【第61回】2024年1月試験(学科専門試験)問5(アンサンブル予報)

第62回_気象予報士試験_解答速報(予告)

問5

気象庁の数値予報モデルを用いたアンサンブル予報について述べた次の文 (a) 〜 (d) の下線部の正誤について、下記の1〜5の中から正しいものを1つ選べ。

(a) 局地的な強雨など、位置ずれの影響が大きい局所的な現象の予想において、アンサンブル平均は、降水などの気象要素の分布が平滑化され、実際に現れる気象要素の極値などが表現されるとは限らないため、個々のメンバーの予想にも留意する必要がある

(b) 予報結果のアンサンブル平均をとることで、数値予報モデルが持つランダム誤差を低減することはできるが、系統的な誤差を除去することはできない

(c) 局地的な大雨のように、メソモデルで表現することは可能だが予測することが難しい現象は、メソアンサンブル予報でも予測は難しいが、複数のメンバーの予測結果を用いることにより現象の発生を確率的に捉えることができるようになる

(d) アンサンブル予報のスプレッドが大きい場合は、スプレッドが小さい場合に比べて、一般に予報の信頼度が高い

   





解説

本問は、アンサンブル予報に関する問題です。

アンサンブル予報 とは、わずかに異なる複数の初期値(メンバー)を用いて、それぞれ複数の予測を行い、予測の不確実性を統計的に評価することで、最も起こりやすい気象現象を確率的に予測する手法です。

てるるん

簡単にいうと、アンサンブル予報とは、少しずつ違う条件でたくさんの天気予報を作って、その結果を合わせることで、どの天気が起こりやすいかを確率で予測する方法だよ!

数値予報では、大気の状態を数値予報モデルで計算しますが、その初期値(計算の出発点)には観測誤差や解析手法の限界により、どうしても誤差が含まれます。

この誤差は、時間が経つにつれて予報結果に影響を与え、予測の不確実性を増大させます(いわゆるカオスというやつです)

アンサンブル予報は、この不確実性を考慮し、異なる初期条件を使って複数の予測を行うことで、どのような気象現象が最も起こりやすいかを確率的に予測します。

これにより、単一の予報よりも信頼性の高い予測を行うことが可能となります。

下図は、1か月予報におけるアンサンブル予報の例です。

画像参照:気象庁ホームページ「予測に伴う誤差とアンサンブル予報

ここでは850hPa(地上約1,500m)の気温の平年差の予測を示しています。

50本の細い実線は個々の予測結果です。

初期値にわずかなバラツキを与えただけで、50個全ての予報が異なる予測結果を示していることが分かります。

黒の太い実線は50本の細い線を平均したもので、これがアンサンブル平均(複数の数値予報の結果を平均)の予測結果です。

この例では、向こう1か月間のはじめは高温となり、その後は平年より低く経過すると予測されています。

また、50個の予測のばらつき方は前半に比べ後半では大きくなっており、予報時間が延びるとともに予測が難しくなることを示しています。

なお、図の気温は7日間の移動平均であり、たとえば初期日(0日目)から6日目までを平均した予測結果は3日目のところに示してあります。

本問の解説:(a)について

(問題)局地的な強雨など、位置ずれの影響が大きい局所的な現象の予想において、アンサンブル平均は、降水などの気象要素の分布が平滑化され、実際に現れる気象要素の極値などが表現されるとは限らないため、個々のメンバーの予想にも留意する必要がある

→ 答えは です。

アンサンブル平均 とは、アンサンブル予報における複数の予測結果を平均したものです。

これにより、個々の予測のばらつきを抑え、より安定した予報を作成することができます。

しかし、局地的な強雨のような小規模で位置ずれの影響が大きい現象では、この平均が予測結果を平滑化しすぎるため、実際の極端な気象現象が正しく表現されない可能性があります

このため、局所的な現象を予測する際には、アンサンブル平均だけでなく、各メンバーの個々の予測結果にも注意を払うことが重要です。

個々のメンバーを確認することで、極値や局所的な現象の可能性をより正確に捉えることができます。

例えば、ある日の降水量を5つの場所で以下のように記録したとしましょう。

  • 場所A:50mm
  • 場所B:5mm
  • 場所C:0mm
  • 場所D:10mm
  • 場所E:2mm

このデータを平均すると、全体の平均降水量は約13mmになります。

しかし、実際には、場所Aでは非常に強い雨が降っていて、場所Cでは雨がまったく降っていません。

つまり、平均値だけを見ると、「全体的に少し雨が降った日」という印象を受けますが、実際の降水状況は大きく異なります。

アンサンブル平均もこれと似ていて、全体的な傾向を捉えるためには有効ですが、局所的な強雨など極端な気象条件が発生する場合には、その極端さが平均によって埋もれてしまう可能性があります

