【第61回】2024年1月試験(学科一般試験)問1(オゾン)

第62回_気象予報士試験_解答速報(予告)

問1

地球大気中のオゾンについて述べた次の文 (a) 〜 (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

(a) 成層圏では、酸素分子は紫外線を吸収すると解離し、解離した酸素原子が酸素分子と結合してオゾンとなることで、オゾン層が形成されている。

(b) 成層圏では、オゾンの数密度は高度が高いほど大きく、高度約50kmにある成層圏界面付近で最大となる。

(c) 成層圏のオゾンの空間分布やその季節変動は、太陽放射の強さの時空間分布でほぼ説明できる。

   





解説

本問は、地球大気中のオゾンに関する問題です。

本問の解説:(a)について

(問題)成層圏では、酸素分子は紫外線を吸収すると解離し、解離した酸素原子が酸素分子と結合してオゾンとなることで、オゾン層が形成されている。

→ 答えは です。

下図は、光化学反応による大気中のオゾンの生成・消滅のプロセスを示したものです。

オゾンの生成と消滅
画像:気象庁ホームページ「オゾン層とは」の「図2 大気中のオゾンの生成・消滅」をもとに作成


オゾンの生成・消滅のプロセスは

紫外線による光解離によって酸素原子 O が生成

酸素原子が周囲の酸素分子 O2 と結合してオゾン O3 が生成

オゾン O3 が酸素原子 O と反応することによって酸素分子 O2 に戻る

が繰り返されて濃度が保たれています。

つまり、オゾンの生成・消滅のプロセスには、紫外線と酸素分子が充分に存在することが必須であり、この反応が頻繁に起こる層(=オゾンが多い層)オゾン層 といいます。

したがって、成層圏では、酸素分子は紫外線を吸収すると解離し、解離した酸素原子が酸素分子と結合してオゾンとなることで、オゾン層が形成されていますので、答えは となります。

本問の解説:(b)について

(問題)成層圏では、オゾンの数密度は高度が高いほど大きく、高度約50kmにある成層圏界面付近で最大となる。

→ 答えは です。

下図は、大気の気温分布とオゾン分布の関係を示した図です。

この図によると、オゾン分布(=オゾンの数密度)のピークは、オゾン層がある高度25km付近にあり、気温分布のピークは、高度50km付近にあることが分かります。

気温分布とオゾン分布
画像:気象庁ホームページ「オゾン層とは」の「図1 大気の構造」をもとに作成
てるらん

でも、なんでオゾン分布と気温分布のピークの高さが違うの?

オゾン分布

オゾンの生成は、紫外線と酸素分子が充分に存在することが必須ですので、オゾンの数は

紫外線の量が多い上層ほど

酸素分子の数が多い下層ほど

光化学反応の触媒が多い下層ほど

多くなります。

(③について、光化学反応を促進する触媒として他の分子(例えば、窒素 N2 など)が多いほど、反応が進みますので、密度の大きい下層ほどオゾンの生成が進みます。)

その結果、オゾン分布のピークは、紫外線も、酸素分子も、触媒となる分子もそこそこ多い高度25km付近に存在します。

気温分布

オゾンは、生成・消滅の過程で紫外線を吸収し、大気を加熱しますので、その加熱率は

紫外線の量が多い上層ほど

酸素分子の数が多い下層ほど

熱容量が小さい上層ほど

大きくなります。

(③について、熱容量 [J/K] とは、物体の温度を単位温度、すなわち1K(=1℃)上昇させるために必要な熱量のことで、熱容量が小さいほど、その物体は暖まりやすくなります。大気上層ほど空気密度が小さく、大気が暖まりやすいので、熱容量は小さくなります。)

その結果、成層圏の大気の加熱量は、オゾン分布のピークである高度25kmよりも上空で大きくなるため、温度分布のピークは高度50km付近(=成層圏界面)に存在します。

したがって、成層圏のオゾンの数密度は「高度50km(=成層圏界面)付近」ではなく「高度約25km付近」で最大となりますので、答えは となります。

本問の解説:(c)について

(問題)成層圏のオゾンの空間分布やその季節変動は、太陽放射の強さの時空間分布でほぼ説明できる。

→ 答えは です。

下図はオゾン全量の季節変動を示した図です。

値が大きいほど、オゾン全量が多いことを表しています。

オゾン全量の季節変動
画像出典:気象庁ホームページ「帯状平均した月平均オゾン全量累年平均値(1997~2006年平均)の季節変化
等値線間隔は15m atm-cm。
白色の部分は衛星によるオゾン全量観測ができない領域。
米国航空宇宙局(NASA)提供の衛星データから作成。

これによると、オゾン全量は低緯度で少なく中高緯度の冬季から春季(北半球の12月・1~5月。南半球の6~11月)にかけて多くなっていることが分かります。

その要因は、オゾンの生成と循環が関係しています。

オゾンは、紫外線による光化学反応によって生成されるため、太陽光が最も強い低緯度の成層圏が主な生成場所となっています。

もし「ある地点・ある高度でのオゾン分布が太陽放射の時空間分布だけで決まる」のであれば、低緯度の成層圏など、太陽日射量が多い地域でオゾン生成は最大となり、オゾンの総量も最大となりそうですが、実際にはそうなっていません。

その原因は、成層圏に存在する低緯度から両極の中高緯度に向かう大規模な循環ブリューワー・ドブソン循環)によって、低緯度で生成されたオゾンが中高緯度に運ばれ、下降するためです。

ブリューワー・ドブソン循環
画像:一般気象学 P254 図9.4 中層大気のラグランジュ的子午面循環の模式図
(T.Dunkerton, 1978:J. Atmos. Sci., 35, 2325-2333.) をもとに作成

中緯度に運ばれたオゾンを含む空気は下降して、下部成層圏で圧縮されるため、結果として、中高緯度の下部成層圏でオゾン量が多くなります。

このようなオゾンの輸送は冬季に最も活発になるので、冬季から春季にかけて中高緯度の成層圏にオゾンが蓄積され、オゾン全量(地表面から大気上端までの気柱に含まれるオゾンの総量)が多くなります。

したがって、成層圏のオゾンの空間分布やその季節変動は、「太陽放射の強さの時空間分布でほぼ説明できる」わけではなく「成層圏の低緯度から両極の中高緯度に向かう大規模な循環(ブリューワー・ドブソン循環)なども関係します」ので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(a) (b) (c) とする となります。

ここに書いてあるよ
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書いてある場所:P25〜30(オゾン)、P254〜255(ブリューワー・ドブソン循環)


書いてある場所:P40〜46(オゾン)、P355(ブリューワー・ドブソン循環)


書いてある場所:P32〜35(オゾン、ブリューワー・ドブソン循環)


書いてある場所:P18〜19(オゾン、ブリューワー・ドブソン循環)


書いてある場所:P27〜30(オゾン、ブリューワー・ドブソン循環)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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