問11
温室効果気体である二酸化炭素について述べた次の文 (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 化石燃料の消費などで人為的に排出された二酸化炭素の約90%が大気中に蓄積されている。
(b) 大気中の二酸化炭素濃度の年増加率は、場所によって大きく異なり、人間活動がほとんどない南極域では増加は認められない。
(c) 大気の成分で主要な温室効果を持つのは二酸化炭素であり、その他の温室効果気体であるメタン、一酸化二窒素、水蒸気などは相対的に小さな効果しか持たない。
(d) 大気中の二酸化炭素は一部が海洋に吸収されるが、海洋の酸性化が進み海水のpHが小さくなると海洋の二酸化炭素吸収量は減少する。
本問は、二酸化炭素の温室効果の強さや変動などの特徴に関する問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)化石燃料の消費などで人為的に排出された二酸化炭素の約90%が大気中に蓄積されている。
→ 答えは 誤 です。
人為的に排出された二酸化炭素(=人為起源二酸化炭素)とは、化石燃料の燃焼やセメント製造により排出される二酸化炭素と、農地拡大等による土地利用変化(森林破壊)により排出される二酸化炭素をあわせたものをいいます。
下図は、2010年代の人為起源炭素収支の模式図です。

各数値は炭素重量に換算したもので、黒の矢印及び数値は産業革命前の状態を、
赤の矢印及び数値は産業活動に伴い変化した量を表しています。
2010~2019年の平均値(億トン炭素)を1年あたりの値で表しています。
収支の見積りに誤差を含むことや、小数の四捨五入のため、収支の合計が一致しない場合があります。
画像出典:気象庁ホームページ「海洋の炭素循環」
上図を見てみると、2010年代の人為起源の二酸化炭素は、炭素の質量に換算して年間約 109 億トンですが、そのうち、大気中に残るのは約 51 億トンであり、割合としては約 47 %です。
また、残りの二酸化炭素は陸上や海上に吸収されています。

「人為的に排出された二酸化炭素の約半分は大気中に残る」と覚えておくといいよ!
したがって、人為的に排出された二酸化炭素が大気中に蓄積されている割合は「約 90 %」ではなく、「約 47 %」ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)大気中の二酸化炭素濃度の年増加率は、場所によって大きく異なり、人間活動がほとんどない南極域では増加は認められない。
→ 答えは 誤 です。
下図は、2021年から2022年にかけての二酸化炭素濃度の年増加量の平面分布図です。


上図を見てみると、二酸化炭素濃度の年増加量は南極でもプラスになっていることが分かります。
また、下図は緯度帯30度毎に分割した大気中の二酸化炭素濃度です。


上図を見てみると、相対的に北半球の中・高緯度帯の濃度が高く、南半球では濃度が低くなっていますが、どの緯度帯でも二酸化炭素濃度は年々増加していることが分かります。



例えば、2020年の30°N-60°Nは約 415 ppmだけど、90°S-60°Sは約 410 ppmで、相対的に北半球の中・高緯度帯の濃度が高くなっていることが分かるね!
北半球の中・高緯度帯の二酸化炭素濃度が高い理由は、人間活動が多い北半球に、二酸化炭素の放出源が多く存在するためです。
また、二酸化炭素の放出量が少ない南極域でも二酸化炭素濃度は年々増加している理由は、北半球中・高緯度で放出された多量の二酸化炭素が大気の運動や拡散によって全球的に広がっているためです。
(ちなみに、上図における季節変動の振幅は、北半球では大きいのに対し南半球では比較的小さくなっています。これは、陸地が広く分布し植物が多い北半球に対し、南半球では陸地が少なく植物活動の影響が比較的小さいためです。)
したがって、大気中の二酸化炭素濃度の年増加率は、南極域でも増加していますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)大気の成分で主要な温室効果を持つのは二酸化炭素であり、その他の温室効果気体であるメタン、一酸化二窒素、水蒸気などは相対的に小さな効果しか持たない。
→ 答えは 誤 です。
二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、水蒸気(H2O)などの気体は地球放射(=赤外線)を吸収し、温室効果をもたらすことから 温室効果ガス と呼ばれます。
下図は、大気中の温室効果ガスがもつ温室効果の強さ(=温室効果ガスの寄与率)を表しています。


