問6
気象庁で作成しているガイダンスについて述べた次の文 (a) ~ (c) の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。
(a) 風ガイダンスは、過去の数値予報 (説明変数) と実況 (目的変数) から統計的に作成した予測式を用いて補正するガイダンスであり、数値予報モデルの地形と実際の地形の違い等に起因する風向・風速の予測誤差を低減している。
(b) 視程ガイダンスのように、数値予報では直接予測しない気象要素を目的変数の定義などに基づいて決めた予測式を用いて診断的に算出するガイダンスでは、一般に、数値予報モデルの予測特性が変わるとガイダンスによる予測結果の予測特性も変化する。
(c) メソアンサンブル予報の各メンバーから作成した気温ガイダンスは、単独のメソモデルから作成した気温ガイダンスと同じ手法で作成されており、そのアンサンブル平均は、一般に、単独のメソモデルから作成した気温ガイダンスより予測精度が低い。
本問は、天気予報ガイダンスに関する問題です。
本問の解説:(a)について
(問題)風ガイダンスは、過去の数値予報 (説明変数) と実況 (目的変数) から統計的に作成した予測式を用いて補正するガイダンスであり、数値予報モデルの地形と実際の地形の違い等に起因する風向・風速の予測誤差を低減している。
→ 答えは 正 です。
風ガイダンス とは、数値予報モデルが予測した風向・風速の誤差を低減するガイダンスです。
数値予報モデルが扱う地形(モデル地形)は、下図のように実際の地形よりも滑らかになっています。
このため、数値予報モデルが予測する風は、モデル地形の不完全さに起因する系統的誤差が生じてしまいます。
例えば、下図のように富山県の東部(図中A)では、冬型の気圧配置と地形の影響で南風になることが多いですが、GSM(全球モデル)では滑らかな地形のために、西~北西風を予測してしまうという系統的誤差があります。
この系統的誤差を低減するために、風ガイダンスでは、GSMの風を適切に補正して、南風を予測しています。
風ガイダンスの具体的な計算は、数値予報で予測された地上風の東西風成分と南北風成分を予測因子として、カルマンフィルターを用いて作成されています。
これにより、モデル地形と実際の地形の違いによって生じる系統的誤差を低減し、より実際の風に近い予測ができるようになります。
したがって、風ガイダンスは、数値予報モデルの地形と実際の地形の違い等に起因する風向・風速の予測誤差を低減していますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b)について
(問題)視程ガイダンスのように、数値予報では直接予測しない気象要素を目的変数の定義などに基づいて決めた予測式を用いて診断的に算出するガイダンスでは、一般に、数値予報モデルの予測特性が変わるとガイダンスによる予測結果の予測特性も変化する。
→ 答えは 正 です。
視程ガイダンス とは、数値予報モデルが直接予測しない要素である「視程」を、雲水量や相対湿度といった数値予報モデルの予測データをもとに診断的に算出するガイダンスです。
「診断的に算出する」とは、論理的な関係式や過去の調査研究から得られた経験式などを使って、数値予報モデルで求めた予測値を、数値予報モデルでは直接予想しない視程などの予測値に変換することをいいます。
このようなガイダンスは、数値予報モデルの出力に依存しているため、モデルの予測特性が変わると、ガイダンスの結果も変わります。
具体的には、数値予報モデルが雲水量などを過小に予測している場合、ガイダンスも視程の悪化を正確に予測できないことがあります。
したがって、数値予報で直接予測しない気象要素を診断的に算出するガイダンスでは、一般に、数値予報モデルの予測特性が変わるとガイダンスによる予測結果の予測特性も変化しますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c)について
(問題)メソアンサンブル予報の各メンバーから作成した気温ガイダンスは、単独のメソモデルから作成した気温ガイダンスと同じ手法で作成されており、そのアンサンブル平均は、一般に、単独のメソモデルから作成した気温ガイダンスより予測精度が低い。
→ 答えは 誤 です。
アンサンブル予報 とは、わずかに異なる複数の初期値(メンバー)を用いて複数の予測を行い、予測の不確実性を統計的に評価する手法です。
これにより、最も発生しやすい気象現象を確率的に予測することができます。
アンサンブル予報をメソスケールで行ったものが メソアンサンブル予報 です。
アンサンブル予報では、各メンバーが異なる初期条件を使って予測を行うため、それぞれのメンバーの予測にはランダムな誤差が含まれます。
この誤差を軽減するために、複数のメンバーの予測結果を平均化したものが アンサンブル平均 です。
これにより、個々の誤差が打ち消し合い、予測のばらつきが抑えられるため、全体の予測精度が向上します。
一方、単独のメソモデルを用いた予測では、1つの初期条件に基づいて1つの予測を行うだけなので、誤差を平均して相殺することができません。
したがって、アンサンブル平均した気温ガイダンスは、一般的に、単独のメソモデルから作成された気温ガイダンスよりも予測精度が高くなりますので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 正 (c) 誤 とする 2 となります。
書いてある場所:P297(アンサンブル予報)
書いてある場所:ー
書いてある場所:P278〜285(ガイダンス)、P322〜329(アンサンブル予報)
書いてある場所:P321〜323(アンサンブル予報)
書いてある場所:P124〜130(ガイダンス)、P161〜168(アンサンブル予報)
気象庁「ガイダンスの解説」
気象庁「ガイダンスについて 〜近年の特性と降水量ガイダンスの改良〜」
気象庁ホームページ「数値予報の応用プロダクト」
気象庁「令和4年度数値予報解説資料集 第1章:基礎編1.6 ガイダンス」
気象庁「令和4年度数値予報解説資料集 第1章:1.8.2 ガイダンスの留意点」
気象庁「メソアンサンブルガイダンス」
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