問8
図は、6月のある日の午前9時 (日本時間) における気象衛星ひまわりの赤外画像 (上) と可視画像 (下) である。図に A ~ D で示された領域あるいは雲域について述べた次の文 (a) 〜 (d) の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 雲域Aは、日本の南海上で西南西から東北東に連なり、その多くが対流雲で構成された雲列で、発達した積乱雲が含まれている。
(b) 雲域Bには、北縁が寒気側に凸状に膨らむ「バルジ」がみられ、この雲域に対応する低気圧が、発生期・発達期・最盛期・衰弱期のうちの最盛期であることを示している。
(c) 領域Cの筋状の上層雲は、上層風の流れにほぼ直交して北西から南東方向にのびる「トランスバースライン」であると判断される。
(d) 領域Dには、この時期に北太平洋からオホーツク海にかけて広く分布する移流霧と呼ばれる霧が存在するとみられる。
本問は、気象衛星ひまわりの赤外画像と可視画像の見方に関する問題です。
可視画像 とは、雲や地表面によって反射された太陽光を観測した画像です。
雨を伴うような発達した雲は厚みがあり、太陽光を強く反射するため明るく写ります。
夜間は太陽光の反射がないため、可視画像に雲は写りません。
赤外画像 とは、雲、地表面、大気から放射される赤外線を観測した画像です。
放射される赤外線の強さは雲の温度により変化する特性があります。
この特性を利用して、温度が低いほど明るく、温度が高いほど暗く表現しています。
温度の低い雲には、夏の夕立や集中豪雨をもたらす積乱雲のような厚い雲もあれば、
晴れた日のはるか上空に薄く現れる巻雲のような雲もあります。
このため、白く写っている雲が雨をもたらすとは限りません。
また、ごく低い雲や霧は温度が高いため、地表面や海面とほとんど同じ温度の灰色や黒色で表示され、地表面や海面と区別がほとんどできません。
下図は、上記の特徴をもとに、赤外画像と可視画像の明暗から、雲型を判別するダイヤグラムです。
上図を参考にしながら、本問を解いていきましょう。
本問の解説:(a)について
(問題)雲域Aは、日本の南海上で西南西から東北東に連なり、その多くが対流雲で構成された雲列で、発達した積乱雲が含まれている。
→ 答えは 正 です。
雲域Aは、赤外画像、可視画像ともに明るいため、積乱雲が含まれていることが分かります。
また、可視画像では白く凹凸した雲頂が見られるため、西南西から東北東にかけて発達した団塊状の雲が連なっていると推定できます。
したがって、雲域Aは、日本の南海上で西南西から東北東に連なり、その多くが対流雲で構成された雲列で、発達した積乱雲が含まれていると推定できますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)雲域Bには、北縁が寒気側に凸状に膨らむ「バルジ」がみられ、この雲域に対応する低気圧が、発生期・発達期・最盛期・衰弱期のうちの最盛期であることを示している。
→ 答えは 誤 です。
雲域Bは、北端が寒気側(極側)に凸状に膨らむ「バルジ」になっており、温帯低気圧に伴う雲であることが分かります。
温帯低気圧は、下図のように、発生期、発達期、最盛期、衰弱期と経過します。
温帯低気圧に伴う雲のパターンとして、雲域Bにあるようなバルジが明瞭化してくるのは、発達期です。
バルジの成因は以下のとおりです。
① 温暖前線上を暖湿空気が滑昇しながら低気圧の北〜北東側に雲を作ります。
② その低気圧の北側に強風軸があり、雲がその強風軸に流されることによって、高気圧性曲率を持った凸状の雲域(バルジ)ができます。
つまり、バルジが明瞭化しているということは、低気圧の前面で暖気移流が流入し、上昇が活発であるということですので、温帯低気圧が発達中であることが分かります。
また、最盛期になると、低気圧の中心に向かってドライスロットと呼ばれる雲がない領域が入ってきます。
雲域Bは、まだドライスロットがはっきりしていないことから発達期と判断できます。
したがって、雲域Bの「バルジ」に対応する低気圧は、「最盛期」ではなく「発達期」ですので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)領域Cの筋状の上層雲は、上層風の流れにほぼ直交して北西から南東方向にのびる「トランスバースライン」であると判断される。
→ 答えは 誤 です。
雲域Cは、赤外画像で明るく、可視画像でやや暗いため、上層雲であることが分かります。
しかし、これが「トランスバースライン」であるかどうかの判断が難しいところです。
