問10
台⾵の⼀般的な特徴について述べた次の⽂ (a) 〜 (c) の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の1〜5の中から1つ選べ。
(a) 台⾵の中⼼に近い領域の下層では、地表⾯摩擦の影響により中⼼に向かって吹き込む気流が⽣じ、その収束による上昇流が複数の積乱雲を組織化して、眼の壁雲を形成している。
(b) ⼀般的に海⾯⽔温が⾼いほど台⾵は発達しやすいが、海⾯付近のごく薄い層のみで海⽔温が⾼い場合、台⾵の強⾵による海⽔の混合や湧昇の影響で海⾯⽔温が低下し、台⾵の発達は抑制される傾向がある。
(c) 台⾵は、海⽔温が⾼く⼗分な熱と⽔蒸気を台⾵に供給できる環境が整っていれば、北上して傾圧性が⼤きな中緯度帯まで進⼊しても軸対称の構造を維持したまま発達することができる。
本問は、台⾵の⼀般的な特徴に関する問題です。
本問の解説:(a) について
(問題)台⾵の中⼼に近い領域の下層では、地表⾯摩擦の影響により中⼼に向かって吹き込む気流が⽣じ、その収束による上昇流が複数の積乱雲を組織化して、眼の壁雲を形成している。
→ 答えは 正 です。
台⾵の中⼼に近い領域において、高度約1km以上の自由大気では、摩擦の影響をほとんど受けません。
このため、気圧傾度力とコリオリ力、遠心力がつり合った 傾度風 が、台風の等圧線にほぼ平行に反時計回りに吹いています。
一方、高度約1km以下の大気境界層では、
地表面摩擦の影響で、風速が弱まり、コリオリ力も小さくなります。
その結果、傾度風は低気圧の中心方向に曲げられ、中⼼に向かって吹き込む気流が⽣じます。

これにより、中心付近で風が収束し、強い上昇流によって、積乱雲が次々と発達します。
そして、これらが環状にまとまって組織化することで、眼の壁雲(アイウォール)が形成されます。

したがって、台⾵の中⼼に近い領域の下層では、地表⾯摩擦の影響により中⼼に向かって吹き込む気流が⽣じ、その収束による上昇流が複数の積乱雲を組織化して、眼の壁雲を形成していますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(b) について
(問題)⼀般的に海⾯⽔温が⾼いほど台⾵は発達しやすいが、海⾯付近のごく薄い層のみで海⽔温が⾼い場合、台⾵の強⾵による海⽔の混合や湧昇の影響で海⾯⽔温が低下し、台⾵の発達は抑制される傾向がある。
→ 答えは 正 です。
台風のエネルギー源は、暖かい海面から蒸発した水蒸気が雲になるときに放出する潜熱です。
そのため、海面水温が高いほど、台風は発達しやすくなります。
ただし、海水の温度は深さによって異なります。
海面近くは太陽光で温められて暖かいですが、その下の層は急激に冷たくなっています。
つまり、重く冷たい海水の上に、軽く暖かい海水が浮いているような状態です。
台風によって海面付近がかき混ぜられると、下層の冷たい海水が上昇してくるので、台風が通過した直後は一時的に海面水温が下がります。
これが、台⾵の強⾵による 海⽔の混合 です。
また、海の上で長い時間、同じ方向に風が吹き続けると、地球の自転の影響(コリオリ力)が働きます。
その結果、北半球では海面近くの水は風向きから45度右にずれた方向に動きます。
さらに深い層では、水の流れは少しずつ弱まりながら、動く方向はより右へとずれていきます。
こうして生じる海水の全体的な流れ( エクマン輸送 )は、風向きに対して直角右方向を向くのです。
てるるんエクマン輸送の説明は以下の動画がとっても分かりやすかったよ!
このような仕組みは台風でも同じように起こります。
台風では反時計回りの風が吹くため、海水は台風の中心から外側へと押し出されます。
すると、押し出された分を補うために、深いところにある冷たい水が海面へ湧き上がる現象が起きます。
これが、台⾵の強⾵による 湧昇 です。


画像出典:気象庁ホームページ「台風による水温低下」
湧昇の強さは、台風の大きさや進む速さによって変わります。
特に台風の移動が遅いときは、同じ場所で強い風が長く吹き続けるため、湧昇がよりはっきり現れます。
こうした海水の混合や湧昇は、海⾯付近のごく薄い層のみで海⽔温が⾼い場合に顕著に現れます。
その結果、海面水温が下がりやすくなり、台風の発達は抑えられる傾向があります。
下図は、四国沖に設置されたブイロボットの真上を、1988年の台風第24号が通過した時の観測データです。


上図を見ると、台風通過前に約28℃だった海面水温が、台風通過直後は約24℃と4℃も低下していることが分かります。
したがって、⼀般的に海⾯⽔温が⾼いほど台⾵は発達しやすいですが、海⾯付近のごく薄い層のみで海⽔温が⾼い場合、台⾵の強⾵による海⽔の混合や湧昇の影響で海⾯⽔温が低下し、台⾵の発達は抑制される傾向がありますので、答えは 正 となります。
本問の解説:(c) について
(問題)台⾵は、海⽔温が⾼く⼗分な熱と⽔蒸気を台⾵に供給できる環境が整っていれば、北上して傾圧性が⼤きな中緯度帯まで進⼊しても軸対称の構造を維持したまま発達することができる。
→ 答えは 誤 です。
問題 (b) でも見たように、台風のエネルギー源は、暖かい海面から蒸発した水蒸気が雲になるときに放出する潜熱で、海面水温が高いほど、台風は発達しやすくなります。
しかし、海面水温が高いほど、台風が軸対称の構造を維持できるというわけではありません。
台風が北上して傾圧性が⼤きな中緯度帯まで進入すると、傾圧性や鉛直シアの増大によって周辺に前線が形成され、次第に構造が非対称化していきます。
さらに、偏西風帯への進入や上層トラフの影響、水蒸気分布の変化などの要因が重なり、台風はやがて温帯低気圧へと変化します。
したがって、台⾵は、海⽔温が⾼く⼗分な熱と⽔蒸気を台⾵に供給できる環境が整っていても、北上して傾圧性が⼤きな中緯度帯まで進⼊すると、「軸対称の構造を維持したまま発達することができる」わけではありませんので、答えは 誤 となります。
以上より、本問の解答は、(a) 正 (b) 正 (c) 誤 とする 2 となります。
書いてある場所:P231〜242(台風)
書いてある場所:P406〜417(台風)
書いてある場所:P354〜366(台風)
書いてある場所:P155〜166(台風)
書いてある場所:P209〜226(台風)
気象庁ホームページ「台風による水温低下」
試験問題は「一般財団法人 気象業務支援センター」様の許可を得て掲載しています。
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