問9
竜巻について述べた次の文 (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 竜巻は、上空に積乱雲がなくても、日射による地表面付近の加熱が原因で発生する場合がある。
(b) 日本では、地形の影響で竜巻が減衰しやすいため、竜巻が5km以上移動した事例は報告されていない。
(c) スーパーセルに伴う竜巻は、フックエコーと呼ばれる、かぎ針の形をしたレーダー反射強度の強い領域付近で発生することが多い。
(d) 北半球で発生する竜巻には、渦の向きが反時計回りのものと時計回りのものがあるが、いずれの回転方向の竜巻も中心の気圧は周囲よりも低い。
本問は、竜巻の一般的な特徴に関する問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)竜巻は、上空に積乱雲がなくても、日射による地表面付近の加熱が原因で発生する場合がある。
→ 答えは 誤 です。
竜巻 とは、積乱雲に伴う強い上昇気流により発生する激しい渦巻きで、多くの場合、漏斗状または柱状の雲を伴います。
(ちなみに、漏斗雲が地面や水面に達している場合に竜巻と呼び、雲底から漏斗雲が伸びているだけで、地面や水面に達していないものは竜巻とは呼びません。)
一方、日射による地表面付近の加熱が原因で発生する渦巻きは、じん旋風(=つむじ風) であり、積雲や積乱雲に伴うものではありません。
したがって、上空に積乱雲がないと発生しないのは「竜巻」であり、上空に積乱雲がなくても、日射による地表面付近の加熱が原因で発生するのは「じん旋風」ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)日本では、地形の影響で竜巻が減衰しやすいため、竜巻が5km以上移動した事例は報告されていない。
→ 答えは 誤 です。
日本での竜巻の平均的な規模は以下のとおりです。
(1) 平均被害幅:103m(そのほとんどが160m以下、最大1.6km)
(2) 平均の被害の長さ:3.3km(そのほとんどは5km以下、最大50.8km)
(3) 平均の移動速度:36km/h(そのほとんどが60km/h以下、最大100km/h以上)
(参考文献:福岡管区気象台「竜巻Q&A」、光田寧他 竜巻など瞬発性気象災害の実態とその対策に関する研究(文部省科学研究費自然災害特別研究成果、1983))
上記によると、平均の被害の長さは 3.3km なので、竜巻が5km以上移動しないというニュアンスにも捉えられそうですが、あくまで平均なので実際の被害の長さは個々の竜巻によってばらつきがあります。
では、実際に発生した竜巻の事例を見てみましょう。
日本で1961年以降に発生した竜巻などの突風の事側は、気象庁HPの「竜巻等の突風データベース」に記載されています。
下図は2012年(平成24年)5月6日に栃木県で発生した3つの竜巻を示したものです。
上図によると、竜巻①の被害の長さは32km、竜巻②の被害の長さは21km、竜巻③の被害の長さは17kmとなっており、いずれの竜巻も5km以上移動したことを表しています。
したがって、日本で竜巻が5km以上移動した事例は存在しますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)スーパーセルに伴う竜巻は、フックエコーと呼ばれる、かぎ針の形をしたレーダー反射強度の強い領域付近で発生することが多い。
→ 答えは 正 です。
竜巻の発生メカニズムは未解明な部分が多いものの、過去の事例からスーパーセルの発生・発達に伴って生じるケースが多いことが知られています。
スーパーセル とは、1つの巨大な積乱雲の塊のことで、水平方向の大きさは、10kmから大きなもので40kmぐらいにまで発達することがあります。
下図は、スーパーセルを横から見た図です。
上図において、雲が凹んでいるように見える領域を ヴォルト(vault:丸天井という意味)といいます。
ここでは、雲の中から発生する冷たい下降流と、下層の暖湿気流が衝突して、極めて強い上昇流が発生しています。
この強い上昇気流によって、雲粒が降水粒子に育つよりも早く上層まで運ばれてしまうため、雲が凹んでいるように見えるのです。
下図は、スーパーセルを上から見た図です。
上図において、降水強度がフック状(かぎ針状、釣り針状)に強くなっている領域を フックエコー といいます。
先ほど説明したヴォルトの領域は、上昇流が強く雨粒が成長できないため、降水強度が弱くなります。
また、スーパーセルはストーム全体が回転しており、その回転方向はほとんど反時計回りです。
このため、落下してきた雨粒が、この回転の流れに巻き込まれ、ヴォルトを迂回するように回り込むことによって、降水域がフック状になるのです。
このフックエコー付近では、直径数kmの低気圧性の渦(メソサイクロン)が発生します。
この渦は、強い上昇気流と下降気流がぶつかり合うことで局所的な気圧差を生み出し、上空から地表に向かって急激に回転が強まるため、この付近で竜巻が発生しやすくなるのです。
したがって、スーパーセルに伴う竜巻は、フックエコーと呼ばれる、かぎ針の形をしたレーダー反射強度の強い領域付近で発生することが多いので、答えは 正 となります。
本問の解説:(d)について
(問題)北半球で発生する竜巻には、渦の向きが反時計回りのものと時計回りのものがあるが、いずれの回転方向の竜巻も中心の気圧は周囲よりも低い。
→ 答えは 正 です。
竜巻は、北半球において、ほとんどが反時計回りに回転しますが、時計回りに回転することもあります。
その理由は、竜巻が旋衡風であるためです。
旋衡風 (読:せんこうふう)とは、気圧傾度力と遠心力が釣り合って吹く風のことです。
似たような言葉に、地衡風や傾度風がありますが、これらは水平スケールが大きい現象で吹く風ですので、コリオリ力の影響を無視できません。
しかし、竜巻のように水平スケールの小さい現象は、コリオリ力がほとんど働かないため、コリオリ力を無視して考えることが可能です。
また、竜巻は、一種の低気圧であり、中心ほど気圧が低いので、気圧傾度力が中心に向かって働き、風の回転による遠心力が外側に向かって働きます。
これらの条件を満たす傾度風は、上図のように時計回りにも反時計回りでも成立しますので、竜巻は時計回りにも反時計回りにも回転することが可能です。
実際の竜巻は、ほとんどが反時計回りですが、まれに時計回りの竜巻が発生することもあります。
したがって、北半球で発生する竜巻には、渦の向きが反時計回りのものと時計回りのものがあり、いずれの回転方向の竜巻も中心の気圧は周囲よりも低いので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 誤 (b) 誤 (c) 正 (d) 正 とする 4 となります。
書いてある場所:P217〜220(スーパーセル、フックエコー、メソサイクロン、竜巻)
書いてある場所:P396〜397(竜巻、スーパーセル)
書いてある場所:342〜343(竜巻、フックエコー、スーパーセル)
書いてある場所:P144〜146(スーパーセル、フックエコー、メソサイクロン、竜巻)
書いてある場所:P182〜183(竜巻、じん旋風)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
コメント