問10解答速報アンケートの正答率 85.2%簡単
発達した台⾵の⼀般的な特徴について述べた次の⽂ (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。
(a) 台⾵が速い速度で移動しているとき、進⾏⽅向の右側では、左側よりも下層の⾵速が⼤きい傾向がある。
(b) 台⾵周辺の⾵を接線成分と動径成分に分け、接線成分の鉛直分布をみると、最も速度が⼤きいのは対流圏上層の圏界⾯に近い⾼度である。
(c) 台⾵の眼の中には下降流があり、断熱圧縮により眼のまわりに⽐べて気温が⾼く、湿度は低くなっている。
(d) 台⾵には、周囲にこれを流す⼤規模な流れがなければ、地球の⾃転の効果により南下する性質がある。
本問は、発達した台風の一般的な特徴に関する問題です。
本問では、台風の移動と風速分布の左右非対称性、接線成分の鉛直分布、眼の構造と暖気核、ベータ効果による移動という、台風の力学・構造に関する基本的な論点が問われています。
それでは、選択肢を1つずつ見ていきましょう。
本問の解説:(a) について
(問題)台風が速い速度で移動しているとき、進行方向の右側では、左側よりも下層の風速が大きい傾向がある。
→ 答えは 正 です。
台風に伴う風は、台風中心のまわりを反時計回りに吹き込みます。
この台風自身の循環風(台風自体の風ベクトル)に、台風そのものの移動による風(移動ベクトル)が加わることで、下層の風速が決まります。
進行方向の右側半円では、台風自体の風ベクトルと移動ベクトルの向きが揃うため、両者が足し合わされて風速が大きくなります。
一方、進行方向の左側半円では、台風自体の風ベクトルと移動ベクトルが逆向きになるため、両者が打ち消し合って風速が小さくなります。
例えば、台風が北向きに移動している場面を考えてみると、進行方向右側半円(東側)の南東から東にかけての地点では、反時計回り循環によって北向きに近い風成分が吹いており、ここに北向きの移動ベクトルが加わるため風速が大きくなります。
逆に左側半円(西側)の北西から西にかけての地点では、反時計回り循環によって南向きに近い風成分が吹いており、北向きの移動ベクトルと打ち消し合って風速が小さくなります。
てるるん台風自身の風に「移動の速さ」が足されるか引かれるかで、台風の左右で差が出るんだよ!



だから台風が速く移動するほど、台風の左右の風速差が大きくなるんだね!
下図は、過去の代表的な台風(伊勢湾台風・室戸台風・7010号台風)について、台風中心からの距離ごとに地上の風速分布を示したものです。
横軸は台風中心からの距離で、左側が西側(左半円)、右側が東側(右半円)にあたります。


上図を見ると、いずれの台風でも最大風速は右半円(東側)の方が左半円(西側)よりも大きくなっていることが分かります。
なお、ゆっくり移動している台風では、移動ベクトルが小さいため、左右半円の風速はほぼ同じになります。
本文では「速い速度で移動しているとき」という前提条件が明示されているため、左右の風速差が明瞭になります。
【補足】台風通過時の風向変化
ちなみに、進行方向の右側と左側では、台風通過時の風向変化の仕方が異なります。


時間の経過とともに風向が時計回りに変化する地点は、台風の進行方向に向かって右側に位置しています。
逆に風向が反時計回りに変化する地点は、進行方向に向かって左側に位置しています。
過去の試験で出題されたこともありますので、合わせて覚えておきましょう。
したがって、台風が速い速度で移動しているとき、進行方向の右側では、左側よりも下層の風速が大きい傾向がありますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)台風周辺の風を接線成分と動径成分に分け、接線成分の鉛直分布をみると、最も速度が大きいのは対流圏上層の圏界面に近い高度である。
→ 答えは 誤 です。
接線成分 とは、台風中心を中心とした円の接線方向の成分のことです。
簡単にいうと、台風中心のまわりをぐるぐる回る成分のことです。
動径成分 とは、台風中心から外側に向かう方向(半径方向)の成分のことです。
簡単にいうと、台風中心に向かって流れ込む(または外へ吹き出す)成分のことです。


