問2
気象庁が行っているウィンドプロファイラ観測について述べた次の文 (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) ウィンドプロファイラは、上空に向かって発射された電波が大気の乱れ等で散乱されて戻ってきた時の電波の強度の情報を利用して、上空の風向風速を測定する装置である。
(b) 雨が降っている場合、大気の乱れによる電波の散乱よりも雨粒による散乱の方が強いため、測定された鉛直方向の速度は雨粒の落下速度を捉えたものとなる。
(c) 上空の大気が湿っているほど、電波が水蒸気によって減衰する量が多くなることから、観測可能な高度は低くなる傾向がある。
(d) ウィンドプロファイラの観測データは、大気現象の監視や大気の立体構造の把握に利用されるとともに、数値予報の初期値作成にも利用されている。
本問は、気象庁が行っているウィンドプロファイラ観測に関する問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)ウィンドプロファイラは、上空に向かって発射された電波が大気の乱れ等で散乱されて戻ってきた時の電波の強度の情報を利用して、上空の風向風速を測定する装置である。
→ 答えは 誤 です。
ウィンドプロファイラ は、上空の風向・風速を測定する装置です。
具体的には、地上から上空に向かって5つの方向(鉛直方向と東西南北)に電波を発射します。
発射された電波は、大気の乱れや降水粒子など(=散乱体)に当たって散乱されますが、その際、これらの散乱体が風に流されているため、ドップラー効果により、戻ってくる電波の周波数がわずかに変化します。
この周波数の変化を利用して、風向・風速を測定します。
(ちなみに、ウィンドプロファイラとは「ウィンド(風)のプロファイル(横顔・側面図)を描くもの」という意味です。)
したがって、ウィンドプロファイラは、上空に向かって発射された電波が大気の乱れ等で散乱されて戻ってきた時の電波の「強度の情報」ではなく「周波数の変化」を利用して、上空の風向風速を測定する装置ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)雨が降っている場合、大気の乱れによる電波の散乱よりも雨粒による散乱の方が強いため、測定された鉛直方向の速度は雨粒の落下速度を捉えたものとなる。
→ 答えは 正 です。
ウィンドプロファイラは、上空の風向・風速を測定する装置で、大気の乱れや雨粒などによる電波の散乱を利用して観測を行います。
雨粒の大きさは大気の粒子よりもはるかに大きいため、後方散乱断面積も雨粒の方が大きくなります。
後方散乱断面積について詳しく知りたい方は、下記記事の問題(b)の解説を参照してください。
このため、散乱される電波の強度も、雨粒による散乱の方が、大気の乱れによる散乱より強くなります。
その結果、雨が降っている場合、ウィンドプロファイラが受信する信号は雨粒の動きを反映しやすくなり、測定される鉛直方向の速度は、雨粒の落下速度を示すことになります。
したがって、雨が降っている場合、大気の乱れによる電波の散乱よりも雨粒による散乱の方が強く、測定された鉛直方向の速度は雨粒の落下速度を捉えたものとなりますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)上空の大気が湿っているほど、電波が水蒸気によって減衰する量が多くなることから、観測可能な高度は低くなる傾向がある。
→ 答えは 誤 です。
ウィンドプロファイラは、「大気の屈折率のゆらぎ」を利用して観測しています。
大気の屈折率 とは、物質中を進む光や電波が曲がる度合いのことであり、気温や湿度、大気中の水蒸気量などによって決まります。
気温や湿度、水蒸気量は大気中で一様ではないので、大気の屈折率も大気中で一様ではありません。
例えば、ある場所では暖かく湿っており、別の場所では冷たく乾燥しているかもしれません。
こうした違いがあると、大気中の屈折率に変化(=空間変動)が生じます。
この変化が 大気の屈折率のゆらぎ です。
電波は通常、直進しますが、大気の屈折率のゆらぎがあるところでは、電波の向きや進む速さが変わります。
この屈折率のゆらぎが広範囲にわたると、電波はそのゆらぎによって様々な方向に進むようになり、結果として、電波が散乱し、その一部がウィンドプロファイラの元へ戻ってくるようになります。
ウィンドプロファイラは、このように散乱して戻ってきた電波をキャッチして、上空の風向や風速を測定しています。
屈折率のゆらぎが大きいほど、より多くの電波が散乱されるため、ウィンドプロファイラで検出できる信号も強くなります。
じゃあ、どういう時に屈折率のゆらぎが大きくなるの?