青線が地表から逃げる熱エネルギー、赤線が大気上端から逃げる熱エネルギーを示す。
また、青線と赤線の差が、大気による赤外線の吸収、すなわち温室効果の強度を表す。
図中のH2O、CO2、O3は、それらの分子による赤外線吸収が起こる波長領域を示す。
右の円グラフは、晴天時(雲がない場合)での温室効果への寄与率。
Kiehl and Trenberth (1997) Earth’s Annual Global Mean Energy Budget. Bulletin of the American Meteorological Society, 78, 197-208. (c)Copyright 2007 American Meteorological Society (AMS)
上図左のグラフを見てみると、地表から放出される赤外線(=グラフの青線)が、大気上端では H2O や CO2 などによって吸収され、エネルギー流出量が減少している(=グラフの赤線)ことがわかります。
また、H2O は広い波長域で赤外線を吸収しているため、上図右の円グラフのように、温室効果への寄与率はもっとも高く、約 48 % となります。
次いで、温室効果の寄与率が高いのは CO2 で、15μm付近の赤外線をよく吸収しており、温室効果への寄与率は 約 21 % となります。
また、その他5%の温室効果ガスには、メタンや一酸化二窒素、フロンなどのハロカーボン類があげられます。
したがって、大気の成分で主要な温室効果を持つのは二酸化炭素(CO2)ではなく水蒸気(H2O)ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d)について
(問題)大気中の二酸化炭素は一部が海洋に吸収されるが、海洋の酸性化が進み海水のpHが小さくなると海洋の二酸化炭素吸収量は減少する。
→ 答えは 正 です。
問題(d)は海洋酸性化に関する問題です。
海洋酸性化 とは、空気中の二酸化炭素が大量に海に溶け込むことで、海水のpHが低下し、海水が弱アルカリ性から酸性に近づく現象です。
現在、海水は弱アルカリ性(海面のpHは約8.1)を保っています。
しかし、二酸化炭素が水に溶けると、海水は酸性に近づき、pHが低下する原因となります。
(ただし、海洋酸性化とは、海が完全に酸性(pH7以下)になることを意味するのではなく、pHが低下して酸性に近づくことを意味します。)
大気中の二酸化炭素濃度は現在も増加し続けており、それに伴い海洋もさらに多くの二酸化炭素を吸収するため、より酸性に近づくことが懸念されています。
また、海水のpHが低下すると、海洋の二酸化炭素吸収量が減少し、大気中の二酸化炭素濃度が増加して地球温暖化が加速するおそれがあります。
さらに、海洋酸性化が進むと、サンゴやカキ、ホタテなどの貝類、エビ、カニなどの甲殻類など、炭酸カルシウムで殻を作る海の生き物たちの成長や繁殖が妨げられ、寿命にも悪影響を及ぼす可能性があります。


したがって、大気中の二酸化炭素は一部が海洋に吸収され、海洋の酸性化が進み海水のpHが小さくなると海洋の二酸化炭素吸収量は減少しますので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 誤 (c) 誤 (d) 正 とする 5 となります。
書いてある場所:P120〜122(温室効果)
書いてある場所:P450〜453(地球温暖化)
書いてある場所:P384〜386(温室効果と地球の温暖化、二酸化炭素(CO2の増加))
書いてある場所:P176〜180(温室効果気体、二酸化炭素の収支と変化の傾向、海洋の二酸化炭素の吸収)
書いてある場所:P34〜36(二酸化炭素の循環、二酸化炭素濃度の経年変化)、P98〜99(大気による温室効果のメカニズム)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
コメント