【第61回】2024年1月試験(学科一般試験)問10(成層圏や中間圏の大気の特徴)

問10

成層圏や中間圏の大気の特徴について述べた次の文 (a) 〜 (d) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1~5の中から1つ選べ。

(a) 赤道付近の成層圏では、東風と西風が約2年周期で入れ替わる準二年周期振動が観測される。

(b) 北半球中高緯度の成層圏で、夏季に等高度線が北極付近を中心とする同心円状になるのは、対流圏で励起されたプラネタリー波が成層圏に伝播しなくなるためである。

(c) 一般的に、上部成層圏の気温の鉛直勾配は下部成層圏に比べて大きい。

(d) 成層圏と中間圏では、北半球の夏季の気温は北極付近で最も高くなる。

   





解説

本問は、成層圏や中間圏の大気の特徴に関する問題です。

本問の解説:(a)について

(問題)赤道付近の成層圏では、東風と西風が約2年周期で入れ替わる準二年周期振動が観測される。

→ 答えは です。

準二年周期振動(quasi-biennial oscillation:QBO)とは、赤道域の下部成層圏で、東風と西風が約26か月ごとに交代する現象のことです。

下図は、カントン島における下部成層圏の月平均東西風の時間・高度変化図で、
青色 (W)西風赤色 (E)東風 を表しています。

準ニ年周期振動
カントン島における成層圏下部の月平均東西風の時間・高度変化

(ちなみに、カントン島は南太平洋の赤道域に位置する島です。)

カントン島

上図(準二年周期振動の図)を見てみると、東西風の変化が約2年周期で発生していることが分かります。

てるらん

東風から西風になって、また東風に戻るまで約2年かかるから、準二年周期振動って呼ぶんだね!

準二年周期振動が発生する理由は、重力波が影響していると言われています。

具体的には、西向きや東向きの重力波が風向の変化に寄与しているのですが、詳しい原理を説明するにはかなり専門的な知識が必要なので、ここでは省略します。

てるるん

難しいことは考えず「準二年周期振動は重力波が関係しているんだな〜」くらいに覚えておけばOKだよ!

したがって、赤道付近の成層圏では、東風と西風が約2年周期で入れ替わる準二年周期振動が観測されていますので、答えは となります。

本問の解説:(b)について

(問題)北半球中高緯度の成層圏で、夏季に等高度線が北極付近を中心とする同心円状になるのは、対流圏で励起されたプラネタリー波が成層圏に伝播しなくなるためである。

→ 答えは です。

プラネタリー波 とは、偏西風が大規模な山脈や地形にぶつかることで、対流圏に生じる非常に大きな停滞性の大気の波動のことで、波数が1~3波長が約10,000km以上に達します。

プラネタリー波
プラネタリー波がよくわからない人へ
てるるん

プラネタリー波は、川の流れで考えてみると分かりやすいよ!

例えば、ゆるやかに流れる川に大きな岩があるとしましょう。

川の水は、岩がないところではまっすぐ進みますが、岩にぶつかると、流れが曲がったり、蛇行しながら進んでいきます。

このような現象が地球の大気でも起こっていて、偏西風が大きな山脈などにぶつかると、風の流れが曲がったり蛇行する波動が生まれます。

この波動がプラネタリー波です。

プラネタリー波は偏西風(=対流圏の西風)によって励起されますので、成層圏も西風である場合、プラネタリー波の波動のエネルギーを成層圏に効率よく伝播させることができるという特性があります。

しかし、成層圏が東風の場合、風向が偏西風とは逆向きで波動のエネルギーが分散しやすくなるため、プラネタリー波の波動のエネルギーを成層圏に伝播することが困難になります。

てるるん

例えるなら、川の流れに沿って泳ぐのは泳ぎやすいけど、川の流れに逆らって泳ぐのは大変っていうイメージだよ!

では、成層圏の風向がどうなっているか見てみましょう。

下図は、1月における帯状平均東西風の緯度・高度分布です。

1月なので 北半球冬半球南半球夏半球 です。

1月の東西風の緯度高度分布図

上図を見てみると、中層大気(成層圏から中間圏)において、冬半球では西風が、夏半球では東風が吹いていることが分かります。

プラネタリー波は成層圏が西風のときに伝播しやすいので、西風が吹いている冬半球では伝播しやすく東風が吹いている夏半球では伝播しにくくなります。

では、プラネタリー波が伝播しやすい冬半球の成層圏と、伝播しにくい夏半球の成層圏には、どのような違いがあるのか見てみましょう。

下図は、北半球の成層圏が夏半球の時と冬半球の時の天気図を比較したものです。

北極周辺の成層圏の天気図

上図を見てみると、夏半球の時は、北極付近に高気圧があって、中高緯度で東風、等温線および等高度線はともに同心円状になっています。

一方、冬半球では、北極付近に低気圧があって、その周辺で西風蛇行していることが分かります。

プラネタリー波は大きく蛇行している地球規模の波動ですので、夏半球で等温線や等高度線が同心円状になっているということは、プラネタリー波の波動が成層圏までうまく伝播していない(=伝播が弱い)ということを表しています。

