北半球の偏⻄⾵帯におけるジェット気流について述べた次の⽂ (a) 〜 (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。
(a) 寒帯前線ジェット気流は、亜熱帯ジェット気流に⽐べて、⼀般に、⾵速が極⼤となる⾼度が低く、冬季に最も強くなる。
(b) ジェット気流の⾵速が下流の⽅ほど⼤きくなっている領域では、ジェット気流は等圧⾯上で等⾼度線を⾼度の⾼い側から低い側に横切ることが多い。
(c) ジェット気流の南北への蛇⾏が⼤きくなると、偏⻄⾵帯から低緯度側に切り離された上層の寒冷低気圧が形成されることがある。
本問は、北半球の偏⻄⾵帯におけるジェット気流に関する問題です。
ジェット気流は、対流圏上層に存在する非常に強い偏西風で、総観規模の気象現象(高気圧・低気圧の発達、寒気の南下、台風の進路など)を支配する大気力学の主役です。
本問では、(a) 種類ごとの特徴(高度・季節変動)、(b) 加速領域での非地衡風と等高度線の横切り方、(c) 蛇行による切離低気圧の形成という、ジェット気流に関する基礎から応用までが網羅されています。
まずはジェット気流の基本的な分類を整理してから、各選択肢を見ていきましょう。
予備知識:北半球のジェット気流
北半球の対流圏には、亜熱帯ジェット気流 と 寒帯前線ジェット気流 の2種類のジェット気流が存在します。
下図は、北半球の子午面循環とジェット気流の模式図です。

下表は、この2種類のジェット気流の特徴をまとめたものです。
| 項目 | 亜熱帯ジェット気流 | 寒帯前線ジェット気流 |
|---|---|---|
| 緯度 | 北緯30°付近 | 北緯30〜60°付近 (変動が大きい) |
| 風速が極大 となる高度 | 200hPa 付近 | 300hPa 付近 |
| 成因 | ハドレー循環の上端で 角運動量保存により形成 | 寒帯前線(中緯度の 南北温度傾度)に対応 |
| 時間的・空間的変動 | 小さい (長時間平均でも明瞭) | 大きい (長時間平均では不明瞭) |
| 季節変動 | 冬季に最も強い | 冬季に最も強い |
上表のように、両者ともに 冬季に最も強くなる 点は共通していますが、現れる緯度と高度、変動の大きさが異なる のが大きな特徴です。
てるるん亜熱帯ジェット気流は赤道側で高い高度、寒帯前線ジェット気流は極側で低い高度に現れるんだよ!



低緯度の方が 圏界面が高くて、極側ほど 圏界面が低い から、そこに沿ってジェットの高度も変わるんだね!
本問の解説:(a) について
(問題)寒帯前線ジェット気流は、亜熱帯ジェット気流に⽐べて、⼀般に、⾵速が極⼤となる⾼度が低く、冬季に最も強くなる。
→ 答えは 正 です。
選択肢(a)は、風速が極大となる高度 と 冬季に最も強くなるか という2つの点について述べています。
それぞれを順番に確認していきましょう。
風速が極大となる高度について
亜熱帯ジェット気流 は 200hPa 付近、寒帯前線ジェット気流 は 300hPa 付近 に風速の極大が現れます。
気圧は高度が高いほど低いので、200hPa の方が 300hPa よりも高い高度に対応します。
したがって、寒帯前線ジェット気流の方が、亜熱帯ジェット気流よりも風速の極大が現れる高度が 低い ことになります。
これは、対流圏界面の高度が低緯度ほど高く、高緯度ほど低いことに対応しています。
低緯度では暖かい空気の上昇によって圏界面が押し上げられ、高緯度では極高気圧に伴う冷たい空気の沈降によって圏界面が引き下げられているためです。
では、なぜジェット気流は対流圏界面付近に風速の極大域ができるのでしょうか。
温度風の関係 によると、ある高度の地衡風と、その高度より上の地衡風との差(風速の鉛直方向の変化)は、その層の 南北温度傾度 に比例します。
対流圏では、低緯度ほど暖かく、高緯度ほど冷たいという南北温度傾度が常にあるため、高度が上がるほど西風(偏西風)は強くなっていきます。
ところが、対流圏界面より上の成層圏では、オゾンによる加熱などの影響で、対流圏のような明瞭な南北温度傾度がなくなり、高度とともに西風は弱くなっていきます。
このため、対流圏内で高度とともに強くなってきた西風が、対流圏界面付近で最大となる(風速の極大域ができる)のです。
亜熱帯ジェット気流・寒帯前線ジェット気流とも、こうして対流圏界面付近に風速の極大域ができるので、圏界面の高い低緯度側のジェット気流ほど高度が高く なります。



圏界面の高さが、ジェット気流の高さを決めているんだね!