では、本問で問われている接線成分の鉛直分布を見てみましょう。
下図は、多くの台風について平均をとった、接線成分の鉛直断面図です。
横軸は台風中心からの距離、縦軸は高度を表しており、等値線が接線成分の速度(m/s)を示しています。


(T. Izawa, 1964: Technical Note No. 2. Meteorological Research Institute.)
いくつかの台風についての平均の図に色をつけたもの
参照:一般気象学 第2版 P238
上図を見ると、接線成分が最大(35m/s)になっているのは中心から約100〜150kmの高度2〜5km 付近であることが分かります。
この高度は、地表面との摩擦がほぼなくなる大気境界層の上端付近にあたります。
なぜ大気境界層の上端付近で接線成分が最大になるかというと、地表面付近では地表との摩擦力によって風速が弱められていますが、高度が上がるにつれて摩擦の影響が小さくなり、約2km上空で摩擦がほぼなくなって最大風速となるためです。
それより上層では、中心付近と周辺との気圧差が小さくなり、気圧傾度力が弱まることから接線成分も小さくなっていきます。





対流圏界面(高度約10〜17km)に近い高度ではなく、もっと下の高度2km付近なんだね!



そのとおり!大気境界層より下では摩擦で弱められ、大気境界層より上では気圧傾度力が弱まるから、ちょうど大気境界層の上端付近で接線成分が最大になるんだよ!
したがって、台風周辺の風の接線成分が最大になるのは「対流圏上層の圏界面に近い高度(高度約10〜17km)」ではなく「大気境界層の上端付近(高度約2〜5km)」ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)台風の眼の中には下降流があり、断熱圧縮により眼のまわりに比べて気温が高く、湿度は低くなっている。
→ 答えは 正 です。
台風の中心部分には、雲がほとんどない 眼(目)と呼ばれる領域があります。
眼のすぐ外側には、眼を取り巻く発達した積乱雲の壁があり、これを 壁雲(アイウォール)と呼びます。
壁雲では強い上昇流と凝結による激しい降水が起こっています。


(出典:『気象ハンドブック』朝倉書店、1979)
壁雲の中で上昇した空気は対流圏上層に達すると、その大部分は、かなとこ雲や巻雲として台風の外側へ吹き出して(流れ出て)いきますが、一部の空気は眼の中で下降流となって降りてきます。
眼の中の下降流は断熱圧縮によって昇温し、相対的に乾燥した状態になるため、眼の中では雲が生じにくく、晴れて見える領域となっています。



壁雲では上昇流で雨がザーザーなのに、眼の中だけは下降流で晴れているっておもしろいね!



そう、下降流で断熱圧縮が起きると気温が上がって、相対的に湿度も下がるんだよ!
次に、台風中心付近の気温分布を見てみましょう。
下図は、最盛期の台風の中心付近における気温偏差(周囲との温度差)の鉛直断面図です。
横軸が中心からの距離(東西方向)、縦軸が高度・気圧を表しています。


