【第61回】2024年1月試験(学科専門試験)問10(台風)

問10

台風の一般的な特徴や台風予報について述べた次の文 (a) ~ (d) の正誤について、下記の1~5の中から正しいものを1つ選べ。

(a) 台風の発達期において、積乱雲が上昇流を維持し続けるためには、水平風の鉛直シアーが強い必要があることから、一般に水平風の鉛直シアーが強いほど台風が発達しやすい。

(b) 台風の周辺の外側降雨帯 (アウターバンド) では、竜巻が発生することがある。

(c) 一般に、台風になる前の発達する熱帯低気圧の進路予報の精度は、発生直後の台風の進路予報の精度より低く、その予報円は大きい。

(d) 台風が温帯低気圧に変わる過程では、強風域が広がったり、中心から離れた場所で風が最も強くなることがある。

   





解説

本問は、台風の一般的な特徴や台風予報に関する問題です。

本問の解説:(a)について

(問題)台風の発達期において、積乱雲が上昇流を維持し続けるためには、水平風の鉛直シアーが強い必要があることから、一般に水平風の鉛直シアーが強いほど台風が発達しやすい。

→ 答えは です。

台風が発達する条件の一つに、水平風の鉛直シアーが小さいことが挙げられます。

水平風の鉛直シアー(以下、鉛直シアー)とは、上空と地上の風向・風速差のことです。

例えば、「鉛直シアーが強い」とは「風向・風速が高度によって大きく異なる」ことを意味します。

台風のエネルギー源は海面から供給される熱エネルギーですので、一般に、海面水温が高いほど、台風は発達します。

しかし、いくら海面水温が高くても、鉛直シアーが強いと台風は発達できません

例えば、上空にジェット気流があって、鉛直シアーが強い場合、上昇した雲が強風によって流されてしまうため、台風の渦の上部と下部とを別々の位置に引き離そうとする効果がはたらきます。

これにより、台風中心の暖気核が崩れやすくなり、たとえ海面水温が高くても台風の発達が抑制されてしまいます。

逆に、鉛直シアーが弱い場合、上昇した雲や暖気核が安定して維持されやすいため、台風は発達しやすくなります。

台風と鉛直シアー

したがって、台風の発達期において、積乱雲が上昇流を維持し続けるためには、水平風の鉛直シアーが弱い必要があることから、一般に水平風の鉛直シアーが「強い」ではなく「弱い」ほど台風が発達しやすいので、答えは となります。

本問の解説:(b)について

(問題)台風の周辺の外側降雨帯 (アウターバンド) では、竜巻が発生することがある。

→ 答えは です。

アウターバンド とは、台風の中心から200~600kmほど外側にある帯状の降雨帯のことです。

アウターバンド

アウターバンドは、台風の回転によって暖かく湿った空気が流れ込み、大気の状態が不安定になることで形成されます。

この領域では、風の収束や地形の影響により、積乱雲が発達しやすく、激しい降雨が続くことがあります。

また、強い上昇気流が伴う積乱雲内では、竜巻が発生することもあります。

竜巻 とは、積乱雲に伴う強い上昇気流により発生する激しい渦巻きで、積乱雲の直下で発生します。

つまり、積乱雲が発達しやすいアウターバンドでも竜巻が発生することがある、ということです。

実際に、2023年台風第7号でも、アウターバンドがかかった静岡県で竜巻が発生しています。

アウターバンドで発生した竜巻の事例
気象レーダー:気象庁
出典:静岡朝日テレビニュース
静岡地方気象台は「竜巻と認められる」風速は40mと推定 屋根が飛び窓ガラスが割れ…被害の状況は 静岡市

したがって、台風の周辺の外側降雨帯 (アウターバンド) では、竜巻が発生することがありますので、
答えは となります。

本問の解説:(c)について

(問題)一般に、台風になる前の発達する熱帯低気圧の進路予報の精度は、発生直後の台風の進路予報の精度より低く、その予報円は大きい。

→ 答えは です。

台風になる前の熱帯低気圧は、台風に比べて構造がまだ十分に発達していません。

このため、数値予報モデルでは、熱帯低気圧を正確に表現することが難しく、その進路予報の精度も低くなります。

特に、発生直後の熱帯低気圧は、その強度や進路の予測が不確実であるため、予報円が大きくなります。

一方、台風として発達した後は、構造が安定するため、数値予報モデルによる予測精度が上がり予報円も小さくなります。

したがって、一般に、台風になる前の発達する熱帯低気圧の進路予報の精度は、発生直後の台風の進路予報の精度より低く、その予報円は大きくなりますので、答えは となります。

本問の解説:(d)について

(問題)台風が温帯低気圧に変わる過程では、強風域が広がったり、中心から離れた場所で風が最も強くなることがある。

→ 答えは です。

台風が温帯低気圧に変わる過程では、風の分布が変化します。

台風はもともと熱帯低気圧であり、中心付近に強い風が集中しますが、北上して傾圧帯(=中緯度の寒気と暖気が混ざり合う場所)に入ると、台風はその性質を徐々に失い、温帯低気圧に変わることがあります。

温帯低気圧は台風と異なり、広範囲にわたって強い風が吹くのが特徴です。

これは、温帯低気圧が寒気と暖気のエネルギーを利用して発達するためで、気圧や風の分布が非対称になり、中心から離れた場所でも強い風が吹くことがあるためです。

例えば、下図のように、2004年の台風第18号では、台風が温帯低気圧に変わる過程で再発達し、北海道の帯広や釧路といった中心から遠く離れた地域でも強風が観測されました。

台風から温帯低気圧
画像:気象庁ホームページ「温帯低気圧と台風」をもとに作成

したがって、台風が温帯低気圧に変わる過程では、強風域が広がったり、中心から離れた場所で風が最も強くなることがありますので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(a)のみ誤り とする となります。

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書いてある場所:P231〜242(台風)


書いてある場所:P406〜417(台風)


書いてある場所:P354〜366(台風)


書いてある場所:P155〜166(台風)


書いてある場所:P209〜226(台風)


気象庁ホームページ「台風とは


気象庁ホームページ「温帯低気圧と台風


気象庁ホームページ「台風に伴う雨の特性

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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