そうならないために、実際の予報では、個々のメンバー(場所Aのような特定地点)の予測結果を確認することが重要なのです。

したがって、局地的な強雨など、位置ずれの影響が大きい局所的な現象の予想において、アンサンブル平均は、降水などの気象要素の分布が平滑化され、実際に現れる気象要素の極値などが表現されるとは限らないため、個々のメンバーの予想にも留意する必要がありますので、答えは となります。

本問の解説:(b)について

(問題)予報結果のアンサンブル平均をとることで、数値予報モデルが持つランダム誤差を低減することはできるが、系統的な誤差を除去することはできない

→ 答えは です。

(アンサンブル予報を含む)数値予報モデルの誤差には、ランダム誤差と系統的誤差の2種類の誤差があります。

ランダム誤差 とは、各メンバーが持つ予測のばらつきや、偶然発生する一時的な誤差のことです。

これは、初期値に含まれるわずかな違いや、観測データの不確実性から生じる誤差で、時間や場所によって異なるため、アンサンブル予報では各メンバーごとに異なる誤差として現れます。

系統的誤差 とは、数値予報モデル自体が持つ一貫した偏りのことです。

例えば、モデルが持つ地形の表現が実際の地形とは異なる場合や、物理法則の近似が不完全である場合など、モデル自体の構造に起因する誤差です。

これは、全ての予測に共通して現れるため、どのメンバーでも同じ方向に誤差が発生します。

ランダム誤差は、アンサンブル平均をとることで、相互に打ち消し合って低減されるため、より安定した予測が得られます。

しかし、系統的誤差は、全てのメンバーに共通して含まれるため、アンサンブル平均を取っても除去することはできません

てるるん

例えば、気温の誤差が、各メンバーごとに+2℃や−3℃となるランダム誤差は、平均すると誤差が小さくなるけど、
気温の誤差が、全てのメンバーで+2℃になる系統的誤差は、平均しても+2℃なので、誤差が小さくならないんだ!

したがって、アンサンブル平均をとることでランダム誤差は低減されますが、系統的誤差を除去することはできませんので、答えは となります。

本問の解説:(c)について

(問題)局地的な大雨のように、メソモデルで表現することは可能だが予測することが難しい現象は、メソアンサンブル予報でも予測は難しいが、複数のメンバーの予測結果を用いることにより現象の発生を確率的に捉えることができるようになる

→ 答えは です。

メソアンサンブル予報(MEPS(読:メップス)とは、21個のメンバーがそれぞれ異なる初期条件をもとに予測を行い、その結果を統計的に処理することで、現象の発生を確率的に捉えることができる手法です。

しかし、局地的な大雨のような現象は、初期値のばらつきやモデル自体の限界から、ピンポイントでの予測が難しいとされています。

そこで、メソアンサンブル予報を行うことで、複数の異なる初期条件による客観的な予測結果を得られるので、気象現象の発生を確率的に捉えることが可能となります。

例えば、局地的な大雨が21メンバー中、10メンバーで予測される場合、局地的な大雨が発生する確率は約50%と見積もることができます。

これにより、メソモデルのような単一の予測モデルでは見逃しやすい局地的な気象現象の発生確率を事前に把握することができます。

したがって、メソアンサンブル予報では、複数のメンバーの予測結果を用いることにより現象の発生を確率的に捉えることができるようになりますので、答えは となります。

本問の解説:(d)について

(問題)アンサンブル予報のスプレッドが大きい場合は、スプレッドが小さい場合に比べて、一般に予報の信頼度が高い

→ 答えは です。

スプレッド とは、アンサンブル予報における複数の予測結果のばらつき具合を示す指標です。

これは、アンサンブル予報における全メンバーの予測値の標準偏差(=予測値のばらつき)を計算したもので、メンバー間の予測結果がどの程度異なるかを表しています。

例えば、スプレッドが大きい場合は、予測のばらつきが大きい(=各メンバーの予測結果が大きく異なることを意味しますので、予報の不確実性が高いと考えられます。

つまり、初期条件のわずかな違いによって予報結果が大きく変わるため、予報の信頼度は低いということです。

逆に、スプレッドが小さい場合は、予測のばらつきが小さい(=各メンバーの予測結果が比較的一致することを意味しますので、予報の不確実性が低いと考えられます。

つまり、初期値が多少変わっても予測結果がほとんど同じなので、予報の信頼度は高いということです。

したがって、アンサンブル予報のスプレッドが大きい場合は、スプレッドが小さい場合に比べて、一般に予報の信頼度は「高い」ではなく「低い」となりますので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(d)のみ誤り とする となります。

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書いてある場所:P297(アンサンブル予報)


書いてある場所:ー


書いてある場所:P322〜329(アンサンブル予報)


書いてある場所:P321〜323(アンサンブル予報)


書いてある場所:P161〜168(アンサンブル予報)


気象庁ホームページ「予測に伴う誤差とアンサンブル予報


気象庁ホームページ「アンサンブル予報

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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