問15
図A~Cは、3か月予報の基礎資料となる、ある冬 (12月~2月) の数値予報による予想図である。図Aは海面水温の平年偏差、図Bは200hPa流線関数の平年偏差、図Cは500hPa高度及び平年偏差の予想図である。これらの図に基づく予想について述べた次の文章の下線部 (a) ~ (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
図Aでは、太平洋赤道域の中部から東部の海面水温が (a) 平年より高く、エルニーニョ現象発生時に見られる特徴が予想されている。また、インドネシア付近からインド洋東部にかけては平年並みかやや低い予想となっている。図Aの海面水温分布に対応して、インドネシア付近からインド洋東部にかけては降水量が平年より少ない予想 (図略) であり、このことが影響して、図Bでは、中国大陸から日本付近にかけての流れは、平年に比べて (b) 中国大陸では北に、その東側では南に蛇行する予想となっている。図Cでは、(c) 日本付近は正偏差に覆われており、平年に比べて寒気が南下しにくいことが予想されている。
本問は、3か月予報の基礎資料となる、ある冬(12月~2月)の数値予報資料による予想図に関する問題で、エルニーニョ現象に着目します。
本問の解説:(a)について
(問題)図Aでは、太平洋赤道域の中部から東部の海面水温が (a) 平年より高く、エルニーニョ現象発生時に見られる特徴が予想されている。また、インドネシア付近からインド洋東部にかけては平年並みかやや低い予想となっている。
→ 答えは 正 です。
エルニーニョ現象 とは、赤道付近の東太平洋(ペルー沖)の海面水温が平年より高くなる現象です。
下図のように、通常、赤道の海面付近にある暖かい海水は、貿易風(東風)によって太平洋西部に吹き寄せられるため、インドネシア付近で対流活動や降雨をもたらします。
しかし、下図のように、何らかの要因 ※ で貿易風(東風)が弱まると、暖かい海水を西へ吹き寄せる力が弱まるため、暖かい海水のある領域が平年よりも東へ移動します。
(※ 何らかの要因の「何らか」とは気象学的にまだ解明されていません。)
これに伴い、対流活動が活発な領域も、平年より東へずれることで、インドネシア付近では干ばつ、ペルー付近では豪雨をもたらします。
さらに、エルニーニョ現象は太平洋高気圧の勢力にも影響します。
太平洋高気圧は、インドネシア付近の対流活動によって生じる上昇気流が北上し、中緯度帯で下降することで形成されます。
つまり、対流活動が活発で上昇流が強くなるほど、中緯度帯での下降流も強くなるため、太平洋高気圧の勢力が強くなります。
エルニーニョ現象が発生すると、インドネシア付近の海面水温が低くなり、対流活動が弱まるため、太平洋高気圧の勢力も弱くなります。
その結果、日本では太平洋高気圧の張り出しが弱く、冷夏になりやすくなります。
また、冬になると、夏よりも海面水温がさらに下がりやすいため、インドネシア付近での上昇気流がさらに弱まり、偏西風が蛇行しやすくなります。
これにより、太平洋西部に高気圧が発生しやすくなり、西高東低の冬型の気圧配置が弱まります。
その結果、日本への寒気の流入が抑えられ、暖冬につながります。
エルニーニョ現象は、赤道付近の東太平洋(ペルー沖)の海面水温が平年より高くなる現象で、日本では冷夏・暖冬になりやすいんだね!
一方、エルニーニョ現象の対となる現象をラニーニャ現象といいます。
ラニーニャ現象 とは、赤道付近の東太平洋(ペルー沖)の海面水温が平年より低くなる現象です。
下図のように、何らかの要因 ※ で貿易風(東風)が強まると、暖かい海水を西へ吹き寄せる力が強まるため、平年よりも暖かい海水が西へ移動します。
(※ 何らかの要因の「何らか」とは気象学的にまだ解明されていません。)
これに伴い、対流活動が活発な領域も、平年より西へずれることで、インドネシア付近で豪雨をもたらします。
ラニーニャ現象が発生すると、インドネシア付近の海面水温が高くなり、対流活動が強まるため、太平洋高気圧の勢力も強くなります。
その結果、日本では太平洋高気圧の張り出しが強く、猛暑になりやすくなります。
また、冬も依然としてインドネシア近海での対流活動は活発で、上昇した空気が上空で発散することで、中国南部付近で偏西風が北側に蛇行します。
この影響で、日本付近では偏西風が南に蛇行し、寒気が日本に流れ込みやすくなるため、厳冬につながります。
ラニーニャ現象は、赤道付近の東太平洋(ペルー沖)の海面水温が平年より低くなる現象で、日本では猛暑・厳冬になりやすいんだね!
エルニーニョ現象、ラニーニャ現象についての分かりやすい動画を2つピックアップしたから、これらも参考にしてみてね!
エルニーニョ現象の語呂合わせ
日本の夏は冷エルニーニョ!
エルニーニョ現象が発生したら、日本の夏は冷夏で過ごしやすくなります。
冷える、ヒエル、エル!ということで、「冷える」と「エルニーニョ」を対応させましょう。
冷夏さえ覚えてしまえば、暖冬も対応づけて覚えられます。
また、なぜ冷夏になるのかを考えれば、太平洋高気圧が弱い→インドネシア付近での対流活動が弱い→インドネシア付近での海面水温が低い→ペルー沖の海面水温が高い。
というように芋づる式にエルニーニョ現象の特徴を思い出すことができます。
ラニーニャ現象の語呂合わせ
日本の冬はコタツでニャー!
ラニーニャ現象が発生したら、日本の冬は厳冬で過ごしにくくなります。
寒いので猫がこたつで丸くなっている、こたつでニャー、ラニーニャ!
