実技1の前提条件
次の資料を基に以下の問題に答えよ。ただし、UTC は協定世界時を意味し、問題文中の時刻は特に断らない限り中央標準時(日本時)である。中央標準時は協定世界時に対して9時間進んでいる。なお、解答における字数に関する指示は概ねの目安であり、それより若干多くても少なくてもよい。
XX 年1月22日から23日にかけての日本付近における気象の解析と予想に関する以下の問いに答えよ。予想図の初期時刻は、いずれも1月22日9時(00UTC)である。
図9は22日15時~23日3時に八丈島のウィンドプロファイラで観測された高層風時系列図である。この図と図6~図8を用いて以下の問いに答えよ。ただし、この期間の気象実況は図6~図8の予想どおりに経過しているものとする。
問3(4)
図9によると、21時以降は、風が観測された高度の上限がそれまでより大きく低下して高度 2.5km 付近となっている。この理由として考えられる八丈島上空での大気の状態の変化について、その変化をもたらした図8に見られる気象状況に言及して、50 字程度で述べよ。
答え
本問は、八丈島上空での大気の状態の変化に関する問題です。
本問の解説
(問題)図9によると、21時以降は、風が観測された高度の上限がそれまでより大きく低下して高度 2.5km 付近となっている。この理由として考えられる八丈島上空での大気の状態の変化について、その変化をもたらした図8に見られる気象状況に言及して、50 字程度で述べよ。
→ 答えは下記の通りです。
図9は、八丈島のウィンドプロファイラで観測された高層風時系列図です。
ウィンドプロファイラ とは、上空の風向・風速を測定する装置です。
具体的には、地上から上空に向かって5つの方向(鉛直方向と東西南北)に電波を発射します。
発射された電波は、大気の乱れや降水粒子など(=散乱体)に当たって散乱されますが、その際、これらの散乱体が風に流されているため、ドップラー効果により、戻ってくる電波の周波数がわずかに変化します。
この周波数の変化を利用して、風向・風速を測定しています。
また、ウィンドプロファイラは、上空の大気が湿っているほど、水蒸気によって散乱される電波の量が多くなることから、観測可能な高度は高くなる傾向があります。
これは、ウィンドプロファイラが「大気の屈折率のゆらぎ」を利用して観測しているためです。
大気の屈折率 とは、物質中を進む光や電波が曲がる度合いのことであり、気温や湿度、大気中の水蒸気量などによって決まります。
気温や湿度、水蒸気量は大気中で一様ではないので、大気の屈折率も大気中で一様ではありません。
例えば、ある場所では暖かく湿っており、別の場所では冷たく乾燥しているかもしれません。
こうした違いがあると、大気中の屈折率に変化(=空間変動)が生じます。
この変化が 大気の屈折率のゆらぎ です。
電波は通常、直進しますが、大気の屈折率のゆらぎがあるところでは、電波の向きや進む速さが変わります。
この屈折率のゆらぎが広範囲にわたると、電波はそのゆらぎによって様々な方向に進むようになり、結果として、電波が散乱し、その一部がウィンドプロファイラの元へ戻ってくるようになります。
ウィンドプロファイラは、このように散乱して戻ってきた電波をキャッチして、上空の風向や風速を測定しています。
屈折率のゆらぎが大きいほど、より多くの電波が散乱されるため、ウィンドプロファイラで検出できる信号も強くなります。
じゃあ、どういう時に屈折率のゆらぎが大きくなるの?
屈折率のゆらぎは、大気中の水蒸気量が多いほど、大きくなることが分かっています。
イメージとしては、大気中の水蒸気量が多い霧の中では、車のライトが散乱してぼやけて見るのと同じだよ!
つまり、大気中の水蒸気量が多く、上空の大気が湿っているほど、ウィンドプロファイラの発射した電波が散乱されやすくなり、その散乱された電波を受信することで、より高い高度まで観測が可能になるのです。
逆に、乾燥した空気では屈折率のゆらぎが小さいので、散乱される電波も弱く、ウィンドプロファイラが観測できる高度も低くなります。
実際に、ウィンドプロファイラの観測可能な高度には季節変化があり、水蒸気量が多い暖候期には観測可能な高度が高く、水蒸気量が少ない寒候期には観測高度が低くなる傾向があります。
▼ ウィンドプロファイラについては、下記記事で詳しく解説していますので、よければご覧ください。▼
前置きが長くなってしまいました。では、問題に戻りましょう。
図8を見ると、八丈島付近は、22日21時頃 (図8上) から低気圧西側の下降流域に入る予想になっています。
一般に、低気圧の西側の下降流域は、下降流に伴う断熱昇温や、上空の乾燥した空気の下降によって、乾燥しています。
問題文 (実技1の前提条件) には、「この期間の気象実況は図6~図8の予想どおりに経過しているものとする。」とあることから、22日21時頃 (図8上) には、この乾燥した空気が八丈島付近の高度約 2.5km 以上の上空に達していると判断できます。
また、問3(1) (下図) で求めたように、22日9時に九州の南にあった低気圧は、22日21時には八丈島の東海上に位置しています。
このことから、22日21時頃の八丈島は、低気圧の西側に位置し、寒冷前線に伴う下降気流によって、上空の大気が乾燥していると推測することができます。
以上より、本問の解答は下記のようになります。
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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