【第60回】2023年8月試験(学科一般試験)問9(成層圏の温度構造、循環の特徴)

問9

7月及び1月の成層圏内の高度30km~50km付近について述べた次の文章の空欄 (a) ~ (e) に入る語句の組み合わせとして適切なものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

7月は、北極周辺が全球の中で最も気温が (a) 、北極を中心とする高層天気図で見ると、気圧の等高度線が北極を中心とする同心円状の (b) となっている。一方、1月は一般に北極周辺が全球の中で最も気温が (c) 、(d) となっている。また、1月は7月と比べて、等高度線は同心円状ではなく南北に蛇行しており、しばしばアリューシャン列島付近に (e) が現れる。

   





解説

本問の解説:(a)、(b)について

(問題)7月は、北極周辺が全球の中で最も気温が (a) 、北極を中心とする高層天気図で見ると、気圧の等高度線が北極を中心とする同心円状の (b) となっている。

→ 答えは (a) 高く (b) 高気圧 です。

本問は、成層圏の温度構造、循環の特徴についての問題です。

まずは、7月の北極周辺の気温と気圧を考えてみましょう。

下図は、1975年7月2日の北極を中心とした成層圏(5hPa(=高度約35〜37km))の天気図です。

夏季の北極周辺の成層圏の天気図
5hPa(高度約35〜37km)の成層圏の天気図(NASA Reference Publication 1023)に色をつけた図で、
典型的な夏型の気圧配置と気温分布を表す。
青い実線は等高度線(流線と同等)で単位はm、
赤い破線は等温線で単位は℃、
高マークは高気圧を表す。

この図を見ると、気温は赤道から中緯度に向かって次第に高くなり、

北極周辺で最も高いことがわかります。

また、北極付近で等圧面高度が最も高くなっており、

北極を中心とする同心円状の高気圧となっていることもわかります。

したがって、7月は、北極周辺が全球の中で最も気温が高く、北極を中心とする高層天気図で見ると、気圧の等高度線が北極を中心とする同心円状の高気圧となっているので、答えは (a) 高く (b) 高気圧 となります。

てるらん

でも、どうして北極付近で気温が最も高くて、高気圧になるの?

てるるん

それは、成層圏のオゾン層による加熱が関係しているよ!

成層圏に存在するオゾン層は、太陽の紫外線を吸収することで、大気を暖めます。

夏季の北極は1日中日射が当たる白夜となるため、日射量が他の緯度帯より大きくなります。

つまり、成層圏のオゾン層が、太陽の紫外線を1日中吸収し、大気を加熱するため、

夏季の成層圏は、北極付近で気温が最も高くなるのです。

また、気温が高いということは空気が膨張しているということですので、

等圧面上での高度は高くなります。

高層天気図では地上からの高さによって高気圧・低気圧を表しますので、

高度が高い高気圧ということです。

↓詳しく知りたい方はこのページが参考になると思います。

色と形で気象予報士!
高層天気図の考え方(高層天気図1) 高層天気図では地上からの高さによって高気圧・低気圧を表す そうだ。地上天気図のように単純に ~hPa で表せばいいのに・・とぼやいてもしょうがないので...地上天気...

本問の解説:(c)、(d)について

(問題)1月は一般に北極周辺が全球の中で最も気温が (c) 、(d) となっている。

→ 答えは (c) 低く (d) 低気圧 です。

続いて、1月の北極周辺の気温と気圧を考えてみましょう。

下図は、1975年12月31日の北極を中心とした成層圏(5hPa(=高度約35〜37km))の天気図です。

冬季の北極周辺の成層圏の天気図
5hPa(高度約35〜37km)の成層圏の天気図(NASA Reference Publication 1023)に色をつけた図で、
冬型、アリューシャン高気圧が比較的安定している状態を表す。
青い実線は等高度線(流線と同等)で単位はm、
赤い破線は等温線で単位は℃、
高マークは高気圧、低マークは低気圧を表す。

この図を見ると、気温は赤道から中緯度に向かって次第に低くなり、

北極周辺で最も低いことがわかります。

また、北極付近で等圧面高度が最も低くなっており、

北極を中心とする低気圧となっていることもわかります。

したがって、1月は一般に北極周辺が全球の中で最も気温が低く低気圧となっているので、答えは (c) 低く (d) 低気圧 となります。

本問の解説:(e)について

(問題)1月は7月と比べて、等高度線は同心円状ではなく南北に蛇行しており、しばしばアリューシャン列島付近に (e) が現れる。

→ 答えは (e) 高気圧 です。

アリューシャン列島とは、アラスカからカムチャツカ半島へ連なる諸島群です。

アリューシャン列島

下図は、1975年12月31日の北極を中心とした成層圏(5hPa(=高度約35〜37km))の天気図です。

(問題 (c)、(d) で考えた図と同じです。)

冬季の北極周辺の成層圏の天気図
5hPa(高度約35〜37km)の成層圏の天気図(NASA Reference Publication 1023)に色をつけた図で、
冬型、アリューシャン高気圧が比較的安定している状態を表す。
青い実線は等高度線(流線と同等)で単位はm、
赤い破線は等温線で単位は℃、
高マークは高気圧、低マークは低気圧を表す。

この図では、アリューシャン列島は等高度線が密な部分にかかっていますが、

少し南側の北部太平洋に高気圧が出現していることがわかります。

ちなみに、この高気圧は、冬季にアリューシャン列島付近に比較的長い期間に存在することから、

アリューシャン高気圧 と呼ばれます。

したがって、1月は7月と比べて、等高度線は同心円状ではなく南北に蛇行しており、しばしばアリューシャン列島付近に高気圧が現れるので答えは (e) 高気圧 となります。

てるらん

でも、どうしてアリューシャン列島付近に高気圧ができるの?

てるるん

それは、プラネタリー波の鉛直伝播が関係しているよ!

冬季の北極付近は低気圧になっていますので、低気圧性循環により西風になります。

また、対流圏では、大規模山岳や大陸と海洋の熱的コントラスト等により、

東西波長の長い超長波( プラネタリー波 )が励起されます。

このプラネタリー波は、成層圏が高気圧性循環(東風)の場合は上方伝播できず、

低気圧性循環(西風)の場合は上方伝播できるという性質があります。

つまり、低気圧性循環である冬季にはプラネタリー波が成層圏まで伝播できるということです。

こうして、冬季にプラネタリー波が伝播され、低気圧性循環が南北に蛇行することで、

アリューシャン高気圧 が形成されるのです。

アリューシャン高気圧

以上より、本問の解答は (a) 高く (b) 高気圧 (c) 低く (d) 低気圧 (e) 高気圧 とする となります。

ここに書いてあるよ
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書いてある場所:P259(中層大気の東西循環の季節変化)


書いてある場所:P294(プラネタリー波の鉛直伝播)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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