【第60回】2023年8月試験(学科一般試験)問4(降水過程に氷粒子が関与する「冷たい雨」)

問4

降水過程に氷粒子が関与する「冷たい雨」について述べた次の文 (a) ~ (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

(a) 氷晶の生成に重要な働きをする氷晶核は、エーロゾルの一種で、水蒸気を凝結させる働きをする凝結核よりも一般に数が少ない。

(b) 氷粒子と過冷却水滴が共存する雲の中では、氷面に対する飽和水蒸気圧が水面に対する飽和水蒸気圧よりも低いことにより、昇華による氷粒子の成長が進みやすい環境となっている。

(c) 異なる落下速度の氷粒子どうしが衝突して付着する割合は、氷粒子の形や大きさにより違うが、温度には依存しない。

(d) 雪が落下するとき、空気が乾燥しているほど、雪は融解して雨になりやすい。

   





解説

本問の解説:(a) について

(問題)氷晶の生成に重要な働きをする氷晶核は、エーロゾルの一種で、水蒸気を凝結させる働きをする凝結核よりも一般に数が少ない。

→ 答えは です。

氷晶核と凝結核

氷晶核(読:ひょうしょうかく)とは、0℃以下で氷晶の形成を促進し、氷晶をつくる粒子のことをいいます。

凝結核(読:ぎょうけつかく)とは、水蒸気の凝結を促進し、水滴をつくる粒子のことをいいます。

氷晶核や凝結核は、どちらも空気中に漂うエーロゾルの一種です。

凝結核となるエーロゾルは、鉱物粒子(細かな土埃など)、火山灰、森林火災や工場からの煙や煤(すす)、海塩粒子(海水のしぶきが乾燥してできた塩粒)など、さまざまな種類があります。

一方、氷晶核となるエーロゾルは、鉱物粒子がメインであると考えられています。

(↑ここまで細かいところは試験では出ません)

つまり、多くの微粒子は氷晶核ではなく、凝結核として働きます。

このため、一般的に空気中の氷晶核の個数は、凝結核よりずっと少ないということが分かっています。

気温が0℃以下になっても微小水滴がすぐに凍らず、過冷却水滴となるのは、氷晶核が少ないためです。

したがって、氷晶核はエーロゾルの一種であり、凝結核よりも数が少ないので、答えは となります。

本問の解説:(b) について

(問題)氷粒子と過冷却水滴が共存する雲の中では、氷面に対する飽和水蒸気圧が水面に対する飽和水蒸気圧よりも低いことにより、昇華による氷粒子の成長が進みやすい環境となっている。

→ 答えは です。

水面と氷面の飽和水蒸気圧

氷粒子と過冷却水滴が共存する雲の中(=つまり、同じ温度の時)では、氷面に対する飽和水蒸気圧は水面に対する飽和水蒸気圧より低くなります。

これは、氷の方が水分子同士の結合が強く、熱運動によって氷面から空気中に飛び出す水分子の数が、水面の場合と比べて少ないためです。

てるるん

氷の結晶はガッチリと手を繋いでくっついているから蒸発しにくいけど、水は氷よりも手を繋ぐ力が弱いので蒸発しやすい、というイメージだよ!

氷晶の成長


こうして、過冷却水滴から蒸発してできた水蒸気は氷晶に向かって拡散していき、氷晶にくっつく(=昇華する)ことで、氷晶が成長します。

したがって、氷粒子と過冷却水滴が共存する雲の中では、氷面に対する飽和水蒸気圧は水面に対する飽和水蒸気圧よりも低く、昇華による氷粒子の成長が進みやすいので、答えは となります。

本問の解説:(c) について

(問題)異なる落下速度の氷粒子どうしが衝突して付着する割合は、氷粒子の形や大きさにより違うが、温度には依存しない。

→ 答えは です。

雪結晶の形と気温・水蒸気量の関係
『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)より

異なる落下速度の氷粒子(=氷晶)どうしが衝突して付着・成長したものを 雪の結晶 といいます。

上図のように、雪の結晶の種類には、柱状結晶や、角板状結晶、樹枝状結晶などがあります。

(この分野の問題を解いていると、氷晶核、氷晶、雪の結晶、雪片などという言葉が出てきて頭がごちゃごちゃになることがあります。まず氷晶核によって小さな氷の粒である氷晶(=氷粒子)ができ、氷晶どうしが衝突して付着・成長したものを雪の結晶、さらに雪の結晶どうしが衝突して付着・成長し、重たくなって落下したものを雪片といいます。)

この雪の結晶の成長には、氷粒子の形や大きさだけでなく、温度(上図の横軸)水蒸気量(上図の縦軸。過飽和度や氷過飽和水蒸気密度ともいう)も影響しています。

例えば、気温が-10℃~-15℃で、空気中の水蒸気が多い(=過飽和度が大きい)時は、樹枝状結晶が成長しやすいという特徴があります。

また、気温が同じ-10℃~-15℃であっても、空気中の水蒸気が少ない(=過飽和度が小さい)時は、厚角板状結晶が成長しやすいという特徴があります。

さらに、過飽和度が大きいということは、氷面から出ていく水分子よりも、氷面に入ってくる水分子の方が多いということなので、過飽和度が大きいほど雪の結晶は成長しやすくなります。

つまり、同じ気温でも、過飽和度が大きいときにできる樹枝状結晶の方が、過飽和度が小さいときにできる厚角板状結晶よりも成長しやすいというのも重要な特徴です。

したがって、「温度には依存しない」という部分が誤りで、温度と水蒸気量にも依存するので、答えは となります。

本問の解説:(d) について

(問題)雪が落下するとき、空気が乾燥しているほど、雪は融解して雨になりやすい。

→ 答えは です。

雪が落下するとき、空気が乾燥しているほど、雪は 昇華(=固体である雪の結晶が直接水蒸気に変化する現象)によって質量が失われて、粒径が小さくなります。

昇華には固体(雪)から気体(水蒸気)になるための大量の熱(=昇華熱)が必要で、その熱は雪の結晶から奪われます。

その結果、雪の結晶自体は昇華により小さくなりますが、雪の結晶そのものが冷やされるので、雪が融解して雨になりやすくなるわけではありません

雨雪判別表

雨か雪かの判別は 気温湿度 で推定することができます。

上図のように、同じ気温であっても、湿度が低い(=乾燥している)ほど、雨ではなく雪として降ってきやすいという特徴があります。

これは、湿度が低いほど昇華が激しく起こり、雪の結晶の温度が大きく下がるためです。

したがって、雪が落下するとき、空気が乾燥しているほど、雪は融解して雨になりやすいわけではないので、答えは となります。

以上より、本問の解答は (a) (b) (c) (d) とする となります。

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備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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