そのとおり!圏界面の切れ目(ジェット気流の軸)に沿って高度が変わるんだよ!
冬季に最も強くなるかについて
ジェット気流の風速は、温度風の関係から、対流圏内の南北温度傾度の大きさで決まります。
冬季は、低緯度(暖かい)と高緯度(冷たい)の温度差が1年で最も大きくなるため、亜熱帯ジェット気流・寒帯前線ジェット気流のどちらも冬季に風速が最大 となります。
したがって、寒帯前線ジェット気流は亜熱帯ジェット気流に比べて 風速が極大となる高度が低く、冬季に最も強くなりますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)ジェット気流の⾵速が下流の⽅ほど⼤きくなっている領域では、ジェット気流は等圧⾯上で等⾼度線を⾼度の⾼い側から低い側に横切ることが多い。
→ 答えは 正 です。
選択肢 (b) は、ジェット気流が 加速している領域(風速が下流ほど大きくなっている領域)での、ジェット気流と等高度線の関係について述べています。
この論点を理解するには、地衡風バランスと非地衡風 の考え方を押さえる必要があります。
地衡風バランスの復習
大気上層では、ジェット気流のような強い風はほぼ 地衡風 として吹いています。
地衡風とは、気圧傾度力 と コリオリ力 がつり合った状態の風で、等圧面上では等高度線に沿って吹きます(北半球では、等高度線の高い側を右に見て吹く)。
コリオリ力は風速とともに大きくなるので、地衡風バランスが成り立つには、気圧傾度力が大きい(等高度線の間隔が狭い)ところほど、風速も大きく ならなければなりません。
このため、等高度線の間隔が狭いところほど、地衡風は強く吹く という関係が成り立ちます。
ジェットストリークの入口で何が起きるか
下図は、ジェット気流の中で特に風速が強い部分( ジェットストリーク )を通過する空気塊の様子を表した模式図です。


紫矢印:ジェットストリークを通過する空気塊の加速度。
赤矢印:左向きに励起される非地衡風運動。
入口左側・出口右側: 地衡風の変化により励起された非地衡風成分で水平収束が起こる。
入口右側・出口左側: 励起された非地衡風成分により水平発散が生じる。
上図のジェットストリークは、中央付近で風速が最大となり、その左右にジェット気流の入口と出口があります。
ジェット気流の風は西から東へ吹くので、図の 左側が上流、右側が下流 です。
本問の選択肢で問われている「ジェット気流の風速が下流の方ほど大きくなっている領域」とは、図の入口(左側)にあたります。
入口の中では、下流(東側)に向かうほどジェット気流の中心 J に近づくため、風速が大きくなっていきます。
下図は、この入口での力のバランスの変化を、より詳しく表したものです。


