問2
大気中を鉛直方向に運動する未飽和の空気塊について述べた次の文章の空欄 (a) 、(b) に入る語句と数値の組み合わせとして適切なものを、下記の1~5の中から1つ選べ。ただし、空気塊は周囲の大気とは混合せず、空気塊に含まれる水蒸気は凝結しないものとし、空気は地表面には到達しないものとする。
温度減率が 0.6℃/100m の大気中の高度Aにおいて、周囲の大気と気圧が等しく、周囲より温度が4℃低い空気塊を静かに放出したところ、空気塊は落下をはじめ、断熱的に下降して周囲の温度と等しくなる高度Bに達した後、(a) 。このとき、高度Aと高度Bの高度差は (b) である。
本問は、未飽和の空気塊を大気中に放出したときの空気塊の運動に関する問題です。
本問の解説:(a) について
(問題)温度減率が 0.6℃/100m の大気中の高度Aにおいて、周囲の大気と気圧が等しく、周囲より温度が4℃低い空気塊を静かに放出したところ、空気塊は落下をはじめ、断熱的に下降して周囲の温度と等しくなる高度Bに達した後、(a) 。(ただし、空気塊は周囲の大気とは混合せず、空気塊に含まれる水蒸気は凝結しないものとし、空気は地表面には到達しないものとする。)
→ 答えは 高度B付近で上下に振動した です。
まず、問題文を理解するために、下図のように図示してみます。

- TA 、TB 、TC 、TD:高度A、B、C、Dにおける空気塊の温度
- TSA 、TSB 、TSC 、TSD:高度A、B、C、Dにおける周囲の大気の温度
- ZAB 、ZBC 、ZBD:AとB、BとC、BとD間の高度差
問題文より、周囲の大気の温度減率は 0.6℃/100m です。
また、落下する空気塊は「周囲の大気とは混合せず、空気塊に含まれる水蒸気は凝結しない」との条件から、乾燥断熱減率 1.0℃/100m であると考えられます。
(乾燥断熱減率は、正確には 0.98℃/100 m ですが、計算しやすいように 1.0℃/100m とします。)

乾燥断熱減率 1.0℃/100m は問題文には与えられていないけど、気象予報士の受験生なら覚えておきたい数字だね!



うん!
ちなみに、湿潤断熱減率は 0.5℃/100m だったね!
高度Aでは空気塊の温度 TA が、周囲の温度 TSA より4℃ 低い( TA = TSA −4)ので、空気塊を静かに放出したところ、空気塊は落下を始めます。
空気塊の方が、周囲の温度よりも気温減率が大きいので、落下後は高度Bで空気塊の温度 TB と、周囲の温度 TSB が同じ( TB = TSB )になります。



空気塊と周囲の温度が同じになれば、空気塊はそのまま静止するのでは?



実は、空気塊と周囲の温度が同じになったからといって、すぐに空気塊が静止するわけではないんだ!
たしかに、高度Bで空気塊と周囲の温度が同じになると、空気塊に働く重力と浮力は等しくなります。
しかし、空気塊は高度Aから落下してきているため、鉛直下向きに慣性力が働いています。
つまり、高度Aから落下してきた空気塊は、高度Bで周囲の温度と同じになった後も、慣性力によって、高度Cまで落下します。
高度Bより下の高度でも、空気塊と周囲の大気の温度減率はそれぞれ、1.0℃/100m と 0.6℃/100m で変わらないので、高度Cにおける空気塊の温度は、周囲の大気の温度より高くなります。
数式で表すと以下の通りです。
TC = TB + 1.0 × ZBC / 100
TSC = TSB + 0.6 × ZBC / 100
TB = TSB より、TC > TSC なので、高度Cにおける空気塊の温度 TC は、周囲の大気の温度 TSC より高くなります。
こうして、高度Cまで落下した空気塊は、浮力が大きくなり、上昇を始めるわけですが、再び高度Bで周囲の温度と同じになった後も、慣性力によって、高度Dまで上昇します。
高度Dにおける空気塊の温度は、同様に計算すると、周囲の大気の温度より低くなります。
数式で表すと以下の通りです。
TD = TB − 1.0 × ZBD / 100
TSD = TSB − 0.6 × ZBD / 100
TB = TSB より、TD < TSD なので、高度Dにおける空気塊の温度 TD は、周囲の大気の温度 TSD より低くなります。
こうして、高度Dまで上昇した空気塊は、重力が大きくなって、再び落下をはじめることで、高度B付近で上下に振動するようになります。
したがって、答えは 高度B付近で上下に振動した となります。
ちなみに、この上下振動の振動数をブラント=ヴァイサラ振動数といいます。
【補足】
断熱的に運動する空気塊には、高度Bからの鉛直方向の変位に応じて復元力が働きます。
この復元力は、空気塊を元の位置(高度B)に戻そうとする力で、周囲の空気の影響を無視すれば、空気塊は振幅 ZAB の単純な上下運動(単振動)を繰り返します。
しかし、実際には空気塊が振動すると周囲の空気も動き始め、波のような形で大気中を伝わっていきます。
この影響により、振動の幅は次第に小さくなり、結果として、空気塊の振動は時間とともに減衰していきます。
本問の解説:(b) について
(問題)空気塊が高度Aから落下し、高度Bで周囲の気温と同じになるとき、高度Aと高度Bの高度差は (b) である。
→ 答えは 約1000m です。


- TA 、TB:高度A、Bにおける空気塊の温度
- TSA 、TSB:高度A、Bにおける周囲の大気の温度
- ZAB:AとB間の高度差
高度Bにおける周囲の大気の温度 TSB は、温度減率 0.6℃/100m を使うと
TSB = TSA + 0.6 × ZAB / 100m
となります。
また、高度Bにおける空気塊の温度 TB は、乾燥断熱減率 1.0℃/100m を使うと
TB = TA + 1.0 × ZAB / 100m
であり、高度Aでは空気塊の温度 TA が、周囲の温度 TSA より4℃ 低い( TA = TSA −4)ので、
TSB = ( TSA −4) + 1.0 × ZAB / 100m
となります。
TB と TSB は等しいので
TSA + 0.6 × ZAB / 100m = ( TSA −4) + 1.0 × ZAB / 100m
となり、AとB間の高度差 ZAB は
ZAB = 1000 m
と求めることができます。
したがって、答えは 約1000m となります。
以上より、本問の解答は、(a) 高度B付近で上下に振動した (b) 約1000m とする 5 となります。
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
当記事の解説は「一般財団法人 気象業務支援センター」様とは無関係ですので、情報の誤りや不適切な表現があった場合には、お問い合わせからご連絡ください。
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