問10
台風について述べた次の文 (a) ~ (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 発達した台風において、風の接線成分と動径成分は、ともに大気境界層の上の自由大気下層で最大となる。
(b) 発達した台風の対流圏界面に近い対流圏上層では、空気が台風の中心から外側に流れ出し、中心から離れたところでは反時計回りに風が吹いている。
(c) 発達した台風の中心付近では対流圏の下層から上層まで気温が周囲よりも高く、台風中心の低い気圧に対応している。
(d) 台風の強さは中心気圧によって分類され、中心気圧が900hPa未満の台風は、最も強い階級である「猛烈な台風」に属する。
本問は、台風の一般的な特徴についての問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)発達した台風において、風の接線成分と動径成分は、ともに大気境界層の上の自由大気下層で最大となる。
→ 答えは 誤 です。
問題(a)では、台風の接線成分と動径成分の風速が自由大気下層で最大になるかどうかを考えます。
接線成分とは、台風の円の円周に沿って直線に接する方向で、
動径成分とは、接線成分に対して直角で、台風の中心から外側に向かって伸びる直線の方向です。
また、自由大気とは、地上から上空約1kmまでの大気境界層より上の大気のことです。
では、接線成分と動径成分について、それぞれ考えてみましょう。
接線成分
下図は、台風周辺の風の模式図です。
左図は、地表面摩擦がない場合(=自由大気)の風を表し、
右図は、地表面摩擦がある場合(=大気境界層)の風を表しています。
台風周辺の風は、気圧傾度力、コリオリ力、遠心力がつり合った傾度風で近似できますが、
地表面に近いほど地表面からの摩擦の影響を受け、風が等圧線を横切って吹くようになります。
では、台風の風の接線成分はどこで最大になるのか見てみましょう。
下図は、台風周辺の風速の接線成分の鉛直断面図です。
横軸は台風の中心からの距離、縦軸は高度、図中の数値は低気圧の回転(反時計回り)を正とした風速 (m/s) です。
この図から、台風の風の接線成分の最大値は、中心から約100km離れた地点の高度2~3kmの自由大気下層にあることが分かります。
でも、なんでこの地点で風が一番強くなるの?
台風周辺で吹く傾度風はコリオリ力に比例して大きくなります。
傾度風は「気圧傾度力=コリオリ力+遠心力」のバランスで吹く風です。
台風の中心に近いほど、気圧傾度力は強まりますが、遠心力も大きくなるので、コリオリ力は小さくなり、風は弱くなってしまいます(=いわゆる台風の眼です)。
また、台風から遠ざかるほど、遠心力は小さくなりますが、気圧傾度力も小さくなりますので、コリオリ力も小さくなり、風は弱くなってしまいます。
したがって、気圧傾度力がある程度大きく、遠心力もある程度小さい地点で、コリオリ力が最も大きくなり、その地点が台風の中心から約100km地点(=眼の壁雲付近)というわけです。
下図は、過去の台風の地上での風速分布を右半円と左半円に分けて示した図です。
この図を見ても、台風の中心付近で風が弱く、中心から約100km離れた地点で風が最も強くなっていることが分かります。
また、地表面に近いほど、地表面摩擦の影響を受け、風が等圧線を横切って中心に向かって吹くため、風の接線成分は弱くなってしまいます。
そのため、地表面摩擦の影響を受けない自由大気下層で最も風が強くなるのです。
したがって、発達した台風において、風の接線成分は、自由大気下層で最大となります。
動径成分
次は、動径成分を考えてみましょう。
自由大気では、地表面摩擦がなく、風は等圧線に沿って吹くため、風の動径成分はほとんどありません。
一方、大気境界層では、地表面摩擦によって、風が中心付近へ吹き込むため、風の動径成分が生じます。
下図は、台風周辺の風速の動径成分の鉛直断面図です。
横軸は台風の中心からの距離、縦軸は気圧、図中の数値は台風の中心から外側に向かう成分を正とした風速 (m/s) です。
この図から、台風の風の動径成分の最大値は、気圧900hPa(高度約1km)以下の大気境界層内にあることが分かります。
(図中の数値は、台風の中心から外側に向かう成分を正とした風速 (m/s) なので、例えば、紫色で示した-8m/sは中心に向かって8m/sの風が吹いているということです。)
これは、地表面に近いほど地表面摩擦が大きく、風が等圧線を横切って中心付近へ吹き込むことで、風の動径成分が大きくなるためです。
したがって、発達した台風において、風の接線成分は、大気境界層の上の自由大気下層で最大となりますが、動径成分は、大気境界層で最大となりますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)発達した台風の対流圏界面に近い対流圏上層では、空気が台風の中心から外側に流れ出し、中心から離れたところでは反時計回りに風が吹いている。
→ 答えは 誤 です。
下図は、台風発達の数値モデルにおいて計算された192時間にわたる空気粒子の軌跡を示しています。
この図から、対流圏界面に近い対流圏上層の130hPa付近を見てみると、台風の中心付近を上昇する空気が中心付近から外側へ発散しており、中心から離れたところではコリオリ力によって時計回りに向きを変えながら吹き出していることが分かります。
したがって、発達した台風の対流圏界面に近い対流圏上層では、空気が台風の中心から外側に流れ出していますが、中心から離れたところでは「反時計回り」ではなく、「時計回り」に風が吹いていますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)発達した台風の中心付近では対流圏の下層から上層まで気温が周囲よりも高く、台風中心の低い気圧に対応している。
→ 答えは 正 です。
下図は、台風の典型的な気温分布を示しています。
この図から、台風の中心付近では対流圏の下層から上層まで、気温が周囲よりも高くなっていることが分かります。
この中心付近の気温が高い部分を 暖気核 といいます。
この暖気核は、台風の強い上昇気流と断熱圧縮によって形成されます。
台風の眼の壁雲付近では暴風が吹き、上昇流が最も強くなっています。
この強い上昇流による暖湿気の凝結によって潜熱が放出され、中心付近の大気を加熱します。
さらに、その上昇流で対流圏界面付近まで達した空気は発散し、その一部の空気は眼の中で下降流となります。
この下降流の断熱圧縮による加熱も加わることによって、暖気核が形成されるのです。
また、空気は暖められると軽くなり、地上気圧は低くなりますので、この暖気核が台風中心の低い気圧に対応していることも分かります。
したがって、発達した台風の中心付近では対流圏の下層から上層まで気温が周囲よりも高く、台風中心の低い気圧に対応していますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(d)について
(問題)台風の強さは中心気圧によって分類され、中心気圧が900hPa未満の台風は、最も強い階級である「猛烈な台風」に属する。
→ 答えは 誤 です。
台風の強さは、中心気圧ではなく中心付近の最大風速で分類されています。
上図より、台風の最も強い階級は「猛烈な台風」で、その中心付近の最大風速は54m/s(=105ノット)以上となります。
したがって、台風の強さは「中心気圧」ではなく、「中心付近の最大風速」によって分類され、最も強い階級である「猛烈な台風」に属するのは、中心付近の最大風速が54m/s(=105ノット)以上のときですので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 誤 (c) 正 (d) 誤 とする 5 となります。
書いてある場所:P236〜242(台風の構造と発達)
書いてある場所:P404〜417(台風)
書いてある場所:P354〜366(台風)
書いてある場所:P209〜226(台風)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
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