図は 10 月のある日の気象衛星ひまわりの水蒸気画像である。図に破線や矢印で示した A ~ F の各領域の現象について述べた次の文 (a) ~ (d) の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 破線で囲まれた領域 A 、B 、C に見られる渦は、いずれも台風や熱帯低気圧に伴うものと推定される。
(b) 複数の矢印で示した D は、南西から北東方向にのびる暗域と明域の境界(バウンダリー)であり、これは上空の強風軸に対応するものと推定される。
(c) 領域 E 内の東側には、上層の寒冷低気圧に伴う上・中層雲のみからなる雲域が見られる。
(d) 領域 F には細かい縞状の上層雲が見られるが、これは台風の動きに影響を与えるジェット気流に対応したものと推定される。

本問は、気象衛星ひまわりの水蒸気画像に関する問題で、2024年10月1日9時の水蒸気画像を使用しています。
水蒸気画像の特性や「明域」「暗域」「バウンダリー」「トランスバースライン」といった用語を理解しておきましょう。
予備知識:水蒸気画像とは
水蒸気画像 とは、気象衛星ひまわりに搭載されたセンサーで、波長 6.5〜7.0μm付近の赤外線を観測して作られる気象衛星画像のことです。
この波長帯が選ばれているのは、大気中の水蒸気がこの波長帯の赤外線をよく吸収し、その一部を再放射するという性質を持っているためです。
この性質を利用することで、雲がない領域であっても、対流圏上層〜中層の水蒸気の多寡を可視化することができます。
水蒸気画像の明るさは、気象衛星に届いた赤外線の輝度温度で決まります。
- 明域(白く写る部分):上・中層に水蒸気が 多い 領域
- 暗域(黒く写る部分):上・中層に水蒸気が 少ない 領域
ここが直感に反するポイントなので、少し丁寧に整理しておきましょう。
上・中層に水蒸気が多い場合、地上や大気下層から放射される赤外線は、その上・中層の水蒸気にほとんど吸収されてしまうため、衛星まで届きません。
代わりに、衛星は上・中層の水蒸気や雲から再放射された赤外線を捉えます。
この再放射は高度の高い場所からの放射なので、輝度温度は低く、画像では白く(明域)写ります。
逆に、上・中層に水蒸気が少ない場合、地上や大気下層から放射された赤外線は吸収されずに衛星まで届きます。
この赤外線は高度の低い場所からの放射なので、輝度温度は高く、画像では暗く(暗域)写ります。

てるらん白い=雲、というイメージだったから、白い=水蒸気が多い、というのは新鮮だね!



そのとおり!水蒸気画像は赤外画像や可視画像とは見方が違うから、まずは「白=上・中層の水蒸気が多い」と覚えておくんだよ!
それでは、選択肢を1つずつ見ていきましょう。
本問の解説:(a) について
(問題)破線で囲まれた領域 A 、B 、C に見られる渦は、いずれも台風や熱帯低気圧に伴うものと推定される。


→ 答えは 誤 です。
領域 A・B・C には、いずれも低気圧性の渦(反時計回りの循環)が見られます。
しかし、台風や熱帯低気圧によるものかどうかは、画像上の特徴をよく見比べる必要があります。
まず、領域 A と領域 C は、いずれも白く輝く団塊状の明域で囲まれており、上・中層の水蒸気量が多いことを示しています。
さらに、領域 A・C の中心付近には、台風中心の特徴である「眼」と思われる暗域が確認できます。
中心付近の眼は、台風中心の下降流によって乾燥した空気が広がっている部分で、上・中層の水蒸気量が周囲よりも局所的に少ないため、水蒸気画像では暗く写ります。
このように、「組織的な明域 + 中心付近の眼」という特徴が揃っているので、領域 A・C は 台風 や 熱帯低気圧 によるものと推定できます。
一方、領域 B も低気圧性の循環は見られますが、その周りには領域 A・C のような白く輝く団塊状の明域がありません。
明域は組織的に分布しておらず、相対的に輝度の低い(やや暗い)領域が広がっており、上・中層の水蒸気量が少ないことを示しています。
このように「明域が組織的でなく、広い範囲で暗域が見られるなかに低気圧性の循環がある」という特徴から、領域 B は 寒冷低気圧 と推定されます。
寒冷低気圧は、上空の寒気を伴う低気圧で、対流圏下層では形状が不明瞭でも上層ほど明瞭になるという性質を持っており、領域 B の見え方はその特徴によく合致します。



同じ渦でも、台風と寒冷低気圧は水蒸気画像での見え方がぜんぜん違うんだね!



そのとおり!「眼があるか・周りに白い団塊があるか」で見分けるのが水蒸気画像の判別ポイントだよ!
したがって、領域 B は「台風や熱帯低気圧に伴うもの」ではなく「寒冷低気圧に伴うもの」ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)複数の矢印で示した D は、南西から北東方向にのびる暗域と明域の境界(バウンダリー)であり、これは上空の強風軸に対応するものと推定される。


→ 答えは 正 です。
水蒸気画像で見られる、極側の暗域と赤道側の明域がはっきり帯状に分かれる境界を、バウンダリー とよびます。
簡単にいうと、上・中層で「乾いた空気」と「湿った空気」が接する境目のことです。
このバウンダリーは、一般的に上空の強風軸(ジェット気流)の位置にほぼ一致することが知られています。
なぜバウンダリーが強風軸に対応するかというと、ジェット気流の付近では、南北の温度差が大きく、空気の性質が大きく異なるためです。
ジェット気流を境にして、極側の気団は冷たく乾燥しており、赤道側は暖かく湿っています。
さらに、ジェット気流の極側では沈降流が強く、対流圏界面から下方へ向かって乾燥域が伸びてきます。
この乾燥域は水蒸気画像では 暗域 として写ります。
一方、赤道側では前線帯に対応した雲域が存在し、上・中層に水蒸気が多いため 明域 として写ります。
したがって、暗域と明域の境界(バウンダリー)が、強風軸の位置にほぼ一致するわけです。



水蒸気画像って、雲が無くてもジェット気流の位置がわかるんだね!



