【第64回】2025年8月試験(学科専門試験)問6(気温、⾵、発雷確率ガイダンス)

問6解答速報アンケートの正答率 77.8%普通

気象庁が作成している気温、⾵、発雷確率のガイダンスについて述べた次の⽂ (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

(a) 数値予報モデルは、季節によって予測誤差の傾向が変化することがある。気温ガイダンスはそのような場合にも気温の系統誤差を軽減することができる。

(b) ⾵ガイダンスは、数値予報モデルに組み込まれている地形と実際の地形の違いによって⽣じる⾵向⾵速の予測誤差を軽減することができる。

(c) ⾵は地形の影響を受けることや、⽇中と夜間で数値予報モデルの⾵の予測の誤差特性が異なることから、⾵ガイダンスの予測式は予報対象時刻や⾵向で層別化されている。

(d) 発雷確率ガイダンスは、対象領域内での発雷数の多寡を予測するガイダンスである。

   





解説

本問は、気象庁が作成している気温・風・発雷確率のガイダンスに関する問題です。

ガイダンスは、過去の出題でも繰り返し問われている頻出テーマで、本問では気温・風・発雷確率という3種類のガイダンスについて、その作成手法(カルマンフィルター/ロジスティック回帰)や得意・不得意(系統誤差の補正、層別化)が幅広く問われています。

各ガイダンスの特性と作成手法をひとつずつ整理しながら、選択肢を見ていきましょう。

予備知識:ガイダンスとは

ガイダンス とは、数値予報モデルの予測値(気温・風・湿度など)を統計的に補正し、さらに数値予報モデルが直接出力していない天気カテゴリーや発雷確率などを作成することで、予報作業を支援する資料のことです。

簡単にいうと、数値予報の結果を、私たちが普段見る予報(晴れ・曇り・雨、最高気温〇〇℃、発雷確率〇〇% など)に「翻訳」する仕組みです。

下図は、ガイダンスのイメージを表したものです。

ガイダンス
気象庁「ガイダンスについて〜近年の特性と降⽔量ガイダンスの改良〜」をもとに作成

上図のように、ガイダンスは数値予報モデルが出力する大量の数値データから、利用者が天気予報や防災情報に活用しやすい情報へと変換する役割を担っています。

ガイダンスの作成では、カルマンフィルターニューラルネットワークロジスティック回帰などの統計手法が用いられており、目的に応じて使い分けられています。

てるるん

ガイダンスは「数値予報を予報文に翻訳する仕組み」だと思うとイメージしやすいんだよ!

てるらん

気温も風も発雷確率も、それぞれ別の手法で作られているんだね!

それでは、選択肢を1つずつ見ていきましょう。

本問の解説:(a) について

(問題)数値予報モデルは、季節によって予測誤差の傾向が変化することがある。気温ガイダンスはそのような場合にも気温の系統誤差を軽減することができる。

→ 答えは です。

まずは、数値予報モデルが持つ「系統誤差」について確認しておきましょう。

系統誤差 とは、ある条件のもとで一定の傾向や大きさで生じる規則的な誤差のことです。

簡単にいうと、「特定の地点ではいつも風速を強めに予想する」「ある地形では実際より気温を高く予想しがち」といったような、繰り返し同じパターンで現れる予測のクセのことです。

数値予報モデルでは、地形表現の不完全さや物理過程の不完全さなどに起因して、このような系統誤差が生じます。

そして、本問の問題文にあるように、この系統誤差は季節によって傾向が変化することがあります

例えば気温の場合、夏は日射による地表面加熱の効果が強くなり、冬は放射冷却の効果が強くなるなど、地表面付近で行われる熱のやりとりは季節によって大きく変わります。

「夏は気温を低めに予想しがち」「冬の朝の最低気温は高めに予想しがち」といった形で、気温の系統誤差の傾向そのものが季節とともに変化していくのです。

このため、気温ガイダンスでは「 カルマンフィルター 」という手法が用いられています。

カルマンフィルター とは、過去の推定値と現在の観測値を組み合わせて、誤差を含むデータから正確な値を逐次的に推定する時系列解析の手法です。

簡単にいうと、新しい観測値が得られるたびに予測式の係数を少しずつ更新していく手法で、逐次学習 と呼ばれます。

てるらん

季節が変わって誤差の傾向が変化しても、カルマンフィルターが少しずつ係数を更新してくれるから、ちゃんと追いついていけるんだね!

てるるん

そのとおり!数値予報モデルの改良などで予測特性が変わったときも、逐次学習によって自動的に対応できるんだよ!