屈折率のゆらぎは、大気中の水蒸気量が多いほど、大きくなることが分かっています。
イメージとしては、大気中の水蒸気量が多い霧の中では、車のライトが散乱してぼやけて見るのと同じだよ!
つまり、大気中の水蒸気量が多く、上空の大気が湿っているほど、ウィンドプロファイラの発射した電波が散乱されやすくなり、その散乱された電波を受信することで、より高い高度まで観測が可能になるのです。
逆に、乾燥した空気では屈折率のゆらぎが小さいので、散乱される電波も弱く、ウィンドプロファイラが観測できる高度も低くなります。
実際に、ウィンドプロファイラの観測可能な高度には季節変化があり、水蒸気量が多い暖候期には観測可能な高度が高く、水蒸気量が少ない寒候期には観測高度が低くなる傾向があります。
したがって、上空の大気が湿っているほど、電波が「水蒸気によって減衰する量が多くなることから、観測可能な高度は低くなる傾向がある」のではなく、「水蒸気によって散乱する量が多くなることから、観測可能な高度は高くなる傾向がある」ので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d)について
(問題)ウィンドプロファイラの観測データは、大気現象の監視や大気の立体構造の把握に利用されるとともに、数値予報の初期値作成にも利用されている。
→ 答えは 正 です。
ウィンドプロファイラは、気象庁が日本全国33か所に設置し、10分ごとに高度300m単位で上空の風を観測しています。
ウィンドプロファイラで観測した上空の風の情報は、下図のように前線や台風の位置や動きなどの大気の立体構造を詳しく把握するのに役立ちます。
また、ウィンドプロファイラの観測データは数値予報の初期値としても利用されています。
現在、数値予報では「4次元変分法(4D-Var)」という手法が採用されており、これは単に3次元空間だけでなく、観測データを時間の経過とともに取り入れることで、過去から現在、そして未来に向けた大気の変化をより正確に予測するための手法です。
(4次元変分法についてより詳しく知りたい方は、気象庁報道発表資料「全球数値予報モデルの改善について~高度な初期値解析手法「4次元変分法」の導入~」を参照してください。)
これまで、数値予報の初期値として使用する上空の風は、ゾンデ(気球)や航空機、気象衛星などの観測データを利用していました。
しかし、ウィンドプロファイラの登場により、高頻度で詳細な上空の風を観測できるようになってからは、ウィンドプロファイラの観測データも数値予報の初期値として利用することで、より精度の高い予測ができるようになりました。
したがって、ウィンドプロファイラの観測データは、大気現象の監視や大気の立体構造の把握に利用されるとともに、数値予報の初期値作成にも利用されていますので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 正 (c) 誤 (d) 正 とする 4 となります。
書いてある場所:P250(ウィンドプロファイラ)
書いてある場所:ー
書いてある場所:P183〜185(ウィンドプロファイラ)、P224〜225、P241(四次元変分法)
書いてある場所:P259〜262(ウィンドプロファイラ観測)、P307〜309(4次元変分法)
書いてある場所:P81〜84(ウィンドプロファイラ観測)
気象庁ホームページ「ウィンドプロファイラ」
気象庁報道発表資料「ウィンドプロファイラ観測データの部外提供の開始について」
PDF資料「気象庁におけるウィンドプロファイラ観測業務」
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
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