【第61回】2024年1月試験(学科専門試験)問3(ブリューワー分光光度計、ドップラーレーダー、ドップラーライダーの観測対象)

問3

気象庁で使用している電波や光を利用した観測機器 (a) ~ (c) と、これらを用いて行う観測の対象 ア ~ オ の組み合わせとして最も適切なものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

〔観測機器)
 (a) ブリューワー分光光度計
 (b) ドップラーレーダー
 (c) ドップラーライダー

〔観測対象〕
 ア:上空のオゾン量
 イ:上空の水蒸気量
 ウ:降水強度の分布、降水域における風の分布
 エ:非降水時の風の分布や低層ウィンドシアー
 オ:雲底の高さ

   





解説

本問は、波や光を利用した観測機器の観測対象に関する問題です。

本問の解説:(a)について

(問題)ブリューワー分光光度計の観測対象

→ 答えは ア:上空のオゾン量 です。

ブリューワー分光光度計 とは、太陽光の中の紫外線を観測して上空のオゾン量を測定する気象測器です。

(1973年にブリューワーさんによって考案・開発された分光光度計(=光を波長ごとに分けて、その強度を測定する装置)なので、ブリューワー分光光度計といいます。)

ブリューワー分光光度計

具体的には、オゾンに吸収されやすい波長帯の紫外線と、吸収されにくい波長帯の紫外線を観測し、その強度比を比較することによって、上空のオゾン全量を推定します。

これを オゾン全量観測 といいます。

(ちなみに、オゾン全量とは、地表から大気上端までの単位面積の気柱に含まれる全てのオゾンのことです。
観測されたオゾン全量は、1気圧、0℃として地表に集めた時にできるオゾンだけからなる層の厚さで示され、単位は m atm-cm(ミリアトムセンチメートル)または DU(ドブソンユニット)で表記されます。
例えば、オゾン全量が 300 m atm-cm で観測された場合、大気中に含まれるオゾン全てを1気圧、0℃の地表に集めると3mmの厚さに相当するということを意味します。
オゾン全量観測についてもっと詳しく知りたい方は、気象庁高層気象台ホームページ「オゾン全量観測」を参照してください。)

また、日の出や日没の前後の時間帯に、オゾンに吸収されやすい波長帯の紫外線と、吸収されにくい波長帯の紫外線を連続で観測し、その強度比を比較することで、上空のオゾンがどの高度にどれくらい分布しているか(=オゾンの鉛直分布の推定も行っています。

これを オゾン反転観測 といいます。

(ちなみに、反転という名前は、2つの紫外線の強度比は、太陽高度角が大きくなるにつれて大きくなりますが、ある高度角からはその強度比が逆に小さくなる現象(反転現象)によるものです。
反転観測は、地上から大気上端までを10層に分け、その個々の層に含まれるオゾン量(m atm-cm)としてオゾン鉛直分布を推定します。
オゾン反転観測についてもっと詳しく知りたい方は、気象庁高層気象台ホームページ「
オゾン反転観測」を参照してください。)

気象庁では、このブリューワー分光光度計を使って、つくば(茨城県)昭和基地(南極)で観測を行い、オゾン層の状態をモニタリングしています。

このデータは、オゾン層保護のための国際的な対策を立てる際の重要な根拠となっています。

ブリューワー分光光度計が上空のオゾンを観測していることの覚え方

ブリューワーブルー(青色)青空紫外線オゾン

<解説>

ブリューワー」という語感から「ブルー(青色)」を連想します。「ブルー(青色)」といえば「青空」ですので、上空で「紫外線」が散乱されている様子を連想します。「紫外線」といえば「オゾン」ですので「ブリューワー分光光度計」は「上空のオゾン」を観測しているんだなぁと連想して覚えることができます。

したがって、ブリューワー分光光度計の観測対象は ア:上空のオゾン量 となります。

本問の解説:(b)について

(問題)ドップラーレーダーの観測対象

→ 答えは ウ:降水強度の分布、降水域における風の分布 です。

ドップラーレーダー とは、レーダーから発射した電波が降水粒子に反射して戻ってくるまでの時間強度から降水強度の分布を測定し、反射される電波のドップラー効果から降水域における風の分布を測定する気象測器です。

ドップラーレーダー
画像出典:気象庁ホームページ「気象レーダー

一般に、気象レーダー とは、アンテナを回転させながら電波(マイクロ波)を発射し、半径数百kmの広範囲内に存在する雨や雪を観測する気象測器です。

発射した電波が戻ってくるまでの時間から、雨や雪までの距離を測り、戻ってきた電波(レーダーエコー)強さから、雨や雪の強さを推定します。

この気象レーダーが進化して、戻ってきた電波の周波数のずれ(=ドップラー効果による、雨や雪の動き(=降水域の風)も観測できるようになったものがドップラーレーダーです。

てるるん

例えるなら、魚群探知機にスピードガンの機能が付け加わって、魚の分布だけじゃなく、魚がどっちに向かって泳いでいるかも分かるようになった、という感じだよ!

