問4
気象庁が運用している数値予報の全球モデルやメソモデルについて述べた次の文 (a) ~ (c) の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 数値予報モデルでは、格子点法やスペクトル法を用いて水平方向の離散化が行われている。全球モデルでは、水平方向の物理量の空間分布を様々な波長の波の重ね合わせとして表現するスペクトル法が用いられている。
(b) 全球モデルの水平格子間隔は約13kmであり、それより小さいスケールの現象である積雲や乱流等の効果は、パラメタリゼーションにより格子点の値に反映されている。
(c) 全球モデルの予測値はメソモデルの予測における境界条件としても用いられているが、全球モデルが改良され、その予測特性が変化しても、一般にメソモデルの予測特性は変化しない。
本問は、気象庁が運用している数値予報の全球モデルやメソモデルに関する問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)数値予報モデルでは、格子点法やスペクトル法を用いて水平方向の離散化が行われている。全球モデルでは、水平方向の物理量の空間分布を様々な波長の波の重ね合わせとして表現するスペクトル法が用いられている。
→ 答えは 正 です。
一般に、大気中のさまざまな物理量は、下図の「元の分布」のような連続的な分布をしています。
しかし、このままではコンピュータで取り扱うことが困難なため、「とびとびの値」を考えて連続的な分布を構成していると考えます。
これを 離散化 といい、主に「格子点法」と「スペクトル法」という2つの方法が使われています。
格子点法 とは、大気を格子点で分けて、その各点の物理量(例えば、気温や風速など)を計算する手法です。
この方法は、格子点を細かくするほど詳細な予報ができるため、メソモデルと局地モデルで採用されています。
しかし、全球モデルでは、地球全体を対象にしているため、格子点が両極付近で密集し、計算が複雑になるという問題があります。
この問題を解決するために、全球モデルではスペクトル法が採用されています。
スペクトル法 とは、物理量の空間分布を波(例:三角関数や球面調和関数)の重ね合わせで表現する手法です。
これにより、格子点が偏る問題がなく、空間微分を高精度に計算できるため、全球モデルに適しています。
つまり、メソモデルと局地モデルでは格子点法が使われ、
全球モデルではスペクトル法が使われているんだね!
格子点法は、スペクトル法に比べて直感的に理解しやすく、コンピュータで計算しやすいという利点があります。
一方、スペクトル法は、より高精度で力学過程を計算できるため、計算精度が良いという利点があります。
このように、数値予報モデルでは、計算のしやすさと計算精度を両立するために、対象とする範囲や目的に応じて異なる離散化手法を使い分けています。
したがって、全球モデルでは、水平方向の物理量の空間分布を様々な波長の波の重ね合わせとして表現するスペクトル法が用いられていますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)全球モデルの水平格子間隔は約13kmであり、それより小さいスケールの現象である積雲や乱流等の効果は、パラメタリゼーションにより格子点の値に反映されている。
→ 答えは 正 です。
数値予報モデルでは、格子点間隔の5〜8倍以上のスケールの現象でなければ表現できないと言われています。
例えば、全球モデル(GSM)の格子点間隔は約 13 kmですので、最低でも約 65 km以上の水平スケールの現象でないと表現できないということです。
しかし、小さいスケールの現象が大きいスケールの現象に影響を及ぼすこともありますので、数値予報モデルで直接表現できないからといって、その影響を無視することはできません。
このため、小さいスケールの現象が格子点の物理量に及ぼす影響を、格子点の値を用いて近似的に表現する必要があります。
その計算方法を パラメタリゼーション といいます。
つまり、パラメタリゼーション とは、数値予報モデルの格子点間隔以下のスケールの現象による効果の見積もりという意味だね!
したがって、全球モデルの水平格子間隔より小さいスケールの現象である積雲や乱流等の効果は、パラメタリゼーションにより格子点の値に反映されていますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)全球モデルの予測値はメソモデルの予測における境界条件としても用いられているが、全球モデルが改良され、その予測特性が変化しても、一般にメソモデルの予測特性は変化しない。
→ 答えは 誤 です。
全球モデルは地球全体をカバーする大規模なモデルで、広範囲の大気の状態を予測します。
一方、メソモデルは日本のような特定の地域に焦点を当てたモデルで、より細かい解像度での予測が可能です。
メソモデルは、その予測範囲が限られているため、その領域の境界部分で外部からの情報(例:領域の外から流れ込む風や水蒸気など)を取り込む必要があります。
このとき、全球モデルの予測データがメソモデルの境界条件として使用されます。
つまり、メソモデルは、全球モデルが予測した大気の状態に基づいて、境界部分の予測をするんだよ!
そのため、全球モデルが改良されて予測特性が変われば、それに依存するメソモデルの予測特性も影響を受けることになります。
具体的には、全球モデルがより正確に予測を行うようになると、メソモデルもより精度の高い予測が可能になるということです。
したがって、全球モデルが改良され、その予測特性が変化すると、一般にメソモデルの予測特性も変化しますので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 正 (c) 誤 とする 2 となります。
書いてある場所:P199〜202(数値予報)
書いてある場所:ー
書いてある場所:P235(格子点法とスペクトル法)、P238〜240(全球モデル、メソモデル)、P268〜276(パラメタリゼーション)
書いてある場所:P315〜317(格子点法とスペクトル法)、P318〜321(パラメタリゼーション)
書いてある場所:P112〜130(数値予報、パラメタリゼーション)
気象庁ホームページ「数値予報とは」
気象庁ホームページ「気象に関する数値予報モデルの種類」
令和5年度 数値予報解説資料集「第1章 基礎編 1.4 数値予報モデル」
数値予報研修テキスト「第4章 数値予報モデル」
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
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