問10
風の弱い晴れた日の平坦な陸上で見られる大気境界層(接地境界層と対流混合層)の一般的な特徴について述べた次の文 (a) ~ (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 正午頃の接地境界層では、気温は乾燥断熱減率で高度とともに低下している。
(b) 接地逆転層は昼過ぎに現れ、日の入りの頃、厚さが最大となる。
(c) 正午頃の対流混合層では、水蒸気の混合比及び相対湿度は、高度によらずほぼ一様である。
(d) 正午頃の接地境界層では風速は高度とともに増加しているが、対流混合層ではほぼ一様である。
本問は、大気境界層(接地境界層と対流混合層)の一般的な特徴についての問題です。
第55回(令和2年度第2回)気象予報士試験の一般知識 問9など、
数年に1回程度、同じような問題が出題されています。
本問の解説:(a) について
(問題)正午頃の接地境界層では、気温は乾燥断熱減率で高度とともに低下している。
→ 答えは 誤 です。
下図は正午頃の大気層内の気温、温位の高度分布の模式図です。
まずは、接地境界層の気温(左図)を見てみましょう。
接地境界層の気温は高度と共に減少していますが、
これだけでは乾燥断熱減率より大きいか小さいか判別できません。
そこで、接地境界層の温位(右図)を見てみましょう。
接地境界層の温位も高度と共に減少しています。
これは、一体何を意味するのでしょうか?
そもそも、温位 とは空気塊を乾燥断熱的に1000hPaの高度に移動させたときの温度です。
別の言い方をすれば、温位とは異なる気圧面にある空気塊の温度を客観的に比較する物理量です。
温位は空気塊を乾燥断熱的に変化させて求めるので、空気塊が含む水蒸気が凝結しない限り、
高度が変わっても値は変わりません。
つまり、温位は保存されます。
下図は温位の高度変化と大気の安定度の関係を表しています。
もし、大気が中立の場合、空気塊を持ち上げても、その温度は乾燥断熱減率で減少しますので、
温位は保存され、一定となります。
しかし、接地境界層の温位は、高度が上がるとともに減少しており 絶対不安定 となっています。
温位が絶対不安定になっているということは、上空の方が温位が低いということですので、
気温減率は、中立の時の乾燥断熱減率よりも大きいということです。
したがって、正午頃の接地境界層では、気温減率は乾燥断熱減率よりも大きくなるので、答えは 誤 となります。
でもなんで接地境界層の温位は絶対不安定になるの?
それは、地表面が日射によって暖められるスピードより、
地表面の熱が上空へ伝わるスピードが遅いことが理由だよ!
正午頃は、強い日射によって地表面の温度が急激に上昇します。
しかし、この地表面の熱が上空に伝わるスピードが地表面の温度上昇より遅いため、
地表面に近いほど空気が暖かく、絶対不安定となるのです。
本問の解説:(b) について
(問題)接地逆転層は昼過ぎに現れ、日の入りの頃、厚さが最大となる。
→ 答えは 誤 です。
対流圏では、一般に高度が上がるほど気温は低くなりますが、
時と場所によっては、ある厚さの気層の中で上空ほど気温が高くなるという現象が発生します。
この気層を 逆転層 といいます。
逆転層は、上空ほど気温が高く、成層が安定しているため、
この層を通しての対流活動は起きにくくなっています。
上図のように、逆転層には、地表から発生する 接地逆転層 、
上空に発生する 上層逆転層 があり、
上層逆転層には 沈降逆転層 と 移流逆転層 があります。
このうち、接地逆転層は、高気圧に覆われ、風の弱いときに、
地表面が放射冷却によって冷えることで発生します。
放射冷却とは、夜間に地球放射によって、地表面やそれに接した空気が冷やされる現象のことをいいます。
このため、接地逆転層は夜間に現れ、明け方に厚さが最大となります。
下図は晴天時の大気境界層の日変化の模式図です。
これを見ても、接地逆転層は夜間に現れ、明け方に厚さが最大となっていることが分かります。
したがって、接地逆転層は昼過ぎに現れ、日の入りの頃、厚さが最大となるわけではなく、
夜間に現れ、明け方に厚さが最大となるので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)正午頃の対流混合層では、水蒸気の混合比及び相対湿度は、高度によらずほぼ一様である。
→ 答えは 誤 です。
まずは、水蒸気の混合比から考えてみましょう。
下図は正午頃の大気層内の混合比の高度分布の模式図です。
これを見ると、対流混合層内の混合比は、高度によらずほぼ一定となっています。
でもなんで対流混合層内の混合比は、高度によらずほぼ一定になるの?
それは、対流混合層内の活発な対流活動によって空気が混ざり合っているからだよ!
そもそも 混合比 とは、湿潤空気に含まれる水蒸気の質量と乾燥空気の質量の比のことです。
水蒸気は、地表面(海面+地面)から大気に絶えず供給されています。
このため、接地境界層のさらに地表面に近い層ほど、混合比は大きくなっています。
しかし、 対流混合層内では、対流によって上下の空気が混ざり合っていますので、
混合比はほぼ一定となるのです。
では次に、相対湿度を考えてみましょう。
下図は、相対湿度と、混合比、気温の関係を表したグラフです。
これまで解いてきたように、対流混合層内では、
気温は高度と共に減少し、混合比は高度によらずほぼ一定となります。
つまり、上のグラフで混合比一定のまま、気温を下げていくと相対湿度は上昇していくので、
対流混合層内の相対湿度は、高度とともに減少します。
でもなんで相対湿度は、混合比と気温で表すことができるの?
それは、水蒸気圧を混合比で求めることができ、
飽和水蒸気圧を気温で求めることができるからだよ!
相対湿度は「(空気塊内の水蒸気圧 / そのときの温度の飽和水蒸気圧)× 100 」で求めることができます。
また、水蒸気圧は混合比を使って求めることができ、飽和水蒸気圧は気温を使って求めることができます。
なので、相対湿度は混合比と気温を使って表すことができるのです。
したがって、正午頃の対流混合層では、水蒸気の混合比は、高度によらずほぼ一様ですが、
相対湿度は、高度と共に増加するので、答えは 誤 となります。
ちなみに、対流混合層の上端付近では相対湿度が高いから、
移行層では雲ができやすいんだ!
移行層で混合比が小さくなるのは、雲ができることで、
水蒸気が水滴に変わって、水蒸気の質量が減るからなんだね!
本問の解説:(d) について
(問題)正午頃の接地境界層では風速は高度とともに増加しているが、対流混合層ではほぼ一様である。
→ 答えは 正 です。
下図は正午頃の大気層内の風速の高度分布の模式図です。
これを見ると、接地境界層内の風速は高度とともに増加しており、
対流混合層内では高度によらずほぼ一定となっています。
これは、接地境界層内では、地表面に近いほど摩擦が大きく、
対流混合層内では大気が上下によく混合されているためです。
したがって、正午頃の接地境界層では風速は高度とともに増加しますが、
対流混合層ではほぼ一様となりますので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は (a) 誤 (b) 誤 (c) 誤 (d) 正 とする 5 となります。
書いてある場所:P154〜157(大気の境界層)
書いてある場所:P329〜330(大気境界層)
書いてある場所:P193〜198(大気境界層)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
コメント