問8
経度⽅向に帯状平均した 12⽉〜2⽉の3か⽉平均の東⻄⾵の緯度⾼度分布に認められる特徴について述べた次の⽂ (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。
(a) 亜熱帯ジェット気流の軸は、南北両半球ともに 500hPa 付近の⾼度に現れる。
(b) 12⽉〜2⽉の北半球の亜熱帯ジェット気流は、6⽉〜8⽉に北半球に現れる亜熱帯ジェット気流よりも⾵速が⼤きく、その軸はより⾼緯度に現れる。
(c) 北半球の寒帯前線ジェット気流の軸は、亜熱帯ジェット気流の軸よりも明瞭であり、北緯 60 度付近に現れる。
(d) ⾚道周辺の下層では、ハドレー循環に伴う東よりの⾵が卓越している。
本問は、経度⽅向に帯状平均した 12⽉〜2⽉の3か⽉平均の東⻄⾵の緯度⾼度分布に認められる特徴に関する問題です。
本問の解説:(a) について
(問題)亜熱帯ジェット気流の軸は、南北両半球ともに 500hPa 付近の⾼度に現れる。
→ 答えは 誤 です。
亜熱帯ジェット気流 とは、緯度 30 度付近の上空にほぼ定常的に吹く強い西風の流れのことで、亜熱帯ジェット気流の軸(=最も風が強い部分)は、対流圏の上層(高度約 12 km付近)に位置します。
気圧で表すと、約 200hPa 付近 に相当します。
下図は、経度方向に帯状平均した6〜8月 および 12月~2月平均の東西風の緯度-高度分布の気候値図です。

画像出典:気象庁ホームページ「JRA-55 アトラス」

画像出典:気象庁ホームページ「JRA-55 アトラス」
上図を見ると、亜熱帯ジェット気流の強風軸が約 200hPa 付近にあることが分かります。
したがって、亜熱帯ジェット気流の軸は、南北両半球ともに「 500hPa 」ではなく「 200hPa 」付近の⾼度に現れますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)12⽉〜2⽉の北半球の亜熱帯ジェット気流は、6⽉〜8⽉に北半球に現れる亜熱帯ジェット気流よりも⾵速が⼤きく、その軸はより⾼緯度に現れる。
→ 答えは 誤 です。
北半球の亜熱帯ジェット気流の風速は、冬季(12月~2月)の方が、夏季(6月~8月)よりも大きくなります。
これは、冬季には中緯度と低緯度の温度差が大きくなり、気圧傾度が強まるため、ジェット気流の風速が増すためです。
一方、北半球の亜熱帯ジェット気流が現れる緯度は、冬季(12月~2月)の方が、夏季(6月~8月)よりも低緯度になります。
これは、冬季には太陽からの加熱帯が赤道寄りに移動し、それに伴ってハドレー循環も赤道側にシフトするためです。

画像出典:気象庁ホームページ「JRA-55 アトラス」

画像出典:気象庁ホームページ「JRA-55 アトラス」
実際に上図を見ると、北半球の亜熱帯ジェット気流の風速は、冬季(12月~2月)で約 43 m/s、夏季(6月~8月)で約 22 m/sとなっており、冬季の方が風速が大きいことが分かります。
また、北半球の亜熱帯ジェット気流が現れる緯度は、冬季(12月~2月)で北緯 30 度付近、夏季(6月~8月)で緯度 40 度から北緯 50 度付近となっており、冬季の方が低緯度にあることが分かります。
したがって、12⽉〜2⽉の北半球の亜熱帯ジェット気流は、6⽉〜8⽉に北半球に現れる亜熱帯ジェット気流よりも⾵速が⼤きいのは正しいですが、その軸はより「⾼緯度」ではなく「低緯度」に現れますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)北半球の寒帯前線ジェット気流の軸は、亜熱帯ジェット気流の軸よりも明瞭であり、北緯 60 度付近に現れる。
→ 答えは 誤 です。
寒帯前線ジェット気流 と 亜熱帯ジェット気流 はいずれも上空の強い西風帯のことです。
亜熱帯ジェット気流 は、熱帯から中緯度にかけての大気の南北の温度差や角運動量の保存により形成され、比較的安定していて蛇行も小さく、軸がはっきりしています。
そのため、気象衛星の観測や数値予報資料でも明瞭に捉えられることが多く、平均的には北緯30度付近に位置します。
一方、寒帯前線ジェット気流 は、中緯度と高緯度の間に位置する寒帯前線に沿って発生するもので、温帯低気圧や大気の波動活動(ロスビー波など)の影響を強く受けます。
このため、蛇行が大きく、分裂や合流を繰り返すなど構造が複雑で、軸の位置も日々変化しやすいという特徴があります。
軸の明瞭さという点では、亜熱帯ジェット気流ほど明瞭でない場合が多いです。
また、寒帯前線ジェット気流 は、季節や気象状況によっては一時的に北緯 60 度付近まで北上することもありますが、平均的には北緯 40 〜 50 度付近に現れます。
したがって、北半球の寒帯前線ジェット気流の軸は、亜熱帯ジェット気流の軸よりも「明瞭」ではなく「不明瞭」であり、「北緯 60 度付近」ではなく「北緯 40 〜 50 度付近」に現れますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d) について
(問題)⾚道周辺の下層では、ハドレー循環に伴う東よりの⾵が卓越している。
→ 答えは 正 です。
赤道付近では、子午面循環のひとつである ハドレー循環 が卓越しています。

ハドレー循環 とは、赤道付近で太陽エネルギーを強く受けた空気が上昇し、対流圏上層で北緯・南緯それぞれ 30 度付近まで運ばれた後、冷えて下降し、地表付近を通って再び赤道方向へ戻るという、大規模な大気の循環のことです。
この循環の地表付近では、北半球・南半球ともに緯度 30 度付近から赤道に向かって空気が流れ込みますが、地球の自転によるコリオリの力の影響を受けて、いずれも 東よりの風 になります。
この東よりの風は 貿易風 と呼ばれ、赤道周辺では年間を通して安定して吹いています。
したがって、⾚道周辺の下層では、ハドレー循環に伴う東よりの⾵が卓越していますので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 誤 (c) 誤 (d) 正 とする 5 となります。
書いてある場所:P170〜176(ハドレー循環)、P177〜179(ジェット気流)
書いてある場所:P359(ジェット気流)、P353〜354(ハドレー循環)
書いてある場所:P291〜292(ハドレー循環)、P296〜298(ジェット気流)
書いてある場所:P118〜120(ハドレー循環)、P122〜124(ジェット気流)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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