トランスバースライン とは、ジェット気流などの強い風が吹く領域に沿って現れる雲のことです。
これらの雲は、風の流れに対してほぼ直角に並んでおり、小さな波のような形状をした雲列が特徴です。
トランスバースラインの成因は「ケルビン・ヘルムホルツ不安定」や「レイリー・ベナール対流」が有力だと言われています。
ケルビン・ヘルムホルツ不安定 とは、異なる速度で動く2つの流体(例:空気や水)の境界で、その速度差が大きくなると、波のような渦が発生する現象です。
これまでの研究では、この現象でできた渦の上昇気流部分に雲が形成され、縞状の雲列が現れると考えられてきました。
しかし、近年の研究では「レイリー・ベナール対流」によってトランスバースラインができる可能性があると言われています。
レイリー・ベナール対流 とは、温度差によって液体や気体が対流する現象です。
下が温かく、上が冷たいと、温かい部分の軽い流体が上昇し、冷たい部分の重い流体が下降することで、対流が起こります。
この現象でできた、対流の上昇気流部分に雲が形成され、縞状の雲列が現れると考えられています。
領域Cの雲を見てみると、トランスバースラインにしては雲が長すぎること、雲列と列の間にも弱いながら雲があることから、トランスバースラインではないと推測できます。
じゃあ、領域Cの雲は、どうやってできた雲なの?
下図左は、本問の図と同じ日の300hPa天気図で、領域Cの西側には寒冷低気圧があることが分かります。
一般に、寒冷低気圧の南東側では積乱雲が発達しやすいと言われています。
実際、上図の寒冷低気圧の南東側には、赤外画像でも可視画像でも白く、発達した積乱雲があることが分かります。
また、領域Cの雲は、この積乱雲から流れてきているようにも見えます。
つまり、領域Cは、上空の寒冷渦の南東側に並んでいる発達した積乱雲の雲頂付近の巻雲が、上空の風によって流されて形成されたものと推定できます。
試験ではこの300hPa天気図は与えられていないから、試験中に寒冷渦の存在まで推測するのは難しいけど、似たような問題が出題されることもあるから、今回の事例は今後の対策として覚えておこう!
積乱雲から流れてくる上層雲が、トランスバースラインのひっかけとして出題されることもあるんだね!
したがって、領域Cの筋状の上層雲は、「トランスバースライン」ではなく「積乱雲の雲頂付近の巻雲が風に流されてできたもの」であると推定できますので、答えは 誤 となります。
本問の解説:(d)について
(問題)領域Dには、この時期に北太平洋からオホーツク海にかけて広く分布する移流霧と呼ばれる霧が存在するとみられる。
→ 答えは 正 です。
雲域Dは、赤外画像で暗く、可視画像でやや明るいため、雲頂高度が低い霧または層雲であることが分かります。
移流霧 とは、暖かく湿った空気が、冷たい地表面や海上を移動するときに、冷やされることで発生する霧です。
特に春から夏にかけては、北太平洋やオホーツク海の冷たい海域に、暖湿気が流れ込みやすいため、この地域では移流霧が発生しやすくなります。
下図は、本問で使用している画像と同じ時間(2022年6月12日9時)の天気図です。
これを見ると、北太平洋に高気圧があり、冷たい海域に向かって、南からの暖湿気が流れ込みやすい場になっていることが分かります。
したがって、領域Dの雲は「移流霧」と推定できますので、答えは 正 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 誤 (c) 誤 (d) 正 とする 3 となります。
書いてある場所:P182〜187(温帯低気圧)
書いてある場所:P222(移流霧)、P368〜382(温帯低気圧)、P403〜405(寒冷低気圧)
書いてある場所:P98〜103(可視画像)、P106〜113(赤外画像)、P138〜142(温帯低気圧の一生)、P238〜240(全球モデル、メソモデル)、P268〜276(パラメタリゼーション)
書いてある場所:P131〜135(温帯低気圧)、P267〜304(可視画像、赤外画像、雲型判別ダイヤグラム、トランスバースライン、低気圧の発達過程に伴う雲パターン、など)、P382〜383(寒冷低気圧)
書いてある場所:P89〜97(気象衛星画像、霧、トランスバースライン、バルジ)、P233〜236(寒冷渦)
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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