問6
北半球中緯度において水平方向にも高度方向にも一様な西風が吹く場があり、ある波動がこの場に重なった状態を考える。図は、そのような状態における東西方向の鉛直断面図で、等圧面 p および p+Δp (Δp>0) の高度を細い実線で、気圧の谷の軸を太い実線で示している。このとき、この図に示された2つの等圧面に挟まれた気層における南北方向の熱輸送について述べた次の文章の下線部 (a) ~ (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。ただし、一様な西風と波動のいずれにおいても、地衡風平衡と静力学平衡が成立しているものとする。
図に示された気圧の谷の軸の東側では西側に比べて (a) 密度の大きい空気が (b) 北向きの成分を持つ風で運ばれている。また、気圧の谷の軸の西側では、東側に比べて (c) 温度の低い空気が南北方向の成分を持つ風で運ばれることによる熱輸送がある。これらを考慮すると、この図に示された波動の範囲では、熱は (d) 北向きに輸送されている。
(問題)北半球中緯度において水平方向にも高度方向にも一様な西風が吹く場があり、ある波動がこの場に重なった状態を考える。図は、そのような状態における東西方向の鉛直断面図で、等圧面 p および p+Δp (Δp>0) の高度を細い実線で、気圧の谷の軸を太い実線で示している。このとき、この図に示された2つの等圧面に挟まれた気層における南北方向の熱輸送について述べた次の文章の下線部 (a) ~ (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。ただし、一様な西風と波動のいずれにおいても、地衡風平衡と静力学平衡が成立しているものとする。
図に示された気圧の谷の軸の東側では西側に比べて (a) 密度の大きい空気が (b) 北向きの成分を持つ風で運ばれている。また、気圧の谷の軸の西側では、東側に比べて (c) 温度の低い空気が南北方向の成分を持つ風で運ばれることによる熱輸送がある。これらを考慮すると、この図に示された波動の範囲では、熱は (d) 北向きに輸送されている。
本問は、偏西風上の波動による熱の南北輸送に関する問題です。
本問の解説:(a)について
→ 答えは 正 です。
ここでは、気圧の谷の軸の東側では、西側に比べて (a) 密度の大きい 空気かどうかを考えます。
本問の図では、気圧の谷の軸は、高さとともに東に傾いており、
気圧の谷の軸の東側では、西側と比べて等圧線の間隔が狭くなっています。
等圧線の間隔が狭いということは、気圧の傾斜が急であり、気圧傾度力が大きいということです。
本問では、静力学平衡(気圧傾度力=重力)が成り立ちますので、
気圧傾度力が大きいということは、重力も大きいということができます。
重力は「質量(=密度×体積)×重力加速度」で表しますので、
重力が大きいということは、密度が大きいということもできます。
まとめると、考え方の流れはこのようになります。
気圧の谷の軸の 東側 は、等圧線の間隔が 狭い
⇒ 気圧傾度力が 大きい
⇒ 重力が 大きい(静水圧平衡より)
⇒ 密度が 大きい
したがって、気圧の谷の軸の東側では、西側に比べて等圧線の間隔が狭く、密度の大きい空気であると言えますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b)について
→ 答えは 正 です。
ここでは、気圧の谷の軸の東側にある、密度の大きい空気が (b) 北向きの成分を持つ風で運ばれているかどうかを考えます。
そのためには、本問の図を東西南北が分かる形で、真上から見てあげる必要があります。
でも、いきなりだと難しいから簡単なところから理解していこう!
まずは、層厚(=空気の厚さ)から考えてみましょう。
一般に、北半球の中緯度には、低緯度(南側)ほど暖かい空気が、高緯度(北側)ほど冷たい空気があります。
暖かい空気は膨張し、冷たい空気は圧縮しますので、
南北方向の断面図で見ると、空気が冷たい北側ほど等圧面の高度は低くなります。
では、北半球の中緯度において水平方向にも高度方向にも一様な西風が吹く場を考えてみましょう。
まずは、本問の条件から、波動の重なりを抜いて考えるんだね!
左図は、この一様な西風が吹く場を500hPa等圧面で切って真上から見た図で、
右図は、本問の図のように東西方向で切った(=同じ緯度で切った)図です。
(一般的に、高層天気図で気圧の谷(=トラフ)を解析する場合は、500hPaの高層天気図を使用する場合が多いので、今回は500hPa等圧面で切った図と想定しています。)
左図は、先ほどの層厚で考えたように、高緯度ほど(=北に行くほど)等高度線の値が小さくなっている(=緑色の等高度線)ので、等圧面の高度が低いことが分かります。
右図は、高度が高いほど気圧が低く、高度が低いほど気圧が高くなっています(=黄色の等圧線)。
上空ほど空気が薄いから、上空ほど気圧が低いんだよ!