ということで、「猫の鳴き声(ニャー)」と「ラニーニャ」を対応させましょう。
厳冬さえ覚えてしまえば、猛暑も対応づけて覚えられます。
また、なぜ猛暑になるのかを考えれば、太平洋高気圧が強い→インドネシア付近での対流活動が強い→インドネシア付近での海面水温が高い→ペルー沖の海面水温が低い。
というように芋づる式にラニーニャ現象の特徴を思い出すことができます。
前置きが長くなってしまいました。問題に戻りましょう。
図A(下図)は、海面水温の平年偏差予想図で、簡単に言うと、色が赤いほど、海面水温が平年より高くなる予想ということを表しています。
図Aを見てみると、太平洋赤道域の中部から東部の海面水温は平年より高くなる予想であり、インドネシア付近からインド洋東部にかけては平年並みかやや低い予想になっていることが分かります。
これらの特徴は、エルニーニョ現象発生時に見られる特徴と一致しますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)図Aの海面水温分布に対応して、インドネシア付近からインド洋東部にかけては降水量が平年より少ない予想 (図略) であり、このことが影響して、図Bでは、中国大陸から日本付近にかけての流れは、平年に比べて (b) 中国大陸では北に、その東側では南に蛇行する予想となっている。
→ 答えは 誤 です。
流線関数 とは、風の回転成分を理解するために使われる数学的な概念です。
風の動きには、主に「回転成分」と「発散成分」があり、流線関数はこのうち、回転成分を説明するのに便利なツールです。
より専門的に説明すると、東西風(uψ)と南北風(vψ)の回転成分は、流線関数(ψ:プサイ)を用いて、以下の式で定義されます。
uψ = −δψ/δy(東西方向の風の回転成分)
vψ = δψ/δx(南北方向の風の回転成分)
数式使われると分かんないよ〜
大丈夫!
気象予報士試験の範囲では、流線関数の数式まで理解しなくていいよ!
大切なのは、流線関数と風の関係について理解しておくことだよ!
風は流線関数の等値線(同じψの値を持つ線)に概ね平行に、数値が小さい側を左に見る向きに吹きます。
風速は(等圧線と風の関係のように)流線関数の等値線が、密に集まっている場所ほど強くなります。
つまり、流線関数が正の値の場合、右回りの流れ、すなわち北半球(南半球)では高気圧性(低気圧性)循環を表し、負の値の場合、左回りの流れ、すなわち北半球(南半球)では低気圧性(高気圧性)循環を表します。
また、流線関数の「平年偏差」とは、長期的かつ平均的な風の循環(高気圧性循環 or 低気圧性循環)と比較した場合の偏差を意味します。
例えば、平年が低気圧性循環の地域で、マイナスの偏差が予想される場合、その地域では平年より低気圧性循環が強いことが予想されます。
一方、平年が高気圧性循環の地域で、マイナスの偏差が予想される場合、その地域では平年より高気圧性循環が弱くなる、あるいは低気圧性循環に変わることが予想されます。
また前置きが長くなってしまいました。問題に戻りましょう。
問題文より、図A(上図)の海面水温分布に対応して、インドネシア付近からインド洋東部にかけては降水量が平年より少ない予想(図略)になっています。
これは、問題(a)で考えたように、エルニーニョ現象の特徴と一致します。
このことが影響して、図B(上図)における、インドネシア付近からインド洋東部では、流線関数の平年偏差がマイナスで低気圧性循環、その南では流線関数の平年偏差がプラスで高気圧性循環になっていることが分かります。
また、風は流線関数の等値線に概ね平行に、数値が小さい側を左に見る向きに吹くため、中国大陸から日本付近にかけての流れは、平年に比べて中国大陸では南に、その東側では北に蛇行する予想となっています。
したがって、図Bによると、中国大陸から日本付近にかけての流れは、平年に比べて中国大陸では「北」ではなく「南」に、その東側では「南」ではなく「北」に蛇行する予想となっていますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)図Cでは、(c) 日本付近は正偏差に覆われており、平年に比べて寒気が南下しにくいことが予想されている。
→ 答えは 正 です。
図C(上図)は、ある冬 (12月~2月) の月平均500hPa高度と平年差の予想図です。
この図は、500hPaの等圧面高度が平年よりも高いか低いか(すなわち平年偏差)を見ることによって、その期間における天候にどのような傾向が現れているかを読み取ることができます。
図C(上図)を見ると、日本付近は大きな正偏差領域となっていることが分かります。
これは、地上から500hPaまでの層厚が厚く、この間の平均気温が平年より高いことを意味しています。
このことから、寒気は日本付近へ南下しにくく、暖冬を予想していることが分かります。
この特徴もエルニーニョ現象の特徴と一致するね!
本問を通して、エルニーニョ現象の理解を深めておこう!
したがって、図Cでは、日本付近は正偏差に覆われており、平年に比べて寒気が南下しにくいことが予想されていますので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 誤 (c) 正 とする 2 となります。
書いてある場所:P282〜291(エルニーニョ現象、ラニーニャ現象)
書いてある場所:P443〜446(エルニーニョ現象、ラニーニャ現象)
書いてある場所:P390〜394(エルニーニョ現象、ラニーニャ現象)
書いてある場所:P181〜182、352〜353(エルニーニョ現象、ラニーニャ現象)
書いてある場所:P304〜306(エルニーニョ現象、ラニーニャ現象)
気象庁ホームページ「エルニーニョ/ラニーニャ現象とは」
気象庁ホームページ「インド洋に見られる海面水温の偏差パターンと日本の天候」
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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