そのとおり!これが水蒸気画像の最も有効な利用法の一つだよ!ジェット気流を可視化できるのは水蒸気画像ならではなんだよ!
したがって、領域 D は「暗域と明域の境界(バウンダリー)であり、上空の強風軸に対応する」という記述の通りですので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)領域 E 内の東側には、上層の寒冷低気圧に伴う上・中層雲のみからなる雲域が見られる。


→ 答えは 誤 です。
領域 E は、(a) の領域 B ほど明瞭ではないものの、暗域に低気圧性の循環を思わせる渦が見られるため、寒冷低気圧であると考えられます。
しかし、この情報だけでは、領域 E が本当に寒冷低気圧かどうかを断定するのは困難です。
問題 (c) のポイントは、領域 E が寒冷低気圧であるかどうかよりも、領域 E 内の東側の雲域が「上・中層雲のみからなる」と判断できるかどうかです。
水蒸気画像は、対流圏上層〜中層の水蒸気量の多寡を表すものです。
したがって、明域から「上・中層に水蒸気が多い」ことは読み取れても、その下層に雲があるかないかまでは判別できません。
つまり、領域 E の東側で明域が見られるからといって、その雲域が「上・中層雲のみからなる」のか、それとも「下層雲も含む雲域」なのかは、水蒸気画像だけからは判断できないのです。
上・中層雲のみからなるのかどうかを正確に判断するには、水蒸気画像だけではなく、赤外画像と可視画像を合わせて判読する必要があります。



水蒸気画像で白く見えても、その下に下層雲があるかどうかはわからないんだね!



そのとおり!水蒸気画像は上・中層が主役だから、雲の種類を特定したいときは可視画像や赤外画像と必ずセットで使うんだよ!
なお、参考までに同時刻の高層天気図で領域 E の正体を確かめてみましょう。
下図は、2024年10月1日9時の 500hPa および 300hPa の高層天気図です。




上図を見ると、日本の南東海上(北緯22度、東経155度付近)に、500hPa では周辺よりも明らかに低い寒気の中心、300hPa では閉じた等高度線で囲まれた低気圧が解析されています。
このことから、ここに寒冷低気圧があることがわかります。
また、寒冷低気圧の東側から南側にかけては、下層に暖気が入り込みやすく、大気が不安定になって積乱雲(対流雲)が発達しやすい領域であることが知られています。
このことからも、領域 E の東側に見られる団塊状の白く輝く雲域は、発達した対流雲(下層雲を含む)と、そこから上層へ広がる上層雲(かなとこ雲など)の組み合わせと推定されます。
したがって、領域 E の東側の雲域は「上・中層雲のみからなる」とは水蒸気画像だけからは判断できず、実際には発達した対流雲(下層雲を含む)を伴うと考えられますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d) について
(問題)領域 F には細かい縞状の上層雲が見られるが、これは台風の動きに影響を与えるジェット気流に対応したものと推定される。


→ 答えは 誤 です。
領域 F に見られる「細かい縞状の上層雲」は、トランスバースライン とよばれる雲列です。
誤りのポイントは下線部の「台風の動きに影響を与えるジェット気流に対応した」という部分です。
トランスバースライン とは、流れの方向にほぼ直角な走向を持つ、小さな波状の上層雲(Ci ストリーク)のことです。
簡単にいうと、強い流れに対して横方向に並ぶ巻雲の縞模様です。
トランスバースラインは、強風軸の周辺で密度の異なる空気が接して鉛直シアーが強くなり、ケルビン・ヘルムホルツ波(K-H 波)という波動性の振動が発生することで形成されます。
この波の上昇部で雲が発生することで、目に見える形となります。
トランスバースラインは、確かにジェット気流に沿って現れる場合もありますが、本問の領域 F のように発達中の台風から吹き出すように現れるケースもあります。
このような台風由来のトランスバースラインは、台風の上層における強い水平発散に伴って形成されるもので、ジェット気流によるものではありません。
つまり、領域 F のトランスバースラインは、台風 C の構造そのものに伴う上層雲であって、台風の動きに影響を与える周辺場のジェット気流に対応するものではないのです。



トランスバースラインってジェット気流のサインだと思っていたから、台風由来のものもあるなんて意外だね!



そのとおり!トランスバースラインを見たら、まずは「ジェット気流に伴うもの」と「台風から吹き出すもの」の2パターンを思い浮かべるのが大事だよ!
したがって、領域 F のトランスバースラインは「台風の動きに影響を与えるジェット気流に対応したもの」ではなく「台風の上層における水平発散に伴うもの」ですので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 正 (c) 誤 (d) 誤 とする 4 となります。
書いてある場所:ー
書いてある場所:ー
書いてある場所:P98〜103(可視画像)、P106〜113(赤外画像)
書いてある場所:P267〜304(可視画像、赤外画像、雲型判別ダイヤグラム、トランスバースライン)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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