【第62回】2024年８月試験（学科一般試験）問３（湿潤空気の断熱膨張と凝結）

本問は、断熱性のよいシリンダーとピストンでできた容器に封入された未飽和の空気塊における、水蒸気の混合比、温位、相当温位の変化に関する問題です。

（前提知識）混合比、温位、相当温位

まずは、本問で考える混合比、温位、相当温位について理解しておきましょう。

下表は空気塊が上昇した際の断熱変化によって値が保存するかをまとめた表です。

物理量	凝結なし	凝結あり
混合比	〇（保存する）	✕（減少）
温位	〇（保存する）	✕（増加）
相当温位	〇（保存する）	〇（保存する）

では、なぜ上表のようになるのか１つずつ見ていきましょう。

混合比

混合比 とは、湿潤空気に含まれる「水蒸気の質量」と「乾燥空気の質量」の比のことです。

式で書くとこうなります。

\(\text{混合比}=\displaystyle\frac{\text{水蒸気質量 [g]}}{\text{乾燥空気質量 [㎏]}}\)

つまり、混合比は凝結が生じない限り保存されますが、凝結すると水蒸気量が減るため（＝分母は変わらず、分子が小さくなるため）減少します。

温位

温位 とは、空気塊を乾燥断熱的に 1000hPa の高度まで移動させたときの絶対温度 [ K ]のことです。

つまり、温位は凝結が生じない限り保存されますが、凝結すると空気塊に潜熱が加わって温められるので増加します。

相当温位

相当温位 とは、空気塊を湿潤断熱的に持ち上げ、すべての水蒸気が凝結した後に 1000hPa の高度まで乾燥断熱的に移動させたときの絶対温度 [K] のことです。

つまり、相当温位は凝結が生じても、生じなくても保存されます。

本問の解説

（問題）図に示すような断熱性のよいシリンダーとピストンでできた容器の中に未飽和の湿潤空気を封入して、ピストンをゆっくりとAからCまで引き出した。その際、ピストンがBとCの間にあるときに、シリンダー内で水蒸気の凝結が生じた。ピストンがA、B、Cの位置にあるときのシリンダー内の空気の水蒸気の混合比q、温位θ、相当温位θeについて、以下の関係式 (a) ～ (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の１～５の中から１つ選べ。ただし、q、θ、θeの添え字A、B、CはそれぞれピストンがA、B、Cの位置にあるときの物理量であることを示す。また、凝結した水の体積及びこの水への熱の移動は無視できるものとする。

→ 答えは (a) 誤 (b) 正 (c) 正 です。

ピストンが A → B

ピストンを A から B まで引き出した時、水蒸気は凝結していません。

つまり、乾燥断熱的に空気塊を上昇させたのと同じ意味ですので、

・混合比：保存（q_A = q_B）

・温位：保存（θ_A = θ_B）

・相当温位：保存（θ_eA = θ_eB）

となります。

ピストンが B → C

ピストンを B から C まで引き出した時、水蒸気は凝結しています。

つまり、湿潤断熱的に空気塊を上昇させたのと同じ意味ですので、

・混合比：減少（q_B ＞ q_C）

・温位：増加（θ_B ＜ θ_C）

・相当温位：保存（θ_eB = θ_eC）

となります。

したがって、q_A = q_B ＞ q_C 、θ_A = θ_B ＜θ_C 、θ_eA = θ_eB = θ_eC となりますので、答えは (a) 誤 (b) 正 (c) 正 とする ３ となります。