てるらん

なるほど!
つまり、気象レーダーでは、どこに雨雲があって、どこで雨が降っているか、ということしか分からなかったのが、ドップラーレーダーでは、その雨雲や雨がどの方向にどれくらいの速さで移動しているか、という動きも分かるようになったんだね!

気象庁では1954年に気象レーダーの運用を開始し、2013年に国内全ての気象レーダーがドップラーレーダーに更新されました。

(参考:気象庁報道発表資料「全国 20 か所の気象レーダーが全てドップラーレーダーになりました」)

また、2020年3月からは二重偏波ドップラーレーダーへの更新が進められています。

2024年3月時点では、全20か所のうち14か所二重偏波ドップラーレーダーに更新されています。

気象庁のレーダー配置図
画像出典:気象庁ホームページ「気象レーダー

二重偏波ドップラーレーダー とは、水平方向と垂直方向に振動する電波=水平偏波垂直偏波を用いる気象レーダーのことで、これまでのドップラーレーダーに比べて、降水粒子の種類(雨、雪、氷の粒など)が正確に判別できるようになったり、降水強度の観測精度が向上したりしています。

(参考資料:気象庁「二重偏波レーダーとは」)

二重偏波ドップラーレーダー
画像出典:荒木 健太郎, 太田 絢子, 片山 美紀, 津田 紗矢佳, 佐々木 恭子(2024).
天気予報が楽しくなる空のしくみ 朝日新聞出版

したがって、ドップラーレーダーの観測対象は ウ:降水強度の分布、降水域における風の分布 となります。

本問の解説:(c)について

(問題)ドップラーライダーの観測対象

→ 答えは エ:非降水時の風の分布や低層ウィンドシアー です。

ドップラーライダー とは、レーザー光を大気中に発射し、エーロゾルに反射した光の周波数のずれ(ドップラー効果)を観測することで、非降水時の風の分布や、低層ウィンドシアー(風の急激な変化)を測定する気象測器です。

ドップラーライダー

一般に、ライダー とは、レーザー光を発射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間から、物体までの距離や方向を測定する測器です。

このライダーが進化して、戻ってきたレーザー光の周波数のずれ(=ドップラー効果による、非降水時の風の分布低層ウィンドシアーも観測できるようになったものがドップラーライダーです。

てるらん

レーダーとライダーって名前が似てるけど、何が違うの?

レーダーとライダーの違いは、使っている波の種類にあります。

レーダーは「Radio Detection And Ranging」の略で、電波Radio wave)を使用して観測します。

一方、ライダーは「Light Detection And Ranging」の略で、レーザー光Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)を使用して観測します。

この違いにより、レーダーとライダーでは、得意とする観測対象が異なります。

電波を使うレーダーは、波長が長いため、降水粒子大気乱流といった比較的大きな物体を捉えることが得意です。

このため、レーダーは降水強度の分布や、降水域における風の分布の観測に優れています。

一方、レーザー光を使うライダーは、波長が短いため、エーロゾル大気分子といった小さな粒子を捉えることが得意です。

このため、ライダーは降水がない時の風の分布や、低層ウィンドシアー(風の急変域)の観測に優れています。

てるるん

つまり、レーダーは雨天時の観測が得意で、ライダーは晴天時や大気が乾燥している時の観測が得意っていうことだよ!

現在、気象庁のドップラーライダーは、全国3か所の航空気象官署(羽田、成田、関西)に設置されており、全国20か所のドップラーレーダーとともに、航空機の安全な運航に欠かせない上空の大気を観測しています。

したがって、ドップラーライダーの観測対象は エ:非降水時の風の分布や低層ウィンドシアー となります。

以上より、本問の解答は、
(a) ア:上空のオゾン量
(b) ウ:降水強度の分布、降水域における風の分布
(c) エ:非降水時の風の分布や低層ウィンドシアー
とする となります。

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書いてある場所:P126〜127(ドップラーレーダー)


書いてある場所:ー


書いてある場所:P176〜183(ドップラーレーダー)


書いてある場所:P248〜249(ドップラーレーダー)


書いてある場所:P80〜84(ドップラーレーダー)


気象庁 高層気象台ホームページ「ブリューワー分光光度計


気象庁 高層気象台ホームページ「オゾン全量観測


気象庁 高層気象台ホームページ「オゾン反転観測


(参考:気象庁報道発表資料「全国 20 か所の気象レーダーが全てドップラーレーダーになりました」)


(参考:気象庁「二重偏波レーダーとは」)


(参考:気象庁ホームページ「空港気象ドップラーライダーによる観測」)


(参考:気象庁 関西航空地方気象台ホームページ「航空気象ドップラーライダー」)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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