(H. F. Hawkins et al., 1968: Mon. Wea. Rev., 96, 617-636.) の図に色をつけたもの。
点線は5つの観測機の飛行高度を示す。180hPaより上方では観測がないので破線で描かれている。等温線は1℃おき。
参照:一般気象学 第2版 P237
上図を見ると、台風中心付近では下層から上層まで周囲よりも気温が高い領域が広がっていることが分かります。
このような台風中心付近の暖かい領域を 暖気核 と呼びます。
暖気核が形成されるしくみは、次の2つです。
- 台風に吹き込む湿った空気が壁雲で上昇する際に、水蒸気の凝結による潜熱が放出されて空気が暖められること
- 本問で問われているように、眼の中の下降流による断熱圧縮で空気が昇温すること
この2つの効果によって、台風中心付近では対流圏全体にわたって周囲よりも暖かく、密度の小さな空気柱が形成されるのです。
密度の小さな空気柱の下では地上気圧が非常に低くなるため、これが台風の中心気圧が低い理由のひとつにもなっています。
したがって、台風の眼の中には下降流があり、断熱圧縮により眼のまわりに比べて気温が高く、湿度は低くなっていますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(d) について
(問題)台風には、周囲にこれを流す大規模な流れがなければ、地球の自転の効果により南下する性質がある。
→ 答えは 誤 です。
台風の移動は、基本的には周囲の大規模な流れ(指向流ともいいます)によって決まります。
低緯度では高気圧の縁辺流や貿易風(偏東風)によって、台風は西へ流されながら北上します。
中・高緯度に達すると偏西風によって、進路が東に変わります。


(出典:小倉義光『一般気象学 第2版補訂版』東京大学出版会、2016)
では、本問で問われているように、周囲にこれを流す大規模な流れがない場合、台風はどう動くのでしょうか。
このとき効いてくるのが、本文にある「地球の自転の効果」、すなわちコリオリパラメータの緯度による違いです。
コリオリパラメータ f は、地球の自転に伴って動く物体に働くコリオリ力の大きさを決める値で、緯度が高いほど大きく、緯度が低いほど小さいという性質があります。
赤道(緯度0°)では f =0になり、北極で最大となります。



コリオリパラメータは緯度で違って、北に行くほど大きいんだよ!
ここで、絶対渦度保存則 を考えます。
これは、摩擦などの効果を無視できる場合、ある空気塊が持つ絶対渦度(=コリオリパラメータ f +相対渦度 ζ)は保存される、という法則です。
f + ζ = 一定
つまり、空気塊が南北方向に動いて f が変化すると、その変化を打ち消すように相対渦度 ζ が変化することを意味します。
これを台風周辺に当てはめて考えてみましょう。
台風中心のまわりには反時計回りの風が吹いており、台風の西側では南風(南から北へ向かう風)が、東側では北風(北から南へ向かう風)が吹いています。
台風中心の西側では、南風によって空気塊が北へ運ばれて緯度が上がり、f が大きくなります。
f + ζ が一定なので、f が大きくなれば相対渦度 ζ は小さくなります。
相対渦度が小さくなる(あるいは負になる)ということは、台風の西側には高気圧性循環(時計回り)が新たに作り出されることを意味します。
逆に台風中心の東側では、北風によって空気塊が南へ運ばれて緯度が下がり、f が小さくなるため、相対渦度 ζ は大きくなります。
相対渦度が大きくなる(あるいは正になる)ということは、台風の東側には低気圧性循環(反時計回り)が新たに作り出されることを意味します。



絶対渦度が一定だから、空気塊が南北に動くと f と ζ が逆向きに変わるんだね!
このように台風中心の西側に高気圧性循環、東側に低気圧性循環が新たに作り出されると、両者の組み合わせによって台風中心を北西へ押し流す流れが生まれます。
その結果、台風は 北西方向 へ移動します。
このように、地球の自転の効果(コリオリパラメータの南北方向の変化)によって台風が移動する効果を ベータ効果 、それによる台風の移動を ベータドリフト と呼びます。





周りに流れがなくても、地球が自転していること自体が台風を北西に動かす力を作るんだ!これが「ベータ効果」だよ!
したがって、台風には、周囲にこれを流す大規模な流れがなければ、台風は地球の自転の効果により「南下する」のではなく「北上する(より正確には北西方向に進む)」性質がありますので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 誤 (c) 正 (d) 誤 とする 2 となります。
書いてある場所:P231〜242(台風)
書いてある場所:P406〜417(台風)
書いてある場所:P354〜366(台風)
書いてある場所:P155〜166(台風)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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