【第61回】2024年1月試験(学科一般試験)問8(大気と海洋による南北熱輸送)

問8

図は年平均した大気と海洋による南北熱輸送量の緯度分布を示したものである。この図に示される、大気と海洋による南北熱輸送について述べた次の文 (a) ~ (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。

(a) 北緯40°付近よりも高緯度の、大気と海洋による北向きの全熱輸送量が極に向かって減少している領域では、大気と海洋は全体として南北熱輸送により加熱されている。

(b) 亜熱帯高圧帯では蒸発量が降水量よりも多く、蒸発量と降水量の差のほとんどは、水蒸気としてハドレー循環により熱帯収束帯に向かって輸送されている。

(c) 海洋では、海流により高温の海水が低緯度から高緯度に、低温の海水が高緯度から低緯度に運ばれることにより、低緯度から高緯度に熱が輸送されている。

気象予報士試験_第61回_一般知識_問8
   





解説

本問は、年平均した大気と海洋による南北熱輸送量の緯度分布に関する問題です。

問題の図は、縦軸が「北向きの熱輸送量」というフラックス(=流束)を表す物理量であり、慣れていないと図が何を意味しているのか理解するのに苦労するかもしれません。

なので、はじめに図の見方を簡単に説明します。

てるるん

図の見方は分かってるよ~って人は、問題の解説までスキップしてね!

そもそも、フラックス とは、ある面を通過する物質やエネルギーの量を示す物理量です。

簡単に言うと、フラックスは「どれだけの量がどれくらいの速さで流れているか」を表します。

本問では、「北向きの熱輸送量」というフラックスですので、値がに大きいほど熱を北向きに輸送し、値がに大きいほど熱を南向きに輸送しているということです。

また、値が0の時は、熱を北にも南にも輸送していないことを表しています。

気象予報士試験_第61回_一般知識_問8

例えば、上図のように、北緯30度では、北向きの熱輸送が約 4.8×1012 [kJ/s] ですので、毎秒約 4.8×1012 [kJ] の熱を北向きに輸送しているということです。

また、南緯60度では、北向きの熱輸送が約-3.5×1012 [kJ/s] ですので、毎秒約 3.5×1012 [kJ] の熱を南向きに輸送しているということです。

本問の解説:(a)について

(問題)北緯40°付近よりも高緯度の、大気と海洋による北向きの全熱輸送量が極に向かって減少している領域では、大気と海洋は全体として南北熱輸送により加熱されている。

→ 答えは です。

下図のように、北緯40°以北の、大気と海洋による北向きの全熱輸送量が極に向かって減少している領域(下図の青い四角形)を考えてみます。

気象予報士試験_第61回_一般知識_問8

この領域では、流入する熱エネルギーより、流出する熱エネルギーの方が小さいので、結果として熱が蓄積され、加熱されていることが分かります。

したがって、北緯40°付近よりも高緯度の、大気と海洋による北向きの全熱輸送量が極に向かって減少している領域では、大気と海洋は全体として南北熱輸送により加熱されていますので、答えは となります。

本問の解説:(b)について

(問題)亜熱帯高圧帯では蒸発量が降水量よりも多く、蒸発量と降水量の差のほとんどは、水蒸気としてハドレー循環により熱帯収束帯に向かって輸送されている。

→ 答えは です。

亜熱帯高圧帯(亜熱帯高気圧)とは、下図のように赤道付近で上昇した空気が緯度30度付近で下降する(=ハドレー循環)ことによって形成される高圧帯のことです。

子午面循環

この亜熱帯高気圧は、下降流域なので、雲の発達が抑えられ、蒸発量が降水量よりも多くなります。

この蒸発量と降水量の差にあたる水蒸気量が潜熱であり、この潜熱(=水蒸気)が大気によって南北どちらに輸送されているかを考えます。

下図の「大気による潜熱輸送」を見ると、亜熱帯高気圧がある30°付近より極側では極向きの潜熱輸送になっており、赤道側赤道向きの潜熱輸送になっています。

気象予報士試験_第61回_一般知識_問8

これは、亜熱帯高気圧より極側では、温帯低気圧などによって潜熱が極側へ輸送され、赤道側では、ハドレー循環によって潜熱が赤道側へ輸送されるためです。

したがって、亜熱帯高圧帯では蒸発量と降水量の差の「ほとんどが水蒸気(=潜熱)としてハドレー循環により熱帯収束帯に向かって輸送されている」わけではなく「極側にも同じくらいの潜熱が輸送されています」ので、答えは となります。

本問の解説:(c)について

(問題)海洋では、海流により高温の海水が低緯度から高緯度に、低温の海水が高緯度から低緯度に運ばれることにより、低緯度から高緯度に熱が輸送されている。

→ 答えは です。

下図の「海洋による潜熱輸送」を見ると、北半球では北向きの熱輸送南半球では南向きの熱輸送となっていることが分かります。

気象予報士試験_第61回_一般知識_問8

これは、下図のように、海洋では、黒潮などの極向きの海流によって高温の海水が低緯度から高緯度にカリフォルニア海流などの赤道向きの海流によって低温の海水が高緯度から低緯度に輸送されているためです。

世界の海流

熱エネルギーは、暖かい方から冷たい方へ移動しますので、結果として海洋では、熱エネルギーが、低緯度から高緯度に輸送されていることになります。

したがって、海洋では、海流により高温の海水が低緯度から高緯度に、低温の海水が高緯度から低緯度に運ばれることにより、低緯度から高緯度に熱が輸送されていますので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(a) (b) (c) とする となります。

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書いてある場所:P166〜169(大気と海洋による熱の南北輸送、本問の図もここにあります)


書いてある場所:P351〜356(南北方向の熱輸送、ハドレー循環、大気の循環・海洋・潜熱による熱輸送)


書いてある場所:P282〜287(緯度別にみた熱収支、大気・海流・大気中の潜熱による熱輸送)、P291(ハドレー循環)


書いてある場所:P117〜121(大気・海流・大気中の潜熱による熱輸送、ハドレー循環、本問の図もここにあります)


書いてある場所:P224〜225(ハドレー循環)、P230〜233(南北熱輸送、大気・海流・大気中の潜熱による熱輸送、本問の図もここにあります)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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