では、本問のように、一様な西風が吹く場に、ある波動が重なった状態を考えてみましょう。
左図は、この場を500hPa等圧面で切って真上から見た図で、
右図は、本問の図のように東西方向で切った(=同じ緯度で切った)図です。
左図のように、ある波動が重なると等高度線が波のような形になります(=緑色の等高度線)。
これを右図のように、東西方向の断面図で見てみると、本問の図のように波のような形になります(=黄色の等圧線)。
この等高度線の高度が低い方から高い方に向かって凸状に出っ張ったところを
気圧の谷(=トラフ)といい、本問の図では太い実線で描かれています。
では、等高度線の形が分かったところで、いよいよ風向きについて考えてみましょう。
本問の条件では地衡風平衡が成り立っていますので、風は等高度線に沿って吹きます。
地衡風とは、気圧傾度力とコリオリ力が釣り合った状態で吹く風のことで、北半球では気圧が高いほうを右手に見て等高度線に平行に吹くよ!
つまり、気圧の谷の西側では北西風が吹き、東側では南西風が吹くことが分かります。
したがって、気圧の谷の軸の東側では、南西風が吹き、北向きの成分(北方向に向かって吹く風)を持つので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c)について
→ 答えは 誤 です。
ここでは、気圧の谷の軸の西側では、東側に比べて (c) 温度の低い 空気かどうかを考えます。
途中までの考え方は問題(a)と同じですが、今回は(a)と逆で、気圧の谷の軸の西側の空気を考えます。
気圧の谷の軸の西側では、東側に比べて等圧線の間隔が広いため、問題(a)と逆の考え方をすると、密度の小さい空気であるといえます。
ここで、気圧の谷の軸の西側の空気を空気塊A、気圧の谷の軸の東側の空気を空気塊Bとして考えてみましょう。
空気塊Aと空気塊Bは同じ気圧面に位置しますので、それぞれの空気塊に働く気圧Pは同じです。
また、空気塊Aの密度をρA、温度をTAとし、空気塊Bの密度をρB、温度をTBとして気体の状態方程式を考えてみます。
空気塊Aと空気塊Bは同じ気圧面に位置しますので、それぞれの空気塊に働く気圧Pは同じなので、
P =ρA R TA = ρB R TB ・・・(1)式
と書くことができます。(Rは気体定数)
ここで、問題(a)より、気圧の谷の軸の東側では、西側に比べて、空気の密度が大きいという事が分かっていますので、
ρA <ρB ・・・(2)式
となります。
(1)式、(2)式より、等式が成り立つためには、
TA > TB
でなければなりません。
ρA が大きい分、TA を小さくすることで、(1)式の等式が成り立つようにしているんだね!
つまり、空気塊Aの温度 TA は、空気塊Bの温度 TB より 高い ということです。
まとめると、考え方の流れはこのようになります。
気圧の谷の軸の 西側 は、等圧線の間隔が 広い
⇒ 気圧傾度力が 小さい
⇒ 重力が 小さい(静水圧平衡より)
⇒ 密度が 小さい
⇒ 温度が 高い(気体の状態方程式より)
したがって、気圧の谷の軸の西側では、東側に比べて等圧線の間隔が広く、密度が小さいため、温度が高い空気であると言えますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d)について
→ 答えは 誤 です。
ここでは、本問の図に示された波動の範囲において、熱が (d) 北向きに輸送されているかを考えます。
これまでの考え方をまとめると下図のようになります。
これを見ると、気圧の谷の軸の西側では、東側と比べて暖かい空気が、北西風によって南向きに輸送されています。
また、気圧の谷の軸の東側では、西側と比べて冷たい空気が、南西風によって北向きに輸送されています。
つまり、冷たい空気を北に、暖かい空気を南に輸送しているので、気圧の谷の軸の東西をあわせて考えると、この波動は全体として熱を南向きに輸送していることになります。
もし、熱が北向きに輸送されていたら、南北の温度差が小さくなるわけだから、暖かい空気を北に、冷たい空気を南に輸送していることになるよね!
したがって、本問の図に示された波動の範囲において、熱は北向きではなく、南向きに輸送されていますので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 正 (c) 誤 (d) 誤 とする 2 となります。
発達中の温帯低気圧では、本問と逆で、気圧の谷の軸は高さとともに西に傾いています。
このため、本問の場合と逆で、気圧の谷の軸の西側に寒気、東側に暖気が位置します。
風向は変わらないので、寒気が南に、暖気が北に輸送され、全体としては熱を北向きに輸送することになります。
書いてある場所:P236(気圧の谷)
書いてある場所:P164, 182, 189(気圧の谷)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
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コメント
コメント一覧 (2件)
(b)の解説にある層高の図、「低緯度ほど=等圧面の高度『高い』」ではないですか?
ヒビカセ様
コメントありがとうございます。
ご指摘のとおり、低緯度ほど=等圧面の高度『高い』が正しい表現でした。
図を差し替えましたので、ご確認よろしくお願いいたします。