【第61回】2024年1月試験(学科専門試験)問9(温帯低気圧)

問9

北半球の偏西風帯における、東進する発達中の温帯低気圧について述べた次の文 (a) ~ (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

(a) 温帯低気圧の発達には、水蒸気の凝結によって放出される潜熱の補給が不可欠である。

(b) 温帯低気圧の進行方向前面では暖かい空気が上昇し、後面では冷たい空気が下降することにより、温帯低気圧の運動エネルギーが増大している。

(c) 2つの異なる等圧面の鉛直方向の間隔 (高度差) は、地上の温帯低気圧の東側では西側に比べて大きい。

(d) 温帯低気圧に伴う温暖前線では、寒冷前線と比較して層状性の雲が形成されやすく、乱層雲などから降水がもたらされる。

   





解説

本問は、北半球の偏西風帯における、東進する発達中の温帯低気圧に関する問題です。

本問の解説:(a)について

(問題)温帯低気圧の発達には、水蒸気の凝結によって放出される潜熱の補給が不可欠である。

→ 答えは です。

温帯低気圧は、有効位置エネルギー」が「運動エネルギー」に変換されることで発達します。

有効位置エネルギー とは、すべての位置エネルギーのうち、運動エネルギーに変換できる位置エネルギーのことです。(詳しくは下記で説明します。)

下図は、「有効位置エネルギー」から「運動エネルギー」への転換を表した模式図です。

有効位置エネルギーの転換
画像:一般気象学 [第2版] 著:小倉義満
P192 図7.24「冷気が暖気の下にもぐりこみ、位置のエネルギーが減ることを示す模式図」をもとに作成。

間に(太実線)をつくった箱があり、その箱の中には寒気暖気が、それぞれ壁を隔てて左側と右側に入っているとします。

実際の大気でいうと、高緯度側に寒気、低緯度側に暖気があり、暖気寒気の境目(壁の部分)中緯度というイメージです。

この箱の中の壁を取り除くと、寒気は重たいので箱の下のほうへ流れていき、暖気は軽いので箱の上のほうへ流れていきます。

そして、最終的に(2つの空気が混ざり合わない限り)寒気は箱の下のほうに溜まり、暖気は箱の上のほうに溜まることになります。

物体の位置エネルギーは、(基準面からの)高さが高いほど大きく物体が重いほど大きくなります。

そして、この関係は空気に対しても当てはまります。

寒気は、上から下に(高さが低くなる方向に)流れていくので、位置エネルギーは減少します。

暖気は、下から上に(高さが高くなる方向に)流れていくので、位置エネルギーは増加します。

しかし、寒気の方が暖気よりも重たいため、寒気が失う位置エネルギーの量は、暖気が得る位置エネルギーの量よりも大きくなります。

つまり、「寒気の位置エネルギー減少量暖気の位置エネルギー増加量」となり、この差分が運動エネルギーとして変換されます。

こうして、温帯低気圧は寒気暖気位置エネルギーの差運動エネルギーに変換することで発達していくのです。

(このように、位置エネルギーの中でも、運動エネルギーに変換できる位置エネルギーのことを「有効位置エネルギー」といいます。)

一方、問題文のように、空気中の水蒸気の凝結によって放出される「潜熱」が「運動エネルギー」に変換されることで発達するのは、台風などの熱帯低気圧です。

てるるん

つまり
温帯低気圧有効位置エネルギー運動エネルギー で発達
熱帯低気圧潜熱運動エネルギー で発達
ということだよ!

したがって、温帯低気圧の発達には、「潜熱」ではなく「有効位置エネルギー」が不可欠ですので、答えは となります。

本問の解説:(b)について

(問題)温帯低気圧の進行方向前面では暖かい空気が上昇し、後面では冷たい空気が下降することにより、温帯低気圧の運動エネルギーが増大している。

→ 答えは です。

問題(a)で考えたように、温帯低気圧は、有効位置エネルギー運動エネルギーに変換することで発達します。

下図は、温帯低気圧の立体的な模式図です。

温帯低気圧
画像出典:ウェザーニュース「台風と温帯低気圧の違い

温帯低気圧の前面では暖気が上昇し、後面では寒気が下降するので、これにより有効位置エネルギーが運動エネルギーに変換され、発達します。

したがって、温帯低気圧の進行方向前面では暖かい空気が上昇し、後面では冷たい空気が下降することにより、温帯低気圧の運動エネルギーが増大していますので、答えは となります。

本問の解説:(c)について

(問題)2つの異なる等圧面の鉛直方向の間隔 (高度差) は、地上の温帯低気圧の東側では西側に比べて大きい。

→ 答えは です。

下図は、発達中の偏西風波動の東西鉛直断面図です。

発達中の偏西風波動の断面図
画像:一般気象学 [第2版] 著:小倉義満
P184 図7.15「発達しつつある偏西風波動の東西鉛直断面内の構造の模式図」をもとに作成。

温帯低気圧の前面では暖気移流、後面では寒気移流になっているので、上図を見ると、(少し分かりづらいかもしれませんが)暖気のある低気圧前面の方が層厚が大きく、等圧面間の高度差が大きくなっていることが分かります。

したがって、2つの異なる等圧面の鉛直方向の間隔 (高度差) は、地上の温帯低気圧の東側では西側に比べて大きいので、答えは となります。

本問の解説:(d)について

(問題)温帯低気圧に伴う温暖前線では、寒冷前線と比較して層状性の雲が形成されやすく、乱層雲などから降水がもたらされる。

→ 答えは です。

温暖前線では、暖かい空気が冷たい空気を押してはい上がって進んで行くため、主に層状性の雲を作ります。

このため、乱層雲などから降水がもたらされます。

温暖前線の鉛直断面
画像出典:ウェザーニュース「1分でわかる天気のコトバ〜温暖前線〜

一方、寒冷前線では、冷たい空気がどんどん暖かい空気の下へ潜り込んで進んでいくため、暖かい空気は急激に上昇させられて、主に対流性の雲をつくります。

このため、積雲積乱雲などからの降水がもたらされ、にわか雨や雷雨が発生します。

寒冷前線の鉛直断面
画像出典:ウェザーニュース「1分でわかる天気のコトバ〜寒冷前線〜

したがって、温帯低気圧に伴う温暖前線では、寒冷前線と比較して層状性の雲が形成されやすく、乱層雲などから降水がもたらされますので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(a) (b) (c) (d) とする となります。

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書いてある場所:P182〜195(偏西風帯の波動と温帯低気圧、傾圧不安定波)


書いてある場所:P368〜373(温帯低気圧)


書いてある場所:P318〜324(温帯低気圧)


書いてある場所:P131〜138(温帯低気圧)


書いてある場所:P200〜208(温帯低気圧)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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