度なども含まれます。

もっと細かい定義としては以下のとおりです。

<気温・湿度の特異点>

  • 気温及び湿度の顕著な変化点
  • 観測開始点、観測終了点及び湿度の最終点
  • 20hPa以上の厚さを持つ逆転層及び等温層の上下端
  • 欠測層の上下端
  • 圏界面

<風の特異点>

  • 風向及び風速の顕著な変化点
  • 観測開始点及び終了点
  • 欠測層の上下端
  • 風速が最大の点、及び極大風速面

具体的な例を見てみましょう。

以下は、2024年1月1日21時に鹿児島で観測された気温・湿度のGPSゾンデ観測の結果です。

表の右端には特異点がたくさん記載されており、この高度で気温や湿度が顕著に変化していたりする、ということを表しています。

気圧(hPa)ジオポテンシャル高度(m)気温(℃)相対湿度(%)識別符
1023.469.573特異点
1023.099.771特異点
1015.57011.063
1002.817511.360特異点
(中略)(中略)(中略)(中略)(中略)
20.226322-47.0///特異点
18.426938-47.0///
16.227782-45.2///
15.528082-43.8///特異点
出典:気象庁HP「過去の気象データ検索(高層)

したがって、ラジオゾンデ観測で得られた観測データにおいて、気温や湿度、風の鉛直分布の特徴を再現できるように選択された上空の観測点のことを「特異点」といいますので、答えは となります。

以上より、本問の解答は (a) (b) (c) (d) とする となります。

ここに書いてあるよ

書いてある場所:P167〜168(高層気象観測、ラジオゾンデ)


書いてある場所:P80〜87(高層気象観測、GPSゾンデ観測、特異点)


書いてある場所:P70〜72(レーウィンゾンデ(ラジオゾンデ)観測、特異点)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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