問7
気象庁の天気予報ガイダンスについて述べた次の文 (a) ~ (c) の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 数値予報モデルでは、予報時間が長くなるにつれて予測値の系統誤差の傾向が変化することがある。ガイダンスでは予報時間によって変化する系統誤差を低減することは難しい。
(b) カルマンフィルタを用いたガイダンスでは、実況の観測データを用いて予測式の係数を逐次更新しており、局地的な大雨など発生頻度の低い現象に対しても、数値予報の予測誤差を確実に低減することができる。
(c) ニューラルネットワークを用いたガイダンスは、目的変数と説明変数の関係が線形でない場合にも適用でき、なぜそのような予測になったのか、予測の根拠を把握するのに適している。
本問は、気象庁の天気予報ガイダンスに関する問題です。
ガイダンス とは、数値予報モデルの地上気温や降水量などの予測値を補正してその誤差を軽減したり、
数値予報が出力していない天気や発雷確率などを作成することによって、予報作業を支援するものです。
(天気予報などをガイド=支援することから「ガイダンス」と呼ばれるようになりました。)
天気予報ガイダンスとは、以下のガイダンスをまとめた総称のことです。
- 降水ガイダンス
- 降雪ガイダンス
- 気温ガイダンス
- 風ガイダンス
- 天気ガイダンス
- 発雷確率ガイダンス
- 湿度ガイダンス
- 視程ガイダンス
本問の解説:(a)について
(問題)数値予報モデルでは、予報時間が長くなるにつれて予測値の系統誤差の傾向が変化することがある。ガイダンスでは予報時間によって変化する系統誤差を低減することは難しい。
→ 答えは 誤 です。
ガイダンスの主な目的は「天気の翻訳」と「誤差の補正」の2つです。
天気の翻訳
数値予報モデルで計算されるデータは、各格子点における気圧や風、気温、湿度、降水量などの基本的な要素だけですが、天気予報を行うためには、天気、降水確率、降雪量、発雷確率などの情報も必要です。
また、数値予報の結果はあくまで数値データの羅列でしかないため、天気予報をする上で使いやすい・見やすい形になるよう、最高・最低気温、最大瞬間風速といった極値や、気温や湿度の時系列データなどに加工してあげる必要があります。
この数値予報モデルの予測値を、天気予報や防災に必要な情報に翻訳することが 天気の翻訳 です。
具体的には、数値予報モデルの予測値と、実際の天気との関係から、両者を結び付ける統計的関係式、つまり「翻訳のルール」を作成しています。
この統計的関係式を用いることによって、数値予報モデルの予測値から、天気や降水確率などを求めることができるようになります。
例えば、数値予報モデルで気温0℃、降水ありという予測があり、実際は雪が降った日があり、
また、数値予報モデルで気温5℃、降水ありという予測があり、実際は雨が降った日があったとします。
このような、予測値と実際の天気のデータをたくさん集めて、こういう時にこういう天気になりやすい、のような統計的関係式を作成することで、数値予報モデルの予測値を天気に翻訳できる、ということです。
系統的誤差の補正
数値予報モデルの予測値には、常に誤差が含まれます。
この誤差には、一定の傾向がある「系統的誤差」と、そうでない「ランダム誤差」があります。
系統的誤差とは、数値予報モデルにおいて「地形表現の不完全さ」や「物理過程の不完全さ」といった傾向や大きさが一定の条件によって生じる規則的な誤差のことで、簡単に言うと、数値予報のくせ(偏った誤差)です。
この数値予報モデルのくせを補正することが 系統的誤差の補正 です。
具体的には、数値予報モデルの予測値と、系統的誤差との関係から、両者を結び付ける統計的関係式、つまり「翻訳のルール」を作成しています。
この統計的関係式を用いることによって、数値予報モデルの予測値から、系統的誤差を補正できるようになります。
例えば、数値予報モデルは実際の地形をなめらかに表現する傾向があり、それによって地形による降水が弱く表現されたり、陸地を海として扱うことで気温の変化が緩やかになって、風が強く表現されたりします。
これらの誤差から統計式関係式を作成し、このような系統的誤差を補正して、より誤差の少ない天気予報ガイダンスを作成する、ということです。
数値予報モデルでは、予報時間が長くなるにつれて予測値の系統誤差の傾向が変化することがありますが、系統的誤差は予報時間が長くなっても補正可能です。
したがって、ガイダンスでは予報時間によって変化する系統誤差を低減できますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)カルマンフィルタを用いたガイダンスでは、実況の観測データを用いて予測式の係数を逐次更新しており、局地的な大雨など発生頻度の低い現象に対しても、数値予報の予測誤差を確実に低減することができる。
→ 答えは 誤 です。
カルマンフィルタやニューラルネットワークとは、簡単に言うと、問題(a)で説明した「統計的関係式」に学習機能を持たせたものです。
従来は、精度の良い統計的関係式を作るために長期間(2〜3年)のデータが必要だったのに対し、カルマンフィルタやニューラルネットワークなどの学習機能により、比較的短い時間で統計的関係式を作ることができるようになりました。
カルマンフィルタ とは、予測式の係数を逐次更新する、いわゆる逐次学習の手法であり、気温や降水確率、平均降水量などのガイダンスに広く使われています。
ガイダンスは、過去のデータをもとに統計的関係を用いて予測しているため、発生頻度の低い局地的な大雨があると、そのあとは降水量を過大に予想する傾向が現れてしまい、適切に予測することが難しくになってしまいます。
したがって、カルマンフィルタを用いたガイダンスでは、局地的な大雨など発生頻度の低い現象に対しては、数値予報の予測誤差を確実に低減することはできませんので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)ニューラルネットワークを用いたガイダンスは、目的変数と説明変数の関係が線形でない場合にも適用でき、なぜそのような予測になったのか、予測の根拠を把握するのに適している。
→ 答えは 誤 です。
ニューラルネットワーク とは、人間の神経細胞(ニューロン)の機能の一部をモデル化した手法です。
入力(説明変数)と出力(目的変数)の関係が非線形の場合にも適用できますが、計算プロセスがブラックボックスであり、なぜそのような予測になったかを解釈することが困難です。
したがって、ニューラルネットワークを用いたガイダンスは、目的変数と説明変数の関係が線形でない場合にも適用できますが、計算プロセスがブラックボックスであるため、なぜそのような予測になったのか、予測の根拠を把握することは困難ですので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 誤 (c) 誤 とする 5 となります。
書いてある場所:P278〜285(ガイダンス、系統的誤差、MOS、PPM)、P286〜289(カルマンフィルタ、ニューラルネットワーク)
書いてある場所:P124〜130(ガイダンス、系統的誤差、MOS、PPM、カルマンフィルタ、ニューラルネットワーク)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
コメント