逆に、冬半球で等温線や等高度線が蛇行しているということは、プラネタリー波の波動が成層圏まで効率よく伝播している(=伝播が強い)ということを表しています。

まとめると、プラネタリー波の鉛直伝播は下記のようになります。

プラネタリー波の鉛直伝播

したがって、北半球中高緯度の成層圏で、夏季に等高度線が北極付近を中心とする同心円状になるのは、対流圏で励起されたプラネタリー波が成層圏に伝播しなくなるためですので、答えは となります。

本問の解説:(c)について

(問題)一般的に、上部成層圏の気温の鉛直勾配は下部成層圏に比べて大きい。

→ 答えは です。

気温の鉛直勾配とは、簡単に言うと「上空に行くほど気温がどれくらい変わるか」という意味です。

つまり「上空に行くほど気温が大きく変化する」=「気温の鉛直勾配が大きい」という意味です。

下図は、大気の鉛直構造を示したグラフです。

大気の鉛直構造

上図を見てみると、上部成層圏下部成層圏 に比べて、上空に行くほど気温が大きく変化している(=気温の鉛直勾配が大きいことが分かります。

その理由は、オゾンの紫外線吸収による大気の加熱が関係しています。

オゾンは、生成・消滅の過程で紫外線を吸収し、大気を加熱しますので、その加熱率は

紫外線の量が多い上層ほど

酸素分子の数が多い下層ほど

熱容量が小さい上層ほど

大きくなります。

(③について、熱容量 [J/K] とは、物体の温度を単位温度、すなわち1K(=1℃)上昇させるために必要な熱量のことで、熱容量が小さいほど、その物体は暖まりやすくなります。大気上層ほど空気密度が小さく、大気が暖まりやすいので、熱容量は小さくなります。)

その結果、成層圏の大気の加熱量は、上空ほど大きくなるため、上部成層圏 の方が気温の鉛直勾配が大きくなるのです。

てるるん

オゾンについては、以下の記事で詳しく解説しているから良かったら読んでみてね!

したがって、一般的に、上部成層圏の気温の鉛直勾配は下部成層圏に比べて大きいので、答えは となります。

本問の解説:(d)について

(問題)成層圏と中間圏では、北半球の夏季の気温は北極付近で最も高くなる。

→ 答えは です。

下図は、1月の平均気温の緯度・高度分布図です。

1月の平均気温の緯度高度分布図

上図を見てみると、成層圏では、夏半球で気温が高く冬半球で気温が低くなっており、中間圏では、夏半球で気温が低く冬半球で気温が高くなっていることが分かります。

ではなぜこのような気温分布になっているのでしょうか。

成層圏

成層圏において、夏半球で気温が高く冬半球で気温が低い理由は、オゾンの紫外線吸収による大気の加熱が関係しています。

問題(c)で考えたように、オゾンによる大気の加熱率は、紫外線の量が多いほど大きくなります。

つまり、日射量が多い夏半球の方が、紫外線の量が多いので、オゾンの紫外線吸収による加熱の影響が大きくなる、ということです。

中間圏

中間圏において、夏半球で気温が低く冬半球で気温が高い理由は、大気の大規模循環による空気塊の断熱変化が関係しています。

下図は、大気の子午面循環(=経度方向に平均した、緯度・高度断面での循環)の模式図です。

大気の子午面循環

上図を見てみると、冬半球の中間圏は極に近づくほど下降気流が強まっており、夏半球の中間圏は極に近づくほど上昇気流が強まっていることが分かります。

つまり、冬半球の中間圏は下降気流による断熱圧縮によって気温が高くなり、夏半球の中間圏は上昇気流による断熱膨張によって気温が低くなるため、このような気温分布となるのです。

したがって、北半球の夏季の気温は、成層圏では北極付近で最も高くなりますが、中間圏では北極付近で最も低くなりますので、答えは となります。

以上より、本問の解答は、(a) (b) (c) (d) とする となります。

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書いてある場所:P21〜30(大気の鉛直構造、成層圏の特徴)、P256〜258(プラネタリー波)、P265〜266(準二年周期振動)


書いてある場所:P32〜39(大気の鉛直構造、成層圏の気温変化)、P364〜365(プラネタリー波)


書いてある場所:P26〜36(大気の鉛直構造、成層圏の気温上昇)、P310〜312(プラネタリー波)、P370〜373(成層圏・中間圏の気温)、P376〜380(準二年周期振動)


書いてある場所:P16〜21(大気の鉛直構造)、P121〜122(プラネタリー波)、P167〜171 (中層大気の温度分布、成層圏の気温分布、準二年周期振動)


書いてある場所:P24〜30(大気の鉛直構造、成層圏の特徴)、P234(プラネタリー波)、P294〜295(プラネタリー波の鉛直伝播、準二年周期振動)

備考

試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。

当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。

また、当記事に掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • (b)の解説まとめ「プラネタリー波の鉛直伝播」左上の高気圧の渦の回転が逆ではないでしょうか?

    • ヒビカセ様
      コメントありがとうございます。
      ご指摘のとおり、高気圧の渦の回転が低気圧性回転になっておりました。
      正しい向きに修正しましたので、ご確認よろしくお願いいたします。

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