問13
気象庁が発表する大雨や洪水に関わる警報・注意報等において、発表の対象としている災害について述べた次の文 (a) ~ (d) の下線部の正誤について、下記の1~5の中から正しいものを1つ選べ。
(a) 土砂災害警戒情報、大雨警報 (土砂災害) 及び大雨注意報が発表の対象としている土砂災害は、大雨による土石流、急傾斜地の崩壊、地すべり、斜面の深層崩壊である。
(b) 火山の噴火により火山灰が斜面などに推積すると、通常より少ない雨で土石流や泥流が発生することがある。このような場合には、土砂災害警戒情報、大雨警報 (土砂災害) 、大雨注意報の発表基準を暫定的に引き下げることがある。
(c) 平坦地において、大河川の水位が高くなると、周辺から大河川への水の排出が困難となり、普段なら浸水の危険度が高くない程度の雨で浸水が発生することがある。このような災害は、洪水警報・注意報の対象である。
(d) 河川の増水は洪水警報・注意報の対象とする災害であるが、河川の流域で都市化が進むと、建物や舗装道路等による地表面の被覆率が増加し、雨が地中に浸透する量が減少するなどの理由により、短時間の大雨により河川は急速に増水するようになる傾向がある。
本問は、気象庁が発表する大雨や洪水に関わる警報・注意報等に関する問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)土砂災害警戒情報、大雨警報 (土砂災害) 及び大雨注意報が発表の対象としている土砂災害は、大雨による土石流、急傾斜地の崩壊、地すべり、斜面の深層崩壊である。
→ 答えは 誤 です。
下図は、土砂災害に関する情報と基準の概要です。
土砂災害警戒情報と大雨警報(土砂災害)が対象とする災害は、「土石流」、「急傾斜地の崩壊」です。
技術的に予測が困難である地すべり、斜面の深層崩壊、山体の崩壊等は、対象としていません。
一方、大雨注意報は、できるだけ多くの災害を捕捉できるように、「地すべり」、「斜面の深層崩壊」、「山体の崩壊」を含む、すべての土砂災害を対象としています。
したがって、大雨注意報は「すべての土砂災害」を対象としていますが、土砂災害警戒情報、大雨警報 (土砂災害) は、大雨による「土石流」、「急傾斜地の崩壊」が対象であり、「地すべり」、「斜面の深層崩壊」は対象外ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)火山の噴火により火山灰が斜面などに推積すると、通常より少ない雨で土石流や泥流が発生することがある。このような場合には、土砂災害警戒情報、大雨警報 (土砂災害) 、大雨注意報の発表基準を暫定的に引き下げることがある。
→ 答えは 正 です。
火山の噴火により火山灰が斜面などに推積すると、通常より少ない雨で土石流や泥流(読:でいりゅう)が発生することがあるため、土砂災害警戒情報、大雨警報 (土砂災害) 、大雨注意報の発表基準を暫定的に引き下げて運用することがあります。
例えば、2000年(平成12年)に発生した三宅島(伊豆諸島)の噴火の際には、大雨警報・注意報の基準が暫定的に引き下げられて運用されました。
(土砂災害警戒情報は2005年(平成17年)9月より運用開始のため、この時は土砂災害警戒情報の基準引き下げを行っていません(そもそも運用されていないため)。しかし、今後、火山現象による暫定基準引き下げを行う場合は、土砂災害警戒情報の発表基準も、大雨警報(土砂災害)、大雨注意報とともに引き下げられます。)
その他、大きな地震によって地盤がゆるんだ場合にも、土砂災害警戒情報、大雨警報 (土砂災害) 、大雨注意報の発表基準を暫定的に引き下げて運用することがあります。
例えば、令和6年能登半島地震の際には、土砂災害警戒情報、大雨警報(土砂災害)、大雨注意報の基準が暫定的に引き下げられて運用されました。
したがって、火山の噴火や大きな地震が発生した場合には、土砂災害警戒情報、大雨警報 (土砂災害) 、大雨注意報の発表基準を暫定的に引き下げることがありますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)平坦地において、大河川の水位が高くなると、周辺から大河川への水の排出が困難となり、普段なら浸水の危険度が高くない程度の雨で浸水が発生することがある。このような災害は、洪水警報・注意報の対象である。
→ 答えは 正 です。
下図は、大雨警報(浸水害)、洪水警報が対象とする災害についてまとめたものです。
水害は大きく「内水氾濫」と「外水氾濫」の2つに分けられます。
内水氾濫 とは、大雨や集中豪雨に対して、下水道などの排水機能が追い付かないことによって、処理しきれない雨水があふれ出し、建物や土地が浸水する現象です。
外水氾濫 とは、大雨で川の水位が上がって、堤防の高さを越えたり、堤防が壊れて、水があふれる現象です。
また、内水氾濫は「氾濫型」と「湛水(読:たんすい)型」の2つに分けられます。
氾濫型の内水氾濫 とは、大雨や集中豪雨などにより、側溝や排水路などの排水機能が追いつかず、少しずつ地上に溢れるタイプの内水氾濫です。
湛水型の内水氾濫 とは、河川の水位が高くなることで、河川の水が排水路などを逆流し、周辺の支川(読:しせん)や下水道から水が溢れるタイプの内水氾濫です。
このうち、氾濫型の内水氾濫は、河川の増水によらない水害のため、大雨警報・注意報(浸水害)の対象となります。
一方、湛水型の内水氾濫、外水氾濫は、河川の増水に起因する水害のため、洪水警報・注意報の対象となります。
したがって、平坦地において、大河川の水位が高くなると、周辺から大河川への水の排出が困難となり、普段なら浸水の危険度が高くない程度の雨で浸水が発生する災害は「湛水型の内水氾濫」と呼ばれ、洪水警報・注意報の対象となりますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(d)について
(問題)河川の増水は洪水警報・注意報の対象とする災害であるが、河川の流域で都市化が進むと、建物や舗装道路等による地表面の被覆率が増加し、雨が地中に浸透する量が減少するなどの理由により、短時間の大雨により河川は急速に増水するようになる傾向がある。
→ 答えは 正 です。
通常、雨が降ると、雨水は地中にしみ込んだり、地表面を流れたりして、河川に流れ込んでいきます。
しかし、都市化により、建物や舗装された道路が増えると、地面がコンクリートやアスファルトで覆われるため、地中にしみ込む雨水の量が大幅に減少します。
その結果、雨水のほとんどが地表や下水道を流れるため、河川の水が短時間で急激に増水しやすくなります。
このような都市化の影響を考慮するために、気象庁では「表面雨量指数」と「流域雨量指数」を計算する際に、都市化された地域と、そうでない地域で異なるモデル(タンクモデル)を使用しています。
つまり、都市化が進んだ地域では、より迅速に水が流れる特性を反映するための重みをかけた計算が行われています。
表面雨量指数と流域雨量指数について、詳しく知りたい人は以下の記事を読んでみてね!
したがって、河川の流域で都市化が進むと、建物や舗装道路等による地表面の被覆率が増加し、雨が地中に浸透する量が減少するなどの理由により、短時間の大雨により河川は急速に増水するようになる傾向がありますので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) のみ誤り とする 1 となります。
書いてある場所:ー
書いてある場所:ー
書いてある場所:P364〜367(大雨警報・大雨注意報、洪水警報・洪水注意報)
書いてある場所:P419〜421(警報と注意報)
書いてある場所:P269〜272(警報・注意報)
気象庁「気象警報とキキクル(危険度分布)」
気象庁ホームページ「土壌雨量指数」
気象庁ホームページ「表面雨量指数」
気象庁ホームページ「流域雨量指数」
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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