したがって、気温ガイダンスはカルマンフィルターによる逐次学習を用いて、季節による予測誤差の傾向変化にも対応して系統誤差を軽減することができますので、答えは となります。

本問の解説:(b) について

(問題)風ガイダンスは、数値予報モデルに組み込まれている地形と実際の地形の違いによって生じる風向風速の予測誤差を軽減することができる。

→ 答えは です。

地上の風は地形の影響を大きく受けます。

狭い谷間では谷に沿って強風が吹いたり、山影ではごく弱い風しか観測されないことがあったり、山岳を挟んで全く逆の風が吹くこともあります。

一方、気象庁の数値予報で用いられているモデル地形は、水平格子間隔が13km5km程度のため、富士山や南北アルプスが識別できる程度の地形しか取り入れられていません。

つまり、実際の地形ほど細かい凹凸を表現できておらず、モデル地形と実地形には差があります

下図は、MSM(メソモデル)のモデル地形を示したものです。

実際の地形とMSMの地形の違い

上図のように、MSMの地形では伊豆諸島の新島は表現されておらず海になっています。

そのほかにも、MSMのモデル地形は富士山や南北アルプスといった大きな山岳は識別できていますが、それより細かい谷や尾根は表現しきれていないことが分かります。

このモデル地形と実地形の違いは、数値予報の風予測において規則的に生じる誤差となるため、系統誤差 として扱うことができます。

風ガイダンス は、数値予報で予想された地上風の東西風速成分南北風速成分それぞれを予測因子として、カルマンフィルターを用いて作成されています。

風向の予測は、予測された東西成分と南北成分を合成して算出されます。

てるらん

風速の系統誤差が補正されれば、その成分から計算される風向の系統誤差も同じくらい補正されるんだね!

てるるん

そういうこと!東西成分と南北成分をそれぞれ補正すれば、合成した風向・風速も自然と補正されるんだよ!

したがって、風ガイダンスは数値予報モデルの地形と実際の地形の違いによって生じる風向風速の予測誤差を軽減することができますので、答えは となります。

本問の解説:(c) について

(問題)風は地形の影響を受けることや、日中と夜間で数値予報モデルの風の予測の誤差特性が異なることから、風ガイダンスの予測式は予報対象時刻や風向で層別化されている。

→ 答えは です。

ここでポイントとなるのが、層別化 という考え方です。

層別化 とは、データを時刻・季節・地点・風向などの条件で分けて学習し、それぞれに対して別々の予測式(係数)を求めて予測に利用する手法のことです。

簡単にいうと、条件が違えば誤差のクセも違うはずだから、条件ごとに別の予測式を作ろうという考え方です。

例えば、風ガイダンスでは以下のような層別化が行われています。

層別化の軸具体例狙い
地点アメダス地点・空港地点ごと地形の影響は地点ごとに異なるため
初期時刻00, 06, 12, 18 UTC など初期時刻によって予測誤差の特性が異なるため
予報対象時刻日中/夜間日射による地表面加熱の影響で、日中と夜間で誤差特性が異なるため
風向北東・南東・南西・北西の4方向風向によってモデル地形を吹き越える経路が変わり、誤差特性が異なるため

上表のように、風ガイダンスでは、予報対象時刻風向などで層別化することで、それぞれの条件に応じた適切な誤差の補正が期待できるようになっています。

てるらん

誤差のクセが違うものをひとまとめにして予測式を作っちゃうと、うまく合わなくなりそうだね。

てるるん

そのとおり!だから条件ごとに分けて、それぞれ別の予測式を作るんだよ!これが「層別化」の意味だよ!

したがって、風ガイダンスの予測式は予報対象時刻風向層別化されていますので、答えは となります。

本問の解説:(d) について

(問題)発雷確率ガイダンスは、対象領域内での発雷数の多寡を予測するガイダンスである。

→ 答えは です。

発雷確率ガイダンス とは、対象期間内に対象区域内のどこかで発雷が起きる可能性の高低を確率(%)で示すガイダンスです。

ポイントは、発雷確率ガイダンスが示しているのは「発雷の起こりやすさ」であり、「発雷の強度の強弱」や「発雷数の多寡」ではないという点です。

発雷確率ガイダンスは、気象庁の全国20km格子ごとに、3時間内の発雷の有無を予測するガイダンスです。

GSM(全球モデル)では84時間先まで、MSM(メソモデル)では39時間先まで、それぞれ3時間間隔で算出されます。

作成手法には ロジスティック回帰 という統計手法が用いられています。

ロジスティック回帰 とは、目的変数が0か1(現象が発生するかしないか)の2値しかとらない場合に適した手法です。

下図は、発雷確率ガイダンスの作成方法の概念図です。

発雷確率ガイダンスの作成方法
気象庁「数値予報課報告・別冊第64号 ガイダンスの解説」(2018)をもとに作成

上図のように、発雷確率ガイダンスでは、説明変数として CAPE(対流有効位置エネルギー)SSI(ショワルターの安定指数)などの大気の安定度に関わる指数が用いられており、目的変数として対象とする20km格子を含む周辺の9格子(60km四方)における対象期間内の発雷の有無(あり:1/なし:0)が用いられています。

なお、雷は発生頻度の低い現象であるため、過去の資料から一括学習によって回帰式を一度に求める方式が採用されており、気温ガイダンスや風ガイダンスのような逐次学習は行われていません

てるらん

発雷確率ガイダンスは「発雷があるかないか」を予測するもので、「何回雷が鳴るか」を予測するものじゃないんだね!

てるるん

そういうこと!「30%」というのは「対象区域のどこかで雷が起きる確率が30%」という意味で、「雷が30回鳴る」とか「雷の強さが30」という意味じゃないんだよ!

したがって、発雷確率ガイダンスが予測しているのは、「発雷数の多寡」ではなく「発雷の有無の可能性の高低」ですので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(a) (b) (c) (d) とする となります。

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書いてある場所:ー


書いてある場所:ー


書いてある場所:P278〜285(ガイダンス)


書いてある場所:P387〜401(ガイダンス)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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