地点A: はじめに、ジェットストリークに流入する以前の、地点Aにある空気塊では、気圧傾度力とコリオリ力がつりあって、地衡風バランスとなっている。
地点B: この空気塊が、ジオポテンシャル高度の傾度の大きい領域である地点Bに進むと、空気塊にかかる気圧傾度力が増大する。そしてこの気圧傾度力に対応した地衡風速も増大する。しかし、空気塊の速度(風速)はすぐには変わらないので、空気塊にかかるコリオリ力は前のままである。すると、地衡風バランスが崩れ、低圧部側へ向く非地衡風 が励起される。この非地衡風 がコリオリ力により右向きに曲げられ、高圧部側を右に見るような風速が増大する。これにより地衡風と同じ向きの風速が加速される。
地点C: これらにより、空気塊の速度が増大するため、空気塊にかかるコリオリ力も増大する。すると、増大した気圧傾度力とコリオリ力がバランスし、新たな地衡風バランスとなる。
上図の地点 A、B、C は、ジェットストリークの入口に沿って 上流側(西)から下流側(東)に向かって A → B → C の順に並んでいます。
入口では下流ほどジェット気流の中心(J)に近づくため、A → B → C と進むほど 等高度線の間隔が狭くなり、気圧傾度力が大きく、風速も大きくなっていきます。
- 地点 A:等高度線の間隔は広く、気圧傾度力もコリオリ力も小さく、両者がつり合った地衡風バランスが成立しています。
- 地点 B:等高度線の間隔が狭くなり、気圧傾度力が急に大きくなります。しかし、風速はまだ追いついておらず、コリオリ力は気圧傾度力より小さいままです。このため、気圧傾度力の向き(高圧側→低圧側、つまり等高度線の高い側→低い側)に余った力が働き、北向きの非地衡風 \(V_a\) が発生します。
- 地点 C:地点 B で生じた北向きの非地衡風 \(V_a\) に、コリオリ力(北半球では風向に対して直角=右向き)が働きます。北向きの \(V_a\) には 東向きのコリオリ力 が働き、これが 西風 V を加速 させます。V が大きくなることでコリオリ力も大きくなり、再び新たな地衡風バランスが成立します。
ここで重要なのは、地点 B で発生した非地衡風 \(V_a\) の向き です。
\(V_a\) は等高度線の高い側から低い側へ向かう成分を持つため、ジェット気流全体としても、等圧面上で等高度線を高い側から低い側へ横切る形になります。



地衡風だけなら等高度線に沿って吹くはずなのに、加速領域では等高度線を横切るんだね!



そのとおり!ジェット気流を加速させるには、等高度線を「高い側→低い側」に横切る向きの非地衡風が必要なんだよ!
なお、ジェット気流が 減速している領域(参考図の 出口 に相当)では、逆向きの非地衡風が発生し、等高度線を低い側から高い側へ横切る 形になります。
加速領域と対称的な現象として、合わせて押さえておくとよいでしょう。
したがって、ジェット気流の⾵速が下流の⽅ほど⼤きくなっている領域では、ジェット気流は等圧⾯上で等⾼度線を⾼度の⾼い側から低い側に横切ることが多いので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)ジェット気流の南北への蛇⾏が⼤きくなると、偏⻄⾵帯から低緯度側に切り離された上層の寒冷低気圧が形成されることがある。
→ 答えは 正 です。
選択肢 (c) は、ジェット気流の南北方向への大きな蛇行から寒冷低気圧(寒冷渦)が形成される過程 について述べています。
寒冷低気圧(寒冷渦)とは
寒冷低気圧 とは、周囲よりも気温が低い空気(寒気)を中心部に持つ、対流圏上層の低気圧 のことです。
簡単にいうと、上空に寒気の塊(渦)が居座っている状態のことです。
偏西風帯から切り離されてできるため、切離低気圧 ともよばれます。
寒冷低気圧の形成過程
下図は、寒冷低気圧(寒冷渦)が形成される過程を表した模式図です。


上図の左側のように、偏西風が南北方向に 大きく蛇行 すると、南へ蛇行した部分には極側からの寒気が深く入り込みます。
そして、蛇行がさらに発達して根元が閉じると、上図の右側のように、偏西風帯から低緯度側に寒気の塊が切り離され、ひとつの渦として独立します。
これが 寒冷低気圧(切離低気圧) です。



蛇行が大きくなり過ぎて、ちぎれてしまう んだよ!



偏西風帯から離れて低緯度側に取り残された 寒気の塊が、寒冷低気圧 なんだね!
【補足】寒冷低気圧の特徴
寒冷低気圧は、偏西風帯から切り離されているため、動きが遅く、ほぼ停滞 したり、不規則な動きをすることが特徴です。また、上空に寒気を伴うので、地上付近に暖かく湿った空気が流れ込むと 大気の状態が不安定 になり、雷雨や大雨をもたらすことがあります。
したがって、ジェット気流の南北への蛇行が大きくなる と、偏西風帯から低緯度側に切り離された上層の寒冷低気圧(切離低気圧)が形成される ことがあるので、本問の内容は寒冷低気圧の形成過程と一致し、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 正 (c) 正 とする 1 となります。
書いてある場所:P177〜179(ジェット気流)
書いてある場所:P359(ジェット気流)
書いてある場所:P296〜298(ジェット気流)
書いてある場所:P122〜124